【この人にこのテーマ】〈日本チタン産業、2018年回顧と展望〉《日本チタン協会・杉崎康昭会長》チタン需要再び成長軌道に、米中貿易摩擦行方を注視

 今年も残すところ半月を切った。チタン業界にとって2018年はどのような年だったのか。来年の展望と合わせて、日本チタン協会の杉崎康昭会長(大阪チタニウムテクノロジーズ社長)に聞いた。(石川 勇吉)

日本チタン協会・杉﨑会長

――チタン業界にとって今年はどのような1年だったと総括しますか。

 「チタン需要が回復期を抜けて再び成長軌道に乗ってきたという手応えを感じた1年だった。スポンジチタンは航空機向けの需要が顕著に伸びている。主要輸出先の米国ではスポンジチタンの在庫水準が低いことから需要の拡大基調が続くだろう。一方、展伸材は暦年の国内出荷量が14年から17年まで4年連続で前年実績を上回り、18年も17年並みかやや上回る見込みだ。とりわけ主要分野のプレート式熱交換器(PHE)、発電プラント、電解プラント向けの需要が堅調に推移している」

――10月に開かれた米国チタン協会(ITA)主催の国際チタン会議では世界需要の堅調な見通しが示されたそうですね。

 「米展伸材メーカーの経営トップは基調講演で航空機向けの展伸材がエンジン向けと機体向けを合わせてこの先10年にわたり年率4~5%で伸びると話していた。また一般産業向け展伸材の世界需要については年5%程度の成長率と強気の見通しを示していた。航空機向けについてはおおむね一致した見方だが、展伸材の5%はやや大げさではないか。というのもこの見通しには、設備仕様によってはチタンを使わない海水淡水化プラントや、燃料電池車向けといった不確定な需要も織り込まれているからだ。世界経済の成長率を考えると2%程度が妥当とみている」

――足元では米中貿易摩擦が激しさを増しています。日本チタン産業への影響は。

 「今のところ国内のチタン関連企業に目立った影響は出ていない。ただ、堅調な世界景気を冷やす懸念がある上、米通商法301条と中国の報復関税の双方の対象品目にチタン製品も含まれている。今後の行方を注視しなければならない。日本チタン産業は輸出比率が高く、通商問題の影響を受けやすい。スポンジチタンは全出荷量の半分、展伸材は3分の2が輸出だ。中国は展伸材の輸出先として大きいため、中国の景気が腰折れすれば日本チタン産業にマイナスの影響が出るおそれがある。また、仮に米国が保護主義にさらに踏み込めばチタンに追加関税を適用しないとも限らないというリスクもある。日本のチタン関連企業の競争力が削がれることがないよう日本政府とも緊密に連携していきたい」

――通商関連では、米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)参加11カ国の新協定「TPP11」が12月30日に発効します。また来年2月には日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)も発効する見込みです。

 「TPPについては米国が離脱したことで我々の長年の懸案となっている米国の輸入関税15%の撤廃は難しい状況となっている。撤廃に向けた働きかけを継続したい」

 「欧州は米国とともに日本チタン産業にとって主要な輸出市場。今回のEPA発効はさらなる貿易の安定化につながると歓迎したい。日本のスポンジチタンとチタン展伸材はこれまでも『DUTY SUSPENSION』(関税賦課一時停止措置)が適用され、EUによる輸入関税が免除されてきたが、名実ともに撤廃される格好だ。また、3Dプリンター(3次元積層造型)向けなどで需要増が期待されるチタン粉末については5%の輸入関税が課されていた。これがEPA発効後5年かけて撤廃されることになる」

市場環境、19年も堅調続く/需要の裾野拡大へ産業間連携これからも強みに

――需要が堅調な一方、原料鉱石の値上がりが顕著な1年でもありました。

 「中国でピグメント(顔料)用酸化チタンの需要が拡大し、鉱石の需給が引き締まった影響などで鉱石価格が上昇した。チタンはピグメント用も金属用も基本的に同じ鉱石を用いるため、あおりを受けた形だ。需要が増えていることに加え、中国の環境規制が強まったことも影響した。環境規制によって中国では酸化チタンの製造法が硫酸法から塩素法に切り替えが進んでいる。塩素法では、より品質の高い鉱石を用いる必要があるという。そのため、これまで主に金属チタンに用いられてきた高品位の鉱石まで酸化チタンの製造に使われるようになり、結果として鉱石需給のタイト化につながった。足元では沈静化の気配が出ているようだ」

――電力料金の高止まりも続いています。

 「チタン業界はエネルギー多消費産業。スポンジチタンの精錬コストのうち電力は20~25%程度を占めている。東日本大震災以降の電力料金の高止まりに加え、再生可能エネルギー固定買取制度(FIT)による賦課金負担の増加もあり、国際競争の面で不利な立場に立たされている。自助努力による生産性向上やコスト削減はもちろんだが、合わせて高コスト状態の解消を訴えていきたい」

――2019年はどんな年になるでしょう。

 「世界経済に減速懸念はあるものの、チタン需要で言えば来年も18年並みの底堅さが期待できるだろう。航空機向けの需要はあまり大きな変化はないとみている。一般産業向けいついては、先ほども申し上げたとおり、米中貿易摩擦の影響が間接的に効いてくるリスクはある」

――チタン協会として重点的に取り組むべき課題はありますか。

 「チタン需要の裾野を広げるための用途開拓活動、規格の整備などをさらに進めたい。個別の会員企業の取り組みとなるが、新日鉄住金が技術開発によってチタン薄板の加工性を高めている事例は用途開拓の好例だと思う。ホンダの二輪車の燃料タンク向けに採用されるなど成果をあげている。またカナメは複雑形状のチタン製屋根瓦『段付き本瓦葺き』で今年の『グッドデザイン賞』を受賞した。一つ一つの案件がチタン需要の伸びにつながっている」

 「海外のチタン産業は航空機向けの需要を中心に発展してきた。これに対し日本チタン業界は一般産業向けを根幹とし、新たな需要を開拓しながら枝葉を伸ばすという世界的にも例をみない特徴的な需要構造をつくり上げてきた。技術開発で生み出したシーズが新しいニーズを喚起し、ニーズが再びシーズをけん引するというプラスのスパイラルを生み出し続けてきた結果だ。ユーザーと密接に連携しながら質の高い製品を生み出すという日本らしさはこれからの時代もやはり強みと捉えるべきだろう。世界中でより多く、より広く、より便利にチタンを使ってもらえるようチタン協会としても後押しする活動が引き続き重要になる」

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