【世界から】ノーベル賞授賞式、2次会があった

本庶さんがノーベル博物館に授与した額=矢作ルンドベリ智恵子撮影

 世界で最も権威のある賞の一つであるノーベル賞。その授賞式が、スウェーデンのカール16世グスタフ国王とシルビア王妃に加え、同国首相や各国大使らが臨席して、首都・ストックホルムのコンサートホールで10日に開催された。授賞式が行われるのは毎年、「12月10日」と決まっている。この日は同国出身の偉大な発明家、アルフレド・ノーベルの命日でもある。

  ノーベル賞とは、ダイナマイトを始めとする数々の発明で巨万の富を築いたノーベルの遺言を受けて1901年に始まった賞である。彼の遺産で作った基金の利子を人類に役立つ研究や活動をした人に賞金として与えられ、これらは、物理学賞、化学賞、医学生理学賞、文学賞、平和賞と五つの分野に分配される。今年の賞金額は、900万スウェーデン・クローナ(約1億2000万円)となっており、一つの賞に対し、受賞者は最高3人までと決まっている。なお、経済学賞はノーベルの遺言にはなく、68年にスウェーデン国立銀行設立300周年を記念してできた。

 ▼恒例のイベント

 受賞者は通常、授賞式の5日前~1週間前ぐらいにスウェーデン入りし、さまざまな行事に参加する。恒例行事となっているのが、ノーベル博物館への訪問である。その際、受賞者は何らかの記念品を持って訪れるという慣例がある。博物館内には、これまで訪れた受賞者の贈呈品の一部や関連資料などが展示されている。

  2018年の医学生理学賞を受賞した、京都大学の本庶佑特別教授は、座右の銘でもある「有志竟成」と書いた額を博物館に贈呈した。この言葉は、中国の歴史書に由来しており、その意味は「志を曲げることなく堅持していれば、必ず成し遂げられる」という。直筆で書かれた色紙は英語の説明文とともに、館内の売店前の壁に掲げてある。

受賞者のサインが書かれた椅子=矢作ルンドベリ智恵子撮影

  博物館を訪問した際に欠かせないイベントと言えば、受賞者が博物館を訪れた証として行う椅子の裏側へのサイン。サインされた椅子は数カ月間、館内に展示された後、博物館内にあるカフェの椅子として使われることになる。これは、他の受賞者も同様だ。サインの入った椅子にはすべて番号がついており、気になる受賞者の椅子に座りたければ、受付にあるリストで番号を教えてもらうこともできる。

 ▼ノーベルディナー

 コンサートホールでの授賞式が終了した後は、場所をストックホルム市庁舎に移し、華やかな晩さん会が行われる。約1340人のゲストが招待され、いわゆる「ノーベルディナー」を食しながらダンスやオーケストラの演奏を楽しむ。授賞式、晩さん会ともドレスコードがあり、男性はえんび服、女性はイブニングドレス、もしくはその国の民族衣装を着ることもできる。

  本庶さんは、日本人らしく紋付き羽織はかま姿で臨んだ。滋子夫人の美しい着物姿も相まって、ひときわ目を引いた。

  本年度の「ノーベルディナー」は、根菜などの野菜を中心にしたメニューだったというのが新鮮だった。前菜と主菜は、ストックホルムの人気グルメレストラン「Lilla Ego」のシェフでもあるトム・ショーステッド氏、デザートは、「K―märkt」のパティシエ、ダニエル・ロス氏が手掛けた。料理には、北部でとれたイワナや南部で栽培されるリンゴなど、スウェーデンの食材が使われた。ストックホルム市庁舎に併設されたレストランでは、事前に予約すれば「ノーベルディナー」を味わうことができる。

本庶さんのサイン=矢作ルンドベリ智恵子撮影

▼「2次会」も

 意外と知られていないのが、晩さん会後に開かれる「Nobel Night Cap」。いわゆる「2次会」にあたるパーティーだ。これは、ストックホルムにある四つの大学が持ち回りでホスト校となり、企画運営する。受賞者は高齢の方が多いため、晩さん会が終わった午前0時からのパーティーに参加する人は限られてくるが、主催する学生と交流できる機会ということで、楽しみしている人も多いとか。本年度は、ストックホルム中心部にあるストックホルム商科大学で開催されたが、この企画がスタートして40周年の記念の年ということもあり、朝方まで大いに盛り上がったようだ。

  今年のノーベル賞で私自身が注目した点は、カナダのドナ・ストリックランド・ウォータールー大准教授に物理学賞が贈られたことだ。同賞が女性に授与されるのは何と55年ぶりで3人目。同じ女性として素直にうれしい。さらに、ノルウェーの首都オスロで授賞式が行われた平和賞には、紛争下の性暴力の撲滅を訴え活動してきたコンゴ(旧ザイール)の産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏と、過激派組織「イスラム国(IS)」に拉致されて性奴隷にされた自身の体験を証言することなどを通じて、性暴力の根絶被害を訴えてきたイラク人女性ナディア・ムラド氏が受賞した。

  これは、「#Me Too」(「私も」の意)運動を始めとするセクハラや性的暴行被害を訴える活動との共通点もあり、女性に対する性の暴力、人権の問題を進めていくことにつながることに期待したい。 (スウェーデン在住ジャーナリスト、矢作ルンドベリ智恵子=共同通信特約)

今年の「ノーベルディナー」から。主菜の「焼いた根セロリにアンズタケのクリームとマッシュルームバター(前列右)。スウェーデンカブにベイリーフクリーム(奥)。じっくりローストした牛肩肉を西洋ネギのテリーヌなどで包んで(前列左)」(C)Nobel Media AB 2018,Photo:Dan Lepp

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