東京のIT企業、京都に拠点続々 人材争奪で過熱懸念も

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Sansanが京町家にオープンした「京都ラボ」。東京のIT企業が次々と京都市内で拠点を開設している(京都市中京区麸屋町六角下ル)

 インターネットサービスや人工知能(AI)を用いたソフトウエアなどを手掛ける東京のIT企業が、京都市内で次々に開発拠点を開設している。首都圏は大手メーカーなども含めて技術者の獲得競争が激しく、大学が多い京都で有望な学生や留学生らを確保する狙いだ。IT拠点の集積はソフト産業の活性化につながる一方、専門人材の争奪が京都で過熱する懸念も出ている。

 板張りの薄暗い部屋に設けたパソコンに向かい、技術者2人が黙々とプログラミングにいそしむ。利用者が200万人を超す名刺管理アプリ「エイト」を運営するSansan(サンサン、東京)が10月初旬、京都市中京区で稼働したAI技術の開発拠点「イノベーションラボ」だ。

 拠点では、大量の名刺を正確にデータ化して活用するAI技術の研究開発を手掛ける。東京ではIT系の人材採用が難しいため、学生や外国人が多い京都への進出を決めた。賃借した築110年の京町家を大規模改修し、仕事場のほか業界関係者が集う和室のイベントスペースも整えた。

 「京都は技術者だけでなく、芸術家などクリエーティブな人材も多い。多様な人々とつながり、革新的なサービスを生みたい」(ブランドコミュニケーション部)という。

 成功報酬型の求人サイトを運営するリブセンス(東京)も9月、京都市役所に近い中京区のビルに、開発拠点の「京都オフィス」を開設した。狙いは大学だ。京都の学生をインターンシップ(就業体験)で受け入れ、新たなアイデアやニーズの掘り起こしを図る。

 サイバーエージェントは6月、東南アジア向けのインターネット広告を制作する「京都グローバルクリエイティブセンター」を京都リサーチパーク(下京区)に開設した。東南アジア出身のデザイナーを採用し、インドネシア向けを足掛かりに、拡大する東南アジアのネット広告市場を開拓する。

 京都大に近い左京区に拠点を構えるのが、AIサービスのエクサウィザーズ(東京)。前身は京大発のAIベンチャーで、京大や理研とAIを用いて創薬を効率化する共同研究を進めている。

 家計簿アプリなどを展開するマネーフォワード(東京)も来春、開発を主体とする支店を中京区に立ち上げる計画を明らかにした。学生や外国人に加え、「京都に住みたいというIターン希望の技術者を受け入れたい」(広報部)という。

 東京だけではない。作図・共有サービスを提供するITベンチャーのヌーラボ(福岡市)は、2010年に京都市に拠点進出し、今年2月に下京区の島原地区にあるビルにオフィスを移転、拡張した。働く環境にこだわり、社員自らがリフォームを手掛けた。

■革新的な起業創出注目

 IT企業が次々に拠点進出する京都市内では、AIの開発やデータ解析といった技術者たちが交流する新たなコミュニティーが生まれつつある。

 今年6月に下京区の四条通沿いのビルで開発拠点をオープンしたLINEは月1回程度、IT技術者向けの交流会を市内で催している。毎回テーマを設け、技術者や学生の参加を募集。今月15日に開いたテーマは「モバイルアプリ」で、100人以上が参加した。

 LINEの開発拠点は、東京、福岡に続き国内3カ所目。「関西はコンピューターサイエンス分野の優秀な学生が多く、特に京都の労働環境は魅力的。海外の人材も含め、採用面で大きなメリットがある」(広報)と判断したからだ。京都の拠点に在籍するスタッフは現在19人で、半数の10人は外国籍。将来は100人規模に拡大する計画を描く。

 相次ぐ拠点進出でIT人材の獲得が難しくなる可能性もあるが、京都で創業したインターネットサービス企業はてなの田中慎樹コーポレート本部長は「ITのエンジニアが増えると、企業のほかに大学、研究機関も含めたコミュニティーが活性化し、さらに人材の集積が進む」とみる。

 増加するITの開発拠点が新たな人材を呼び込み、革新的なサービスや起業を生み出すITエコシステム(生態系)の源泉となるか。京都での胎動が注目されている。