【日本鉱業協会が創立70周年 関口明会長に聞く】高機能・高品質素材で社会に貢献 製錬所の安定操業へ資源安定確保

 日本鉱業協会が今年で創立70周年を迎えた。その歴史は国内鉱山の閉山に代表されるように苦難の連続だったが、そうしたあまたの困難を乗り越えつつ、非鉄金属素材の安定供給や循環型社会推進の担い手として広く社会に貢献してきた。今後も業界を取り巻く環境は予断を許さないが、自動車電動化や情報社会の高度化に不可欠な非鉄金属への期待はいっそう高まっている。関口明会長(DOWAホールディングス社長)に業界の歩みと展望を聞いた。(相楽 孝一)

日本鉱業協会・関口会長

――協会創立70周年を迎えて感想を。

 「非鉄金属業界が扱う資源は性格上、経済的な動きだけでなく、政治的な動きにも翻弄されてきた経緯がある。このため、改めて歴史を振り返り、先達方がその時代、時代で大変な苦労をされてきたことを再認識し、頭が下がる思いだ。同時に、そうした中でも国内鉱山が操業していた時代から業界を支えてくれた従業員、関係者の方々の尽力に対しても敬意を表したい」

――業界の歩みを振り返って。

 「協会の設立当時は日本鉱業協会という名前の通り、国内鉱山が主流だった時代。そこから20年ほどがたち、変動為替制への移行、プラザ合意など為替の問題で国内鉱山の経済性が失われていき、各社とも買鉱製錬を強化する時代に移る。そしてこの20年ほどは各社が製錬だけでなく、素材メーカーとしてそれぞれに特徴のある事業構造に転換してきた時代と言えるかと思う」

――特にこの10年は事業環境が目まぐるしく変化しました。

 「リーマンショックに始まり、東日本大震災、業界で言えばインドネシアの鉱業法改正もあった。特にこの10年は新興国経済の急成長を背景に資源獲得競争が激化する一方、資源ナショナリズムの高まりや大きな自然災害などもあって経済性以外のリスク要因が従前より多様化し、かつその変化の度合いが激しくなった印象だ。一方で中国経済の急成長で非鉄金属価格のステージは一段上がった。これは業界に追い風だが、それも変化の度合いを大きくした背景の一つと感じる」

 「そういった経営環境の下、国内製錬各社は固有の技術を磨き、それをベースに各社独自の事業構造を作り上げてきた。それによって非鉄資源という共通項を持ちつつも各社が特長ある成長を続けてきたし、今後もそうした形で発展していけば良いと思う」

――いわゆる資源のスーパーサイクルが終焉し、厳しい事業環境もあった。

 「ただ、需要がマイナス側に振れるかといえば決してそうはならない。今後は中国経済が急成長した一時期のような急激な需要拡大は想定しにくいかもしれないが、緩やかでも成長は続くはずだ。一時的な成長鈍化に対するセンシティブな反応で足元の相場は少し落ち込んでいるが、これは過去にもあった小さなサイクルの一つだとみる。さらに言えば銅も亜鉛も足元の水準であれば各社が操業中の鉱山にとって決して悲観するレベルではない」

――この10年はレアアースショック、自動車電動化の動きなどもあり、資源に対する社会の見方が変わった。

 「比較的注目を集めやすくなったのは確かだし、需要家の原料確保に対する考え方も変化したように思う。だが、学生などの関心が高まり、人材確保につながっているとまで言えないのが頭の痛いところ。一方で資源の安定確保に向けて政府や関係省庁が積極的に支援してくれていることは非常に心強く感じる」

――会長自身が業界で特に印象に残る出来事は。

 「私が入社した当時はまだ非鉄金属鉱山がいくつか稼働していた。それが菱刈鉱山を残して全てなくなったというのは大きな変化の一つ。それとリサイクルに対する社会の関心の高まりも大きな変化かと思う。一方で東日本大震災を機に電力代が高止まりしていることは業界にとっては見過ごせない変化だ。足元では良い方向への変化や新たな好機もあるが、総じて言えば厳しい環境変化に見舞われていると感じる」

――長年にわたって業界が社会で果たしてきた役割は大きい。

 「非鉄金属はあらゆる産業の基礎素材として活用されており、特に最近は日本の非鉄産業が得意とする高機能・高品質素材に対するニーズがより強まっている。そうした高機能・高品質の素材は足元の米中貿易問題の関税のような障壁があっても買い手はいる。日本企業はそういうところをいっそう磨いて活路を見いだすべきだし、各社ともそれができるだけの実力が備わっている」

――自動車の電動化、情報社会の高度化などで非鉄金属に対する期待は高まっている。

 「非鉄金属は4千年以上にわたり人間社会に関わってきた。今後もその特性をさらに高める研究開発が進み、社会に必要不可欠な素材であり続けることは間違いない。だが、例えば電線市場のような新たな巨大市場が生まれるかと言えば個人的には逆の動きが進むと思う。高機能・高品質、薄型化・小型化・軽量化がキーワードになるだろうし、それが進めばボリュームとしては小さくなる。だが、付加価値は高まるため、非鉄素材を供給する各社の収益構造にとっては悪い話ではないし、技術力による差別化もできる。そこが腕の見せどころだし、十分勝機があると思う」

――リサイクル分野での貢献も期待されている。

 「昨年のバーゼル法改正は協会が果たした大きな成果の一つと言える。これによって二次原料の調達面で海外企業との競争の土台が整備された。リサイクルもグローバルな競争にさらされており、そこで国内の規制が海外勢との競争に著しく不利な影響をもたらすものであれば協会として改善を求めることは必要だと思う。一方で資源循環という面では、現状は製錬所で再生できる二次原料は限られる。そこを技術開発するのか、あるいは収集、前処理などの部分で社会的なシステムを改善するのかが必要になるかと思う。そうなればわれわれだけでは難しいだろうが、関係する省庁や多団体などと協力しながら当協会も何かできることがあるかもしれない」

――国内製錬会社の資源確保の取り組みをどうみていますか。

 「銅も亜鉛も国内外を含め製錬所の規模を拡大していくという動きはおそらくないと思う。だが、原料鉱石の安定供給源をいかに確保するかは基幹工場である製錬所の操業安定化の重要なポイント。かつて日本は世界の鉱石市場で主役だったが、最近はその座が中国やインドに移り、相対的に日本のプレゼンスが低下した。そこでわれわれが原料を安定確保するために選んだ手段が海外鉱山の自主開発であり、足元ではそれが正解だったと思う。だが、昨今は単純に資源量や経済性などの条件だけではなく、地域なども重要な要素となる。そういう意味では有望な案件、地域は少なくなっており、そこは政府系機関によるリスクマネー供給など政策的な支援を得ながら進めるしかない。それでも100%を自前鉱山からというのは非現実的で、ある程度の自山鉱比率を確保するというのが各社の進める戦略だと思う。リサイクル、新素材開発でも核となる技術は製錬所が抱えていることが多く、各社とも製錬所を停めるという選択肢はないと思う。その製錬所を安定的に操業していくためにも原料の安定確保が最重要課題で、現時点での最善の手段が自主開発鉱山だということだ」

 ――今後も業界が発展していくために必要なことは。

 「やはり人材の確保・育成が最重要だ。これは各社個別に取り組むべき課題だが、個社の取り組みでは足りない部分をどう支援していくかというのが協会の重要な役割の一つ。近年は業界として人材確保の取り組みを強化しており、効果も出ているが、まだまだというのが正直なところだろう。だが、これはまだ始めたばかりだし、もう少し地道に気長に取り組むことが重要だと思う」

 「例えば資源ナショナリズムや保護主義といった動きに対して協会として対応することは難しいが、政府に働きかけて何か支援制度のようなものを提案していくことも時代の変遷に伴って必要になるかと思う。欧米、今後は中国なども含めた海外資本との協業による鉱山開発案件などが増える可能性がある。その中で国内企業が動きやすい制度の枠組みを考え、政策提言するような役割が出てくるかもしれない」

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