集落守る太陽の神「オヒデリ様」に感謝 対馬・阿連「本山送り」

 長崎県対馬市厳原町阿連(あれ)の雷命(らいめい)神社で15日、神無月(旧暦10月)のため不在だった氏神の代わりに集落を守ってきた太陽の女神「オヒデリ様」を、山に帰す伝統行事「本山(もとやま)送り」=市指定無形民俗文化財=があった。氏子ら約50人が雷命神社から山中にあるオヒデリ様のほこらまで練り歩き、感謝の祈りをささげた。

 阿連では旧暦9月29日から、氏神で雷神の「雷大臣命(いかつおみのみこと)」が雷命神社から出雲に出掛け、代わりにオヒデリ様が山から下りて住民を守ると伝えられている。雷大臣命は旧暦10月29日に戻り、その後10日間は同神社に両神が鎮座するとされており、本山送りは、懐妊したオヒデリ様を山中のほこらに帰す神事として、毎年旧暦11月9日(今年は12月15日)に執り行っている。

 この日は、橘一門(かずかど)宮司(70)が束ねた女竹に御幣を差した「大カナグラ幣」にオヒデリ様を移す神事を雷命神社でした後、江口一也区長(58)を先頭に約1キロ先のほこらに向かって出発した。江口区長が「いざや いざや とのばらや とのばらや とのばらを元の山にお送り申す」と口上を唱えると、一行は「おー」と声を上げ、ほら貝を吹いたり、太鼓やかねを打ち鳴らした。シカの神役の子どもが、石積みの陰から飛び出し大人を驚かすしきたりもあった。

 上流のほこらに着くと、一行はろうそくに火をともし河原に正座。橘宮司が御幣などをほこらに奉納し、祝詞を奏上した。参列者には出発前にブリの切り身、到着後に新ソバの粉が振る舞われた。

 橘宮司は「阿連は、古語の誕(あ)れ(神の誕生)から名付けられたともいわれる。祭りには1年の豊作、豊漁を感謝する意味合いもあるのではないか」と話している。

大カナグラ幣を抱え、口上を唱える江口区長を先頭に、オヒデリ様を上流のほこらに送る地元住民=長崎県対馬市厳原町阿連
オヒデリ様を見送り、橘宮司からおはらいを受ける住民。写真左奥は、山中にあるオヒデリ様のほこら

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