心揺さぶった少女の決意 世界に広がるパラ公認教材

国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長(後列右から3人目)と記念撮影に納まる、絵画・作文コンクール受賞者の小学生たち=2日、東京都内

 「I'mPOSSIBLE アイム ポッシブル(私はできる)」―。

 学校教育を通じて障害者スポーツや共生社会への理解を深めるため、国際パラリンピック委員会(IPC)が開発した公認教材「I'mPOSSIBLE」の世界各国への普及が進んでいる。その国際版発表1周年を記念して日本全国の小学生を対象に実施された「すごいぞ!パラリンピック」絵画・作文コンクールの表彰式で、病気と闘う1人の少女の力強い決意がIPCのパーソンズ会長をはじめ、人々の心を揺さぶった。 (共同通信=田村崇仁)

「君はファイター」

 題名は「車いすテニスの佳南子選手が教えてくれた強い意志」―。作文の部で銅賞に選ばれた静岡市立伝馬町小学校4年の中司杏実(なかつか・あみ)さんは、母のいとこであるパラリンピックに3大会出場した堂森佳南子選手(43)との交流を通して勇気をもらいながら、2度の手術に立ち向かってきた強い意志と感謝のメッセージを発信した。

 最後は2020年東京大会で応援する自分自身の姿を思い描き「がんばれ!堂森佳南子選手!がんばれ!パラリンピアン!苦労したからこそ人に与える感動は大きいよ!そして、がんばれ!私!強い意志で困難を乗り越えよう。やるぞ!」と明るい声で読み上げ、締めくくった。

 東京都内での表彰式に同席し、感動で目を赤くしたブラジル人のパーソンズ会長は「君はファイターだ。あなたがパラアスリートに逆に勇気を与えている。私自身もあなたの言葉に心を動かされた。会場にいる皆さんに勇気が伝わった」と称賛した。そして中司さんを含む受賞者の小学生8人を20年東京大会に家族同伴で特別招待する意向を表明した。

堂森佳南子選手と銅賞に選ばれた中司杏実さん(右)

目標は181カ国

 IPCは「社会変革のツール」として若者の教育プログラムを開始し、日本でも公認教材が全国の小学校約2万校に続き、中学や高校、特別支援学校を合わせて計約3万6千校に配布された。教材名には「不可能(Impossible)と思えたことも、創意工夫でできるようになる」というパラリンピック選手たちが体現するメッセージが込められている。

 IPCによると、既に日本をはじめ16カ国と公認教材を導入する契約を結び、目標は181カ国・地域と提携を結ぶこと。障害がある人々に対する先入観を取り払い、次世代の子どもたちの意識を改革する狙いがある。日本パラリンピック委員会(JPC)の鳥原光憲会長は「パラリンピックのファンづくりには学校教育と子どもたちが最も大事。今回の絵画・作文コンクールはパラリンピック教育の一つの成果が表れた。日本の成功事例を世界に発信していくことが重要だ。子どもたちがパラの価値を理解し、魅力を伝える役割を果たしてくれていることに感動した」と総括した。

公認教材配布に合わせ初めて行われた公開授業で、パラリンピック競技のシッティングバレーボールを体験する児童=2017年4月、東京都東久留米市

日本がモデルに

 昨年からIPCのトップに就任以来、35カ国を回って教材の普及に努めてきたパーソンズ会長は「日本のパラ教育は非常にポジティブな兆候がある。皆さんが絵を描いたり、作文を書いたりしてくれたヒーローには強い勇気がたくさん詰まっていた。パラの価値、スピリットが通じていると分かった。東京大会の閉会式の時にこれまでにない過去最高の大会だったと、言えるのではないかな」と感心した様子だった。

 競技団体の支援などに取り組む日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)によると、公認教材の国内使用率は全国の小学校でまだ15%程度。今後はこの数字を上げていくことが課題になる。IPCのゴンザレス最高経営責任者(CEO)は「社会を変革に導くには教育が重要なツール。若者への教育が大人への啓発にもつながる」と指摘。「日本が画期的な試みのモデルになってほしい」と教材が世界中で活用されることを期待している。

 I'mPOSSIBLE(アイム ポッシブル)日本版 国際パラリンピック委員会(IPC)公認の教材。パラリンピックの歴史や価値と、競技を体験する実技で構成。障害があってもなくても工夫をすれば一緒にスポーツを楽しむことができることを体感し、多様性や共生社会の促進を考える内容となっている。最初は全国の小学校に配布し、18年からは中高生版も発表された。

表彰式であいさつするIPCのパーソンズ会長

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