一番効率がいい勝ち方とは 栃木ブレックス ♯10 竹内公輔

ブレックスは「ライアンとジェフのチーム」

「このチームはライアンとジェフのチームなので、僕は、まぁこんな感じです」

10月29日に行われた北海道戦後のヒーローインタビューで、竹内公輔はさらりとこう述べた。

この試合、竹内は11得点、7リバウンドを記録している。これが素晴らしい数字であることは明らかだが、25得点を獲得したロシターや、12リバウンドを奪取したギブスと比べれば、「まぁ、こんな感じ」と言いたくなる気持ちは分からないでもない。

しかし、あれだけチームのために体を張ったプレーをしていながら「ライアンとジェフのチーム」と言い切ることに、少しの違和感を覚えた。その裏で、どこか納得することもできた。こういう認識でプレーしているから、ああいった献身的なプレーができるのだろう、と腑に落ちたからだ。

竹内はこの小さな違和感に、明確な答えをくれた。

「go-to guy(重要な場面で頼りになる存在)って、チームに1人は必要だと思うんです。川崎のニック・ファジーカスのように、勝負所でボールを持ってディフェンスのズレを作ったり、そのままシュートまでいける選手。そういう存在って、うちではライアンとジェフになると思うんですよね。僕は自分がチームのエースになろうなんてこれっぽっちも思っていないし、いかに彼らが気持ち良くプレーしてチームを勝たせるか。そのサポートをするのが自分の仕事で、それがこのチームが勝てる一番の方法だと理解しています」

 

2週間は絶対安静

竹内は、開幕前に行われたアーリーカップ後から膝の調子が悪く、それから2週間はずっとバスケットもトレーニングもできない日々を過ごした。

「MLBの田中将大選手とか大谷翔平選手とかも打っている注射を打ったんですけど、これが結構、厄介な注射で、打つと2週間は絶対安静で動いちゃダメなんです。だから練習を見学して、終わったら帰ると。体も動かせないし、常に安静。全く2週間何もしない状態だったので、そこから試合勘を戻すのに苦労しました。序盤の3、4試合は大変でしたよ。今は調子も戻ってはきているんですけど、無理して痛くなるのは嫌なので、トレーニングも様子を見ながらやっています」

 ホーム開幕戦となった10月12、13日の富山戦は、まさにプレータイムを制限される中での試合出場となった。

 「開幕前のプレシーズンゲームで、川崎、渋谷、沖縄、韓国のチームとも試合をしたんですけど、僕はずっとベンチで試合に参加できませんでした。開幕前のその時期っていうのは、チームの連係を高める大事な期間なんですけど、そこでプレーできなかったことがすごく大きかったです」

以降、少しずつプレータイムを伸ばし、試合勘を取り戻していった。

チームとしては安齋HC体制2シーズン目となりチームケミストリーが醸成され、橋本、山崎など新たな戦力が台頭。さらには、渡邉、遠藤、鵤など中堅選手の活躍と、多くの選手たちの成長がチームの好調を支えている。そうした中、ベテランと呼ばれる世代に入った竹内は、自身の役割についてこう述べる。

 「うちのチームは、『ディフェンス』『リバウンド』『トランジション(攻守の切り替え)』という武器があるので、その3つをしっかりやることが第一。ディフェンスリバウンドはチーム全員で取るものですけど、オフェンスリバウンドに関しては、ガード陣はそんなに取りに行くものではないので、自分がオフェンスリバウンドで存在感を出したいと思ってやっています。あとは、トランジションでも存在感を出したいですね。トランジションオフェンスでしっかり自分が生きれば相手にとって脅威になると思うし、相手を疲れさせることができると思うので」

 

一番効率がいい勝ち方とは

リバウンドで奮闘した後に、速攻の先頭を走る竹内の姿を昨シーズンから何度も目にしている。竹内は、「大学の時に結構走らされたのでそれが染みついているんだと思う」と謙虚に話すが、かつて孤軍奮闘でチームを引っ張っていた広島在籍中は、毎試合40分近く出場していたため、そういうプレーができなかった。しかし、多くの選手が活躍するブレックスでは毎試合20分程度の出場となり、「出た20分は全力でプレーをしていきたい」と、出せる力は出しきるというプレースタイルに変わった。

「僕は広島にいた時にチームを引っ張る存在だったんですけど、結果として広島を勝たせることができなかったんです。それでブレックスに入った時(2016-17シーズン)に、自分がどういうプレーをしたらチームに貢献できるのかということが分からなくて、結構迷っていたんです。でも、結局は“今のようなプレー”が一番チームの助けになるんだと気付きました。自分がファーストオプションでやるより、ライアンやジェフがファーストオプションでやった方が確率がいい。実際、それで試合にも勝てていますから。今シーズンは彼らのコンディションもいいし、彼らが一番ディフェンスのズレを作ってくれているので、そうすることが一番効率がいいということを、みんなも理解していると思います」

 

数字には残らない頑張り

竹内が話す「今のようなプレー」とは、体を張って味方に付くディフェンスの行く方向を遮り、味方を自由にさせるプレーや、ビッグマンでありながら速攻の先頭を走ることだ。竹内が相手ディフェンスの壁となることで、味方シューターはオープンなシュートが打てるし、速攻の先頭を走ることで波状攻撃を仕掛けたり、ディフェンスを引き寄せてパスを出し、味方に外からシュートを打たせることだってできる。

ただ、残念なことに、こうしたプレーは数字には残らない。シュートを決めているわけではないので、歓声も上がらない。でも、「それでいい」と、竹内は笑う。

「もう、若くないのでチームのエースになろうなんて思ってないし、自分は2番バッター的な感じでいいです。4番バッターになろうなんて思ってません(笑)」

 

 ブレックスが他チームと大きく違う点は、自分の数字や活躍にこだわる選手がいないことだ。「数字にこだわらない」「チームのために」と口で言うのは簡単だが、それを心底理解してプレーで表現することは難しい。ましてやチームを引っ張ってきた経験がある選手なら、その自信やプライドが邪魔をすることもあるだろう。そうした自我をチームの勝利に向けられる選手を、一流と言うのかもしれない。

 安齋HCは「誰が何点取ったかなんて気にしていない」と断言するほど、評価の基準は明確だ。「チームのために」を第一に考えてプレーする集団が、個人技で勝負するチームに勝つ。その瞬間に立ち会えるは、この上ない楽しみである。

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