現役引退、1軍コーチ就任のロッテ根元 3年目の殊勲打は「オレ、やっちゃったよ!」

今季限りで現役を引退した根元俊一氏【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

プロ通算13年で通算583安打、204打点をマークした根元

 自宅で部屋の片付けをしている時だった。いくつかの写真が出てきた。サヨナラ打を放ち、右手を大きく突き上げガッツポーズをしている写真。チームメートたちが駆け寄り抱き合っている写真。今シーズン限りで13年の現役生活に別れを告げた根元俊一はプロ通算で583安打を放った。打点は204。チームのために打ったそのすべてが思い出深いが、ふと見つけたそれらの写真に、あの日の記憶が昨日のことのように鮮明に蘇った。

 2008年4月13日のファイターズ戦(当時千葉マリン)。13時1分試合開始。曇り空の少し肌寒いデーゲームで根元は「1番・遊撃」でスタメン出場。プロ入り初のサヨナラ打を放った。

「思い出深いですね。その時、同期入団の細谷がプロ入り初めてスタメン起用された。一緒にお立ち台に上がったんです。お互い初めてのお立ち台。一緒に上がれたのは思い出深いです」

 試合が緊迫した投手戦であったことも記憶を鮮明にしている。ファイターズ先発のグリン投手は9回1失点。負けじとマリーンズ先発の渡辺俊介も9回を1失点。そして10回のマウンドにも上がり、無失点に抑えた。その裏の攻撃。この回からファイターズのマウンドには武田久投手。先頭の今江敏晃(現楽天)が中前打で出塁すると続く細谷圭の犠打が野選となりチャンスは広がる。さらに田中雅彦も犠打を試みて、これまた野選。珍しい形で無死満塁と好機は広がった。

 打席にプロ3年目の根元が向かった。「オイオイオイという感じ。無死満塁のチャンスで打席が回ってきちゃったよと」。当時の事を根元はそう振り返った。初球、ベルト付近に来たストレートをはじき返し、流し打ちした。打球は三塁手の頭上を越えていった。

「あの時は本当に集中をしていた。凄い集中力。打てるゾーンに来たらなんでも打ってやろうと考えておもいっきりスイングした。集中力の大切さを痛感した試合でしたね」

 1塁をまわるとチームメートが駆け寄ってきた。ベンチからは先輩の大松尚逸と竹原直隆が猛ダッシュで走り寄り抱き合って喜んでくれた。二塁走者だった細谷が続く。そして同じ年で仲のいい三塁走者の今江が満面の笑みで駆け寄り、抱きついてくれた。思わず口から出た言葉は「オレ、やっちゃったよ!」だった。

 本拠地での初のお立ち台には先発で10イニングスを投げて完投勝利の渡辺俊、同期で7回にプロ初打点となる貴重な同点右前適時打を放った細谷と一緒に上った。今も鮮明に思い出す幸せな瞬間だった。

「3年目でようやく1軍に定着できた。最初の2年間はファームでは結果を出せたけど1軍では思うようにはいかなかった。開幕から1軍で自分に勢いがあって、ただガムシャラに生きた日々だった」

 この年は110試合に出場して打率.296、3本塁打、29打点。シーズン前から取り組んでいた打席でのタイミング(間)の使い方が功を奏した形となった。ただ、反省もした。その状態が、シーズンを通しては維持できなかったからだ。長いシーズンを戦い抜く厳しさを知った1年でもあった。

コーチ業の難しさに直面し自問自答を繰り返す日々

 引退後、根元はすぐに1軍内野手守備・走塁コーチに就任した。その実直な人柄が評価されての大抜擢だった。秋季練習、秋季キャンプ、台湾遠征を終えて今、コーチ業の難しさと向き合っている最中だ。

「同じ野球でこんなにも見方が違うのかと思う。自分は選手に寄り添ってあげる存在になりたい。こっちの自己満足では意味がない。自分がどういう選手になりたいのか。そのためにどうすればいいのかをしっかりと説明できるコーチになりたい」

 コーチ修行の身。先輩コーチ陣から色々なアドバイスをもらっている。「一番、ダメなのは分からないまま進めてしまうこと。だから分からないこと、悩んでいることは先輩コーチの皆様に素直に話をして意見をもらうようにしています」。そう話すように練習の合間に、宿舎の食事会場で、色々な人に意見を求める根元の姿が見受けられた。

 シーズンオフになった今もZOZOマリンスタジアムには根元の姿がある。誰よりも早い時間。選手に迷惑をかけないようにと選手がまだ姿を見せる前に室内練習場でノックの練習を重ねる。選手にとって有意義なノックを打つためにはどうすればいいか。2019年春季キャンプに向けて自問自答を繰り返す毎日だ。「体を動かさないのは気持ち悪い。もうウェートをガンガンすることはないけど、ランニングとかはしてしまいますね」と笑う。

今季限りで現役を引退した根元俊一氏(手前)【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

第2の人生は指導者「プロは技術だけではなく人としても模範とあるべき」

 現役時代から大事にしてきたのは人間力。技術はもちろん大事だが、プロとして人間力が大事だと思って生きてきた。人としてどうあるべきか。その点ではいつもブレなかった。自分にも他人にも厳しい男だ。

「野球を辞めてからの人生の方が長い。今は野球をやっていればいいと思うかもしれないけど、そうではない。多くの人に見られるプロは技術だけではなく人としても模範とあるべき。マリーンズの選手はしっかりしているなあと言われるように指導をしていきたい」

 2018年9月27日、根元は引退を発表した。そして10月7日のホークス戦。本拠地にて引退試合が盛大に行われた。あの日、先輩たちに祝福され抱き合い、初めてのお立ち台に導かれた若者はいつしかベテランと呼ばれる存在となっていた。

 試合後のセレモニー。場内一周をする際にライトスタンド前で立ち止まり、耳を澄ました。スタンドのファンは根元のために応援歌を歌い続けていた。こんなにスタンドから近い距離で自身の応援歌に耳を傾けるのは初めてのこと。一生忘れないようにと目を閉じ、聞き入った。応援歌は愛に溢れていた。「俺たちとこのチームで、いつまでも根元 今こそ見せてくれ 勝負に賭ける思いを」。

 根元はファンに愛されユニホームを脱いだ。人間としてどうあるべきか。自らが貫いた姿勢が評価されていたからファンは慕い応援をした。幸せな野球人生はこれから第2章に突入する。人生はこれからの方が長い。(マリーンズ球団広報 梶原紀章)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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