「オリンピックに向け、今できる事を全力で」 黒後 愛(東レアローズ)

バレーボール女子日本代表(火の鳥NIPPON)のエースとして2018女子世界選手権(世界バレー)で活躍した20歳の黒後愛(Vリーグ女子・東レアローズ)。宇都宮市出身で高校女子バレーボール界の名門・下北沢成徳高校(東京)在学時には1年からエースを担い、全日本バレーボール高校選手権大会(春高バレー)で2年、3年の時に連覇。17年春に入団した東レでは1年目からレギュラーとしてプレミアリーグを戦い、新人賞を獲得するなど輝かしい実績を残した。その実力から元日本代表の木村沙織さんの後継者として期待され、東京オリンピックでも日本代表の中心としての活躍が望まれている日本女子バレーボール界の期待のヒロインだ。

【動画】黒後愛選手からのメッセージ

 特別で中身の濃い半年だった

 

 黒後は2018年5月に開催された国際大会・ネーションズリーグで全日本デビューを果たした。続いてインドネシアで開かれた第18回アジア競技大会、9~10月にかけて行われた世界バレー出場と、全日本での活動が続いた。世界バレーは4年に一度開催される3大大会とも呼ばれる大会。出場国も多く大会期間も長い。日本代表としては、2年後の東京オリンピックを見据え、今シーズンの「最重要」と位置付けていた大会でもある。

 

――ネーションズリーグから世界バレーまで、半年以上も日本代表として活動したわけですが、振り返ってみていかがですか。

 半年間いたという実感がなくて、あっという間でした。特に最後の世界バレーは日本開催ということもあって、恵まれた環境でやらせてもらっているというのを実感しながらバレーができて、本当にあっという間でした。思い返してみると、どの年も終わってみたらあっという間と思うことが多いですけど、今年はやはり自分の夢だった場所に立てたので、それはすごくうれしかったです。

 自分が全日本、日本代表なんだっていう実感はあまり湧かなくて、でもやはりそこに立っている事実は変わらないし、そこに立ったからには勝ちたいという思いが強くなりました。そういう意味でもすごく中身の濃い年になったと思います。

――ネーションズリーグで遠征中に20歳になりましたが、今まで生きてきた中でも格別な年だった?

 そうですね、世界バレーの日本開催って限られたもので、そこに出場できることは特別じゃないですか。その大会に出られた、出させていただけたということは、すごく大きなものだったんじゃないかって自分でも思います。

 

ショックだったデビューのセルビア戦

 

 黒後のデビューは5月16日のネーションズリーグ初戦、ブラジルで行われたセルビア戦。スタメンで起用されたが、スパイクが決まらず1セット途中で交代となった。得点はわずか2点。世界の洗礼を浴びた。しかし、日本でのオランダ戦、香港でのイタリア戦などで再びスタメンで出場し本来の力を発揮。後半は9戦中7戦に先発出場し、最終的に158得点とチームで最多得点と活躍した。

 

――それでは、全日本デビューとなったネーションズリーグを振り返ってください。初戦のセルビア戦は厳しいデビューとなりました。

 ショックでした。きっと、どこかに(世界で通用するプレーが)できるという気持ちがあったんでしょうね。だからショックを受けるんですよね。それでも次にスタメンで出る機会を与えてもらえたので、悔しかったけど今できる事は何なのかと頭を切り替えました。次の日には切り替えられました。試合の直後は悔しくて涙も出ましたが、その日はノートに向かっていろいろ書きつけて悔しさを晴らしました。

――続いて日本国内の開催となって、オランダ戦で再びスタメンで出場し10得点でした。

 セルビア戦ですごい、なんかいろいろ考えていたのかな。自分なりに考えているつもりだったんですが、考えてのプレーがあれだったんで(笑)。考えなきゃいけないこともあるとは思うんですけども、この試合は開き直ってプレーしました。

――その後、香港でのイタリア戦ではチームトップの23得点で勝利に貢献する大活躍でした。試合前、中田久美監督と話し込んでいたテレビ映像がありましたが。

 「諦めないことが大事だよね」ということを伝えてもらいました。すごく当たり前の言葉なのかもしれませんが、何か心に響きました。自分的には初戦であれだけひどいプレーをしているので、もう一回、しかもスタメンで使ってもらえるということに感謝したいという気持ちでいっぱいでした。

 (試合を)しっかり見返してみると、ほんとにとんでもないミスもしているし、ありえない動きとかも結構あるんですが、気持ちの面でというのは納得してできたかな。

――ネーションズリーグのベストゲームと中田監督が挙げたタイ戦はどうでしたか。2セットを取られてからの逆転勝ち。しかも最終セットは15点制なのに22―20という大接戦でした。その中で2セットを取られた後の3セット序盤のリードされたタイムアウトの円陣で黒後選手が「大丈夫、これからだから」と声をかけたことを中田監督は「最年少の黒後が声を掛ける。気持ちの、心の強い選手」と評価していました。

 タイ戦は相手のホームでの試合だったので、お客さんもたくさん入っていて応援がすごかったです。すぐ横の選手にも大声を出しても聞こえないくらいでした。相手の勢いもあったので、自分たちも難しい試合になるという覚悟をして臨んだのですが、やはり最初の勢いはすごかった。

 3セット目が勝負だなっていう気持ちがあって、このセットを取ったら何かが変わるかもという思いで臨んで、それがしっかり結果になって取り切れたというのはうれしかったです。

 声をかけたことは覚えてないんですよ(笑)。ホントに、全く覚えてないです。プレーは何となく覚えているんですけど。

 

世界バレーは全然満足していない

 

アジア大会ではタイ、中国などに敗れメダルなしと思いもかけない結果に終わる。結果を求められて臨んだ世界バレー。世界の強豪24チームが出場し3週間にもわたる長丁場。勝ち進むと1~3次ラウンドを戦い、その上で6チームが決勝ラウンド進出という厳しい戦い。黒後は初戦からスタメンで出場し存在感を示したが、試合が進むにつれ世界の壁に阻まれ、サーブレシーブでも狙われるなど苦戦した。日本は6位に終わり黒後自身も課題が残った大会となった。

 

――世界バレーはそれまでの二つの大会と違って特別でしたか。

 そうですね。世界バレーは期間も長くて、チームの数も多いので勝ち抜くことがすごく厳しい大会ということはチームの誰もが分かっていたので、チーム全員で戦う覚悟を一人一人が持って臨んだ大会でした。

 たくさんの方と話をさせていただいて、どれだけ多くの人がこの大会に関わっているとか、どんな人の想いがこの大会にかかっているのかとかを聞く機会がたくさんあったので、自分たちだけが戦っている訳ではないということをすごく感じた大会でした。

 対戦国の選手もギアを切り替えて、かけてくる思いとかがあったと思います。そういう思いの募ったプレーを感じました。目の色だったり、プレーもそうなんですけど、1点を取った後の吠えている姿とか、これが世界バレーなんだっていう重み、違いを感じました。

――初戦のアルゼンチン戦にスタメンでコートに立ち、バックアタックなども決めてストレート勝ちに貢献しました。1次リーグでは日本代表の中で、トップの得点を記録しました。

 スタメンは前日に言われましたが、緊張はしなかったです。初戦はしっかり勝ってその後につなげたいという思いでした。出たからには自分の役割をしっかり果たしたいという気持ちでいっぱいで、とにかく一つ一つのプレーをすることで1点1点につながって勝てればいいと思っていました。

――大会の後半は途中交代するケースもありました。

 コートに立ちたい思いはありますが、自分が何もできていなかったので。代えられても、コートの外でもチームのためにできる事はたくさんあると思っていました。自分が出ているときにはコートの外でチームのためにフォローしてくれている先輩方がたくさんいるので、自分もコートの中にいても外にいても、今、チームのために何をするのがベストなのかということを考えていました。

――世界バレーを終えてみて、自分のプレーについては。

 全然満足していません。自分で納得したプレーはありません。一番印象に残っているのは3次ラウンドのセルビア戦です。今までセルビア戦では納得できるプレーができたことがなくて。ネーションズリーグでの悔しい思いも結構自分の中で残ってましたし、今回の優勝もセルビアで、そういったチームに対して点を取る、自分の役割を果たすことができなかった。すごく悔しくて、心に残っています。

――同じポジションの古賀紗理那選手、石井優希選手のプレーはどうですか。 

 ほんとに紗理那さんと優希さんはすごいです。何というか1点を取るのにも工夫をしていて、攻撃面もそうですがディフェンスの面でも、「何でこんなプレーができるのだろう」というプレーを見せられました。自分もあの場面でこういうプレーをしたいと思うようなプレーをするんです。技術では勝てないんで、気持ちで勝負しよう(笑)と思ってます。気持ちしかないので(笑)。

――黒後選手にとって中田監督はどんな存在?

 難しいな…。すごく選手に考えさせてくれるけど、しっかり支えてくれて。そうですね、自分が苦しい時に助けていただきましたし、細かいところまでプレーも見ていてくださって、小さな変化にも気付いていただきました。いろんな所に気を遣っていろんな言葉を掛けてくれます。ホントに選手側に立ってくれる監督です。

――セルビア対イタリアの決勝戦は見ましたか。

 はい、宇都宮の実家で家族とテレビで見てました。両チームの選手の気迫や迫力がすごくて、バレーを良く知らない人でも感じられるもの、伝わるものがあって誰が見ても面白いと思ってもらえる試合だったと思います、点を取った後のパフォーマンスやサーブを待っている時の表情など、そういう所でいろんなものが伝わってくる決勝戦でした。(同じ世代の)ディヤヌ・ボシュコビッチ選手(21)=セルビアやパラオ・エゴヌ選手(19)=イタリア=がプレーしていて、両チームに勝ちたいと思いました。

――ところで家族からは何か言われましたか。

 すごく応援してくれていたんですけど、世界バレーに出てたことが「変な感じ」「信じられない」と言ってました(笑)。

 

全日本はずっと選ばれたい場所

 

――全日本でプレーして課題が見つかりましたか。

 攻撃面では長いラリーだったり、苦しい場面はサイドにハイセットのトスが集まることが多くなるので、ブロック2枚の状況をどう決めるかがすごく大事だと思いました。世界はやはり日本とは違いますけど、戦い方によって勝敗は変わると思うし、自分の技術で変えられることはいくらでもあると感じました。体格差はあると思いますけど、そこを埋めるために何が必要なのかを考えていきたいです。速いトスを強い打球の強いスパイクでもっと打ち込めるようにしたいという思いがあります。打ち分けができて、なおかつそこにパワーとスピードがあるというのが自分の理想です。課題は多いですが、しっかりとトレーニングしていきたい。

――全日本は黒後選手にとってどんな存在ですか。また、東京オリンピックは。

 なんだろう、そうですね、その場にずっと立っていたい、ずっと選ばれたいとは思います。カテゴリー別の代表に出ていた時と、昨年(2017年)、社会人になってから世界ジュニアで試合させてもらった時と、何か違った気持ちがその時点でありました。でも、全日本でプレーしている自分というのは、また違いました。世界のトップと戦って、その国ごとの熱というのがすごい伝わってきて、それにお客さんの数とか会場の雰囲気とか全然違いました。あの場にすごくいたいと思います。

 東京リンピックはやはり出たいと思います。自分が生きている間でオリンピックが日本で開かれることはすごいことだと思うし、こんな機会はもう2度とないでしょう。出られたらそれはすごいことで、そこに向けて今何ができるのか考えて頑張りたいです。

 

リーグ戦で若さ武器に優勝目指す

 

――Vリーグの新シーズンが11月から始まっています。1年目の昨年はほとんどの試合に出場し、最優秀新人賞も獲得しました。

 本当に全然大したプレーもできないのに、シーズンを通して出させていただきました。ずっと試合に出られたという事はすごく自分にもいい経験になりました。毎週試合があって、何カ月という長い期間を戦い抜くことは初めての経験でした。気持ちの面でも体の面でも自分をコントロールする大切さを学びました。試合に負ければ悔しいですし、勝つためにやっているわけですが、それよりも大事なことは次の試合に勝つことだと思うので、その切り替えが大切と感じました。

 新人賞はその年しかもらえない、一生に一度の賞なのでうれしかったです。

――東レで2年目となりますが、今年のチームには年下の選手や、新外国人選手なども加わって、昨シーズンとは違った新しいチームという陣容になっていますね。

 今年のチームは本当に若いので、若さを武器にしたいと思っています。とにかく「東レは見てて楽しくなるよね、面白いよね」と思ってもらえるチームが目標です。その中で勝つという事にこだわっていきたいです。チーム全員が昨シーズンの結果(6位)には納得していないので、そこを追求していきたいです。今年のテーマは「執粘」で、目指すのは優勝です。

――最後に、栃木県のファンに一言を。

 新リーグでは東レは西地区所属なので、関東方面に行くことが少なくなってしまいました。それでも多くの人に関心を持ってもらって、バレーボールを見てくださる方や好きになってくださる方が増えるとうれしいです。機会があったら試合を見に来てください。自分のプレーでバレーボールのファンが増えるように頑張ります。そして。栃木の子どもたちが私のプレーを見てバレーを好きになり、自分でもバレーを始めてくれたらうれしいです。

 鷹箸浩・文 荒井修・写真 

 

黒後 愛(くろご あい)1998年、宇都宮市出身。横川西小3年の時に小学生女子バレーボールクラブ「サンダース」でバレーボールを始め、主将として全国スポーツ少年団交流大会で3位に。若松原中2年生で全日本中学選抜のメンバーに選出される。東京・下北沢成徳高校で1年生からレギュラーとなり、アウトサイドヒッターとして2、3年生で全日本高校選手権大会(春高バレー)2連覇と2年連続MVP。V・プレミアリーグの東レアローズに加入し、新人賞を獲得。日本代表にネーションズリーグでデビュー。2018年女子世界選手権でもエースとして活躍した。

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