氷点下20度の野外でタダ働き、若者の命を奪う「ブラックな現場」

北朝鮮で進められている超大型国策事業、三池淵(サムジヨン)開発。建設労働者として投入されているのは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の建設部隊や、突撃隊と呼ばれる、各地の工場、企業所、機関などから駆り出された人々からなるタダ働き素人集団だ。

北朝鮮の建設プロジェクトの労働環境は劣悪で、様々な工事現場で死者が続出している。

金正恩党委員長は工事の進み具合がよほど気になるのか、今年に入って3回も現場の視察を行った上で、何が何でも2年以内に工事を完成させよと指示を下した。現地はすでに氷点下20度を下回る極寒となっているが、それにもかかわらず工事の強行を命じたのだ。そんな無茶振りが、今回もまた1人の青年の命を奪ってしまった。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、恵山(ヘサン)市保安署(警察署)の関係者と、現場に復帰した別の突撃隊員から聞いた話として、亡くなったのは平安南道(ピョンアンナムド)の价川(ケチョン)から来た20代男性Aさんだと伝えた。

Aさんは機械工場で務めていたが、三池淵に送り込まれる突撃隊の人員として選ばれた。経済的に余裕のある人は「代打労力」と言って、カネを払って人を雇い、自分の代わりに送り込むが、Aさんにはそれだけの余裕がなかったようだ。

Aさんが三池淵の建設現場で働き始めたのは今年8月のことだ。しかし、1ヶ月もすると三池淵には初雪が降り、気温が氷点下まで下がった。当初は健康体だったAさんだが、1日12時間に及ぶ重労働に、寒さ、環境の劣悪さも加わり、気力・体力ともに激しく消耗していった。

やがてAさんは倒れてしまった。しかし、現場には医療施設は存在しない。上役は「面倒を見る人もおらず、治療も保障されないので、家に帰れ」と命令した。家までの交通費は自己負担だ。

高熱にうなされながら恵山駅に到着したAさんは、駅のそばの旅館に転がり込んだが、その日の夜に息を引き取ったという。遺族は賠償金も何も得られないだろう。

三池淵の現場では、工事を一刻も早く完成させるために、極めてひどい環境のなかで無理な仕事をさせていることで、現場から逃げてしまう人が続出し、逆に工事が遅れる結果を生んでいる。

「突撃隊員たちは、3ヶ月持ちこたえれば『労働勇士』、半年持ちこたえれば『労働英雄』だと(自嘲して)言っている。12月に入って風邪と凍傷で苦しむ人が増え、もはや工事は進められないとの見方が出ている」(情報筋)

戦中の日本の「国民総動員法」のような状態を70年も続けてきた北朝鮮。きちんとした設備や施設を整え、労働者に賃金を払うという当たり前の考えには至らないようだ。そうして貴重な人命が失われていく。

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