第9回:AIで地震は予知できるか? 人が苦手なデータ分析でパターン解明も

地震研究のアプローチとしてAIも有効な選択肢になるかもしれません(写真は6月の大阪北部地震で被害を受けた大阪府高槻市の家屋)

■神のみぞ知る大ナマズのきまぐれ

地震の予知は私たち日本人にとってある意味悲願でもあります。地震学者たちは長年にわたって地震予知の研究に取り組んできましたが、今一つ決め手に欠けるのです。地震発生のメカニズムはわかりますが、肝心のいつどのくらいの強さで発生するのかがはっきりしません。

「平面上に一つずつ順番に砂粒を落とし続けていくと、だんだん高く大きな砂山ができてくる。そして、n番目の一粒を落とした時、山はとつぜん崩れる。この実験を繰り返して毎回n番目の砂粒で崩れるという規則が見つかれば、山崩れの予測は可能なのだが、実際には不可能だ。それが何番目の砂粒でどのくらいの規模の山崩れになるのかは毎回異なるからだ」。何かの科学の本にこんな意味合いのことが書いてありましたが、地震の起こり方というのもまさにこれと同じでしょう。

ちなみに日本には「緊急地震速報」というシステムがあります。地震発生直後に最初に発生する微動(P波)の到達を察知してアラートを出し、その後に発生する大きな揺れ(S波)が到達するまでの数十秒の間に、人々に何らかの安全確保の行動をとってもらおうというものです。実際に地震が発生したことを検出して役立てる仕組みですから予測とは異なりますが、身を守るための手段としてこれを緊急対応手順などに組み込んでいる組織もあります。一歩先を行くシステムであることは間違いありません。

とは言え、これが役立つのは2011年の東日本大震災のように震源が離れているときです。地震があなたの街のすぐ近くや真下(つまり震源に近いところ)で起こった場合は、P波やS波が伝わる距離が近すぎて、その時差を利用して安全を確保する時間はほとんどなく、難を逃れるのは容易ではないでしょう。

■地震のノイズから予兆を知る

冒頭から地震を予測するなんて無理であると悲観的なことを述べてきました。が、意外にもイギリス・ケンブリッジ大学のウェブサイトに「実験室で地震の予測に機械学習を使用」というタイトルの記事がありましたので、これを参考に気を取り直して地震予測のアプローチを覗いてみましょう。
https://www.cam.ac.uk/research/news/machine-learning-used-to-predict-earthquakes-in-a-lab-setting

イギリスとアメリカの研究グループが地震の予測に機械学習技術を使い、実験室で模擬的に地震発生のタイミングを予測し、これを実際の地震に応用しようという試みです。ここでは機械学習に取り込むデータとして「音響データ」を使うと記事は述べています。

地震と地震を起こすきわめて小さな動き、断層の相互作用から地震を予測しようというものですが、このとき断層の動きから発せられる音を分析してそのパターンを機械学習に使うらしいのです。

実験室では鉄のブロックを用いて実際の地震に近い物理的な力を真似ることによって、そこから発せられる地震の信号と音を記録します。このとき機械学習を使って断層から伝わっている音響信号と崩壊の近さとの関係を見出すのだそうです。

これまで機械学習と言えば、素人の筆者などはせいぜい目に見える色や形や動きなどがデータとして使えるのだろうと思い込んでいました。が、ただのノイズでしかない音を地震の予知に使おうというのは初めての試みであるとのこと。ルート・ルデュックという研究者は「人間では手に余る膨大なデータセットを機械学習はバランスよく分析してくれるので、さまざまな発見ができるのだ」と述べています。

■よりリアルな実験環境を目指して

しかし、実験は実験、あくまで仮想の環境でAIが地震を予知できるとしても、それだけでは十分に喜べないことも確かです。暗闇の中でパッと輝く光はどんなに小さな光でもまぶしく感じるものですが、実際にはどれだけの実現可能性を秘めているのでしょうか。

専門家は、実験室と現実の地震とではさまざまな相違点があることは確かだが、実験環境と似たような系に適用してスケールアップしていけるのではないかと期待しています。そう言えば、アメリカにも日本にひけをとらない危険なエリアがあります。1906年と1989年にサンフランシスコ付近で大地震を引き起こしたサンアンドレアス断層がそれです。また、太平洋岸北西部のカスケード断層も過去に大地震や大津波を発生させています。専門家はこれらの断層で起こる小さな地震が実験室でのシミュレーションに近いことを挙げ、期待の根拠としていると記事は伝えています。

いつどこで地震が起こるのかを音響パターンでとらえるわけですから、もしこのAIが実用化されれば、いろいろと用途が広がるでしょう。狭い国土と急峻な地形を持つ日本の自然環境で、さまざまな崩壊の音のパターンを機械学習に学ばせれば、山崩れや土砂崩れ、火山の噴火、雪崩発生のアラートにも応用できるのではないでしょうか。

AIの特徴である機械学習と高速の計算処理が行えるコンピュータ、膨大なデータセットが三位一体となれば、さしもの偶発的事象の典型である地震も、人類の最大の挑戦の一つであった「予知」に屈する時が来るのかもしれません。今後の展開が楽しみです。

(了)

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