生きがいづくり多彩 介護老人保健施設を訪ねて  長崎「エスポアールそとめ」 できること 少しでも長く

 長崎市上黒崎町の介護老人保健施設「エスポアールそとめ」は、定期的に絵手紙、音楽、習字などの教室を開催。利用者の生きがいづくりや楽しみづくりに力を注いでいるという。同施設を訪ねた。

■刺 激
 絵手紙教室は月2回。水曜午前、大きなテーブルには季節の花やくだものなど絵手紙の題材が並んでいる。講師で西彼長与町の画家、石本邦彦さん(74)は、参加者に良い刺激を与えようとジョークを連発。絵の題材としてゆでたカニを持参したこともあるらしい。
 入居者、通所者らが車椅子や手押し車で続々とやってきた。介護職員に付き添われた100歳の中山ハル子さんの姿も。中山さんは神経を集中させて少し震える手で赤カブを描き上げ、「恥ずかしか」と笑顔だ。
 15年前に神奈川県から移り住んだ松野純子さん(84)は、近くの高齢者マンションで1人暮らし。週3回、通所リハビリでここに通う。「もともとおしゃべりだけど長崎に親戚はいないし、イントネーションが違って会話がかみ合わず、まだ親しい友達がいない。だからエスポアールでの会話が楽しみ」。教室は孤独を感じさせない社交の場でもある。
 音楽教室も月2回。声楽家で県音楽連盟会員の北川クミさんが、18年前から講師を務める。昔を思い出してもらうような曲を選び脳に刺激を与え、認知症を食い止めることができれば-。そんな思いで指導する。普段はほとんど会話しない人が歌いだすなど、これまでに効果がでている。
 離れたテーブルでは、入居者と作業療法士が積み木を使って頭のトレーニングに励んでいた。

■支 え
 施設は平屋建てで4700平方メートルと広々。食事や風呂に行くには移動距離があるが、それもリハビリ。極力自力で移動できるように介助することが大切という。介護福祉士の丸尾典子さん(58)は「介助で最も難しいのが排せつ。人間の尊厳と向き合うことになる。残存能力を見極め、できるところは自分でやってもらい、できないところを介助している」と語る。
 入所者は約100人、平均年齢88歳。通所者は20~30人ほど。運営側は医師、看護職員、介護職員らで利用者とほぼ同じ人数だ。
 日浦かおる副施設長(51)は「地域では、お年寄りが見守り合って暮らしているが、限界がある。高齢になればできないことが増えてくる。でもできることもたくさんある。できることを少しでも長く続けられるよう、誰かが支えなければならない」と話す。

絵手紙制作を楽しむ松野さん(右)、中山さん(右から3人目)。講師の石本さん(右から2人目)が笑顔で指導する=長崎市、エスポアールそとめ

© 株式会社長崎新聞社