おはよう世の中、トーキョーは夜の七時

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 12月のトーキョー。

 街のイルミネーションがキラキラ揺れるトーキョーの夜の七時。

 カタカナで記すとまるでどこか架空の未来都市のようにも思えるそれ。

 特にこの時期、ひとり街を歩いていると誰かに会いたい気分に駆られる。

トーキョーの夜景キラキラ

 『東京は夜の七時』(1993年)はピチカート・ファイヴの楽曲。

 ファイヴというけれど、小西康陽さんと野宮真貴さんの二人によるグループ。

 この曲は『ウゴウゴルーガ2号』という子ども向けテレビ番組のオープニングの歌だったことをふと思い出した。

  

 それから、2016年リオデジャネイロ・パラリンピックの閉会式で流れ話題になり、現在はなんと東京タワー60周年の応援ソングになっている。

 発売25年目にして東京タワー60周年の応援ソングとは!

 

 実際、『東京の夜は七時』の当時のPVには東京タワーが出てくる。

 今年発売の新バージョンの7インチレコードのジャケット(CDも)の写真がまた素晴らしく、ついジャケ買いしてしまったほど。

 

東京タワーと野宮真貴さんのお似合いのショット

 この大胆な写真は、シュルレアリスムからヌード、ファッションまで網羅する有名な写真家アーウィン・ブルーメンフェルドによるエッフェル塔とモデルの作品からインスパイアされたものだろう。塔好きならば一度は模倣してみたいショット、塔に立つ美女とはためくドレスのドレープが実に美しい。

 余談になるが、シュールな写真といえば過去に私も篠山紀信氏によるヌードグラビアでシュールリアリズムを意識したヌード撮影をした。マン・レイやブルーメンフェルドなどからインスパイアされるシュールな写真への挑戦、撮影は本当に面白い。(小学館・デジ紀信サイトより配信中)

 

篠山紀信撮影による顔に掛かる光と影がシュールなショット

 「ハヤクアナタニアイタイ」

 シュールな歌詞にオシャレなメロディ。

 野宮真貴のどこか昭和歌謡ポップスの匂いがする歌声の魅力。

 呪文のようにつぶやくこの歌詞。

 何度も聴いているうちに、いったい誰に会いたいというのだろうかと、この曲の歌詞の謎に突っ込んでみたくもなる。

 オトナの恋をしていたあの頃。

 ちょっとやさしい女だった時代。

 海外ロケで東京から離れ帰国すると、東京の街は嘘みたいにやけにキラキラ輝いてみえたのは、歌の通り本当だった。

 「こうして眺めると東京の夜景もいいよね」などとつぶやきながら、首都高から東京タワーが見えると、急にワクワクしたものだ。

 

 「お腹が空いて死にそうなの」

 ズッキーニの花のフリットがうまかった店。

 暗いカウンター席はノワールの世界で真紅の口紅が映えた。

 

 その店もなくなり記憶の中にあるだけ。

 あの店のことをよく覚えているのは、暗闇の秘密技のアバンチュールや深く飲んだことよりも、酔った瞳に映るイヴ・クラインの『青のヴィーナス』だった。あれは本物だったんだと思うのだが。

  いつも行く先々になにかが待っていてキラキラ華やいでいる街、トーキョー。

 

ジタン愛煙のやさしい女時代

 

 先日、沖縄っこを連れて芝公園のレストラン『ワカヌイ』へラム肉を食べに行った。

 バルコニーからは東京の名所・東京タワーがドーンと目の前にみえる。

 「おお、リベット、リベット! 工業高校出身としてはリベット止めのあれこれが気になってしまうんですよ!」

 東京タワーのリベット止めにそこまで愛を感じ、興奮して語り出す沖縄っこも面白い。

 「朝鮮戦争の米軍戦車があの展望台の上らへんなんですよ。米軍戦車、M4シャーマンとかM47パットンとか。特殊鋼なんで超頑丈なんですよ東京タワーって!だからモスラの繭もキングギドラもガメラも東京タワーを狙うんですよ!」熱く語る沖縄っこに、昭和の沖縄の少年の横顔が覗く。

 

 なるほど、朝鮮特需、戦争の歴史がこんな目にみえるところに刻まれているとは。

 

立体視で飛び出すリベット止め

 私と東京タワーの関係は薄い。 

 東京タワーに登ったのは30歳を過ぎてから。

 ギンガムチェックのテーブルクロスがやけに目をひく昭和感満載の大食堂や値札のついた水族館。

 そこへ、なぜかプログレッシヴロック歌手がずらり集結した蝋人形に遭遇。

 プログレ好きを魅了するタンジェリンドリームで有名なクラウス・シュルツェなどがずらり並ぶ中、現在来日中のキングクリムゾンのロバート・フリップのお姿も拝見した。

 そんなロックな蝋人形館やタワー入口あたりに太郎と次郎のブロンズ像なんてのもあったが「東京五輪招致」のために現在は撤去されている。

 昭和感が満載で嬉しくなってしまった東京タワーとの最初の出会い。

 現在それらは一切なくなったが、東京タワーはいつだって新しい何かを発信しているのだ。

 

 ちなみに、東京タワーでは60周年特別企画として、『“夜の七時”のライトダウン伝説』というイベントが今年12月20日とイブとクリスマスに開催される。

 会期中は夜7時にタワーの塔体照明が消え、60周年記念ソング『東京は夜の七時』が流れ、メインデッキ南側にハートマークが点灯する。

 

 鉄でできた東京タワーの胸にハートマークがなんだか愛らしい。

 インスタ映えじゃないが、南側には写真を撮る外国人観光客で賑わっていた。

 車だと首都高芝公園あたりを通過中によくみえる。

 

 なんと東京タワー誕生は12月23日。

 その日は還暦祝いの赤色サーチライトで照らされ「60」の文字が浮かぶ「還暦の東京タワー」が出現するらしい。

 12月21日から23日の3日間限定。

 きっと23日の誕生記念日にタワーに登れば、いろんなお楽しみが待っているにちがいない。(詳細は東京タワー公式サイト参照)

  

 東京タワーといえば、映画のロケ地にも多く使われている。

 小津安二郎作品『秋日和』(1960年)の冒頭に出てくる東京タワー。

 桜の枝越しの東京タワーの赤白が、当時のカラーフィルムに初々しく焼きついている。私はこの作品の岡田茉莉子扮する寿司屋のお嬢さんと、とんかつ屋「若松」の女将役の高橋とよの演技が大好きで、何度もみて観察し、演技を真似てみるのだが小津映画の演技はとんでもなく難しい。

 

 何事もよく観察することの大切さを教えてくれたのはハナ肇さんだった。

 クレージーキャッツのメンバーのうち、ハナ肇さんと植木等さん、谷啓さんと共演した夢のような履歴がある私。

 

 映画ロケ中、セットの片隅でじっと何かを観察しているハナさんからお声をかけられた。

 「おい娘、ここからじっくりとあいつの演技よーくみてな。なあ、下っ手くそだろう?!」。豪快に笑うハナさんの傍でひとの演技を観察することの大切さについて学んだ映画ロケはどんな学校に通うよりも学び多かった。

 

 植木さんは大変真面目な方だった。畏れ多くも相手役として共演した直木賞サスペンスドラマだったが、なんと10代の冨永昌敬監督がそれを見て私のファンになったと聞いた。谷啓さんは静かな物腰の柔らかい方で、先輩の姿とはこうあるべきだと学んだ。

 

 クレージーキャッツ10周年記念映画『大冒険』にも東京タワーは登場する。

 大俯瞰の東京タワーがどでーんと登場する冒頭からラストまでアクション、円谷特撮などで大盛り上がりする私と同じ1965年に生まれた大好きな1本だ。

 

 そういえば、朝の連ドラの主題歌『アイデア』を歌う星野源はクレージーキャッツの大ファンだと今年初めて知った。

 酷暑の夏、毎朝あの歌を聞くたびに、特に好きな歌でもない上に、紅白に出場が決まっているわけでもないのに大晦日のNHKホールで歌う彼のカメラのカット割りまで妄想するほど。

 

 そしてある日『アイデア』のPVをみてのけぞった。

 星野源は一人でクレージーキャッツを体現しているではないか!

 

 しかも、星野源が大好きなクレージーキャッツの曲は私も大好きな『大冒険マーチ』らしい。

 

 「おはよう世の中」と歌い出す朝ドラの主題歌からクレージーキャッツと星野源の関係性について刷り込まれた暗号を読み取るのにこんなに時間がかかったとは。

 これにはハナ肇じゃないが「ドンガンドンガラガッタ」とのけぞり驚いた。

 そうだったのか!

 

 昭和が一つずつ消えて行く中で、クレージーキャッツの精神を継承できるのは星野源しかいないかもしれないという予感。

 しかも彼は、ハートマークに光る今の東京タワーがよく似合う男だ。

 

 現代の植木等よろしく、白いタキシードで小躍りしながら朗らかに『アイデア』を歌う星野源の姿が目に浮かぶ。

 こりゃ年末の楽しみが一つ増えてなんだか嬉しいではないか。

 

ハートマークに光る東京タワー

 『東京は夜の七時』の歌詞は、失われゆく都会の風景の中で、ずっと会えずじまいで走馬灯のようにぐるぐる廻る二人をも思わせる。

 人生は夢の如し、新しい何かにいつも胸ときめかせているような。

 

 待ち合わせした店はどんどん姿を消し、渋谷パルコ跡地の囲い壁には、暁テル子「東京シューシャインボーイ」が轟きそうな伝説の漫画・大友克洋『AKIRA』のネオトーキョーがババーンと描かれていた。

 

 変化する街。それがトーキョー。

 

 「おはよう、世の中」と生活のメロディにのってモノクロの夢をみながら、色付きテレビをみつめる私にも、新しいトーキョーがきょうもどこかで生まれているのだ。

  

 「ハヤクアナタニアイタイ」

 なんども唱えれば、会えるのかしら。

 アナタに。アナタという名のトーキョーに。