復興途上のまちを知ろう 坂―呉間を走るサイクリングピクニック開催

西日本豪雨で、住宅全壊数が166と、広島県内の市町の中で一番多かった坂町。土砂災害発生個所は、確認できただけで16件にのぼる(広島県災害対策本部 7/28)。また、死者16人、行方不明者1人と、人的被害も大きかった。今なお約200世帯が仮設住宅で暮らす。

しかし、いつまでも立ち止まってはいられない。

復興しつつある元気な坂町、海も山もある坂町の「今」を、サイクリングしながら巡る「きんさい坂町!禅ぱんサイクルピクニック」が12月9日に開催された。

イベント主催者は、坂町鯛尾でベーグル店「禅ぱん」を営んでもうすぐ7年になる折出隆幸さんと妻の由美子さん。自宅や店舗に直接の被害はなかったものの、折出さん家族は避難所生活を経験し、店舗は1週間閉店を余儀なくされた。閉店している間は、町内のボランティアに励んだそうだ。営業再開直後は交通網の混乱や、国道31号の渋滞もあり、来店数が1/10に落ち込んだという。

「被害が大きかったので、現状をよく知らない人は『坂って今どうなってるんだろう』と思っているはず。復興したとは言えないまでも、ぐるっとサイクリングしながら、坂町が元気なところを見てもらいたい。そして、被災地の景色をそっと心に留めてもらえたら」と、企画した理由を話す隆幸さん。折出ファミリーもサイクリング愛好家。この日はサイクリング仲間やフェイスブックなどでイベントを知った人など、総勢22人のサイクリストが参加した。

朝9時には参加者全員が集結。この日は、遠くは岩国市や廿日市市からも参加があった。

始めに隆幸さんが「元気な坂町を見てもらって、ベーグルを食べて、楽しんで。自転車仲間を増やして楽しんで帰ってもらいたいです。途中、交通量の多いところもあるので、手サイン、声掛けで意思の疎通をはかりながら、安全に約40キロを走行してください」とあいさつ。その後、一人一人が簡単な自己紹介。「みんなで走るのが楽しみです」「一生懸命ついて行きたい」「終わったら禅ぱんが食べられるのがうれしい」との言葉も。

参加者は3つのグループに分かれ、時間差で出発。最初は海沿いの平たんな道が続く。山側を見れば、ガードレールが大きく曲がり、土砂が流出した跡が今もくっきりと残っている。

坂西3丁目付近。河川の氾濫の跡が生々しく残る。家へとつながる橋がいくつも崩落し、一時孤立した所もあったという。土砂が積もったままの、手付かずの箇所もある。

禅ぱんの近くに住む西野和司さんは、サイクリング歴10年のベテラン。「今日はいいメンバーと走ることができ、最高の気分。ペースが速いけれど、しっかりついて行きたい」と笑顔。

西野さんの住まいは被災しなかったものの「この辺りの以前の姿を知っているだけに、見るのがつらい。友人の家も半壊したしね」と話す。「もし手伝ってほしいと声が掛かれば、どこでも力になりたい」

この先には、結構な登り坂が待ち構える。「激坂」「頑張って」と、由美子さんと子どもたちの応援団がエールを送る。

坂町上条地区と、植田地区を結ぶ「上条トンネル」。全長約110メートル、幅約4メートルの小さいトンネルを抜けると、そこには広島湾が!広島市内まで見渡せる、素晴らしい光景が広がっていた。ちょっと休憩して記念撮影。

休憩場所は、呉市本通にある三宅本店。

参加者は、自転車を置いて「ギャラリー三宅屋商店」へ。こちらで甘酒ソフト、ミルクレモンソフト、甘酒などを味わい、しばらく休憩。

呉市天応にある呉ポートピアパーク前を走る。くれ災害ボランティアセンター 天応サテライトとして、多くのボランティアの受け入れ拠点となった場所。その後、12月1日に再開園した。

朝9時過ぎに順次出発した3班は、12時前後に全員が無事帰りついた。

1番に帰ってきたのは、海田町から参加した加悦さん。

「海田町も被災地。災害直後は、被災したいとこの家にボランティアに行きました。知り得なかった坂の被災地の状況を、サイクリングを通じて、見て知ることができたのもよかった。また参加したいです」と話してくれた。

折出さんとはサイクリング仲間だという安芸区瀬野の秋月宏子さん。
「瀬野も被災し、今なお復興半ば。普段通り生活すること、被災地に足を運ぶこと、それだけでも一つの支援ではないかなと思います」

A組班長の向井美樹さんは、今回甚大な被害が出た地区の一つ、熊野町から参加。
「さすがに被災地を通過するときは、おしゃべりが止まるほど驚きがありました。でも、被災地であっても、あいさつをすれば明るく返してくれる坂の人たちに、逆に元気をもらえたみたいでうれしかったです。まずは被災地の現状を知り、伝えていくことで支援につなげたい」

お昼は、レストランカリブにて、禅ぱんのベーグルを使ったベーグルサンドを。

折出さん夫妻はこれからも、不定期でサイクリングイベントを続けていくという。

「今日のイベントが、被災地復興に直接どんな効果があったかは分かりませんが、足を運んでもらった、ただそれだけでもよかったなと思っています」と由美子さん。

被災地の完全復興はまだ先かもしれない。しかし、ベーグルのように丸い心で、被災地を見るのも「いまできること」なのだ。

 

いまできること取材班
文章 門田聖子(ぶるぼん企画室)
撮影 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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