勝ち負けよりも大切なもの~選手たちが自ら考え、行動した「お掃除隊」~

災害発生後すぐに結成された「お掃除隊」

豪雨災害が発生した7月7日、宮城での講演会を終えた私は、帰路の大阪で新幹線の運転再開を待っていました。生徒からSNSを通じて、学校周辺が大変深刻な状況だというメッセージが次々と届いていました。その時彼らはすでにボランティアチーム「お掃除隊」を結成。40~50人の高校生が、派遣する人数や配置なども自分たちで考え、被災地域復旧のボランティア活動を始めていました。災害発生前の6日夜から、一人のサッカー部員が周囲と連絡を取り、災害発生後すぐに行動を呼び掛け。他の生徒たちも即座に反応したのです。

広島市安芸区矢野の被災現場(撮影:畑喜美夫)

先輩たちから受け継いだ、支援の志

防災組織でもない彼らがこれほど早くボランティア活動を始められたのはなぜなのか。その理由の一つには、2年前の熊本地震での経験が挙げられます。この地震で、練習試合や合宿で交流があった熊本国府高校が被災。グラウンドにパイプ椅子を並べ、「SOS」のメッセージを発信した映像が記憶にある人も多いでしょう。それを知ったサッカー部の生徒たちは、すぐさま街頭募金を始めたのです。彼らの活動が周囲の生徒にも波及。また、保護者や教員もトラック3台分の救援物資で応援しました。震災を乗り越え、同校サッカー部は熊本県総体で優勝。その年のインターハイ開催地である広島で、本校の生徒たちが集めた義援金を手渡しすることができました。2年前に先輩たちが積極的に動き、熊本国府高校を応援したのを見ていた生徒たちが、「何とかしなければ」と真っ先に行動を始めたのが、「お掃除隊」というチームなのです。

地域住民とともにボランティア作業をする生徒たち(撮影:畑喜美夫)

何をすべきかを生徒自身が判断する「ボトムアップ」

もう一つ、日頃から実践している練習法、選手自らが考え行動する「ボトムアップ」も、今回の行動につながった大きな要因です。本校サッカー部では、練習メニューはもちろん、メンバー起用や戦術も、選手たちが決めています。私の役割は監督というよりもゼネラルマネージャーのような存在。この「お掃除隊」の活動も、もちろん彼らの発案です。勝ち負けだけにこだわるチームなら、災害があっても練習を優先するでしょう。しかし、彼らは7月7日から17日までずっと、ボランティア活動を続けました。自己中心的な子どもの考え方から、他者中心の大人の考えに成長した彼らの姿を見られたことは、試合に勝つ以上にうれしい出来事でした。また彼らは、自分の頭で考えることを習慣づけているからこそ、発災前夜の雨が尋常ではないことを察知し、互いに連絡を取り合っていたのだと思います。この活動はサッカー部だけでなく、陸上部、ラグビー部、野球部と、学校全体に広がりました。文化祭や体育祭など学校行事の運営を全て生徒たちが主導しているため、ここでも生徒たちが先に動き、私たち教員は後ろから活動を支えてあげる役割でした。

安芸南高校生徒が地域清掃を行う「もみじ隊」(撮影:畑喜美夫)

どんな練習よりも選手たちを成長させたもの

サッカーは思いやりと自己表現のスポーツです。ボランティア活動を通じて、被災者の心情に寄り添い、命の大切さも学んだ選手たちは、一回りも二回りも大きくなりました。ほぼ1か月まともに練習できなかったにも関わらず、今夏の遠征では過去最高の勝率となり、高校選手権の県予選ではチーム二度目の決勝トーナメント進出を果たしました。練習量が減るデメリットよりも、人のためにみんなで動く力が勝った結果です。

ボランティアは人を変える――私はそう思っています。かつて指導した広島観音高校サッカー部は、障害者施設を訪ねて入所者のみなさんを一日楽しませるという活動を始めたことで、サポート能力の高いチームに成長。全国優勝のきっかけとなりました。チームスポーツには、練習よりも大切なものが存在します。それは作ろうと思ってできるものではありません。災害が起きたことは悲しいことですが、それを乗り越えることで、彼らは「大切な何か」を得ました。5年後、10年後に社会に出たときにも、今回の経験を生かしてくれるでしょう。見返りを求めず、人のためにコツコツと行動する姿を、ずっと応援していきたいと思っています。

【畑喜美夫プロフィール】

広島県立安芸南高等学校 教諭 サッカー部監督
一般社団法人ボトムアップパーソンズ協会 代表理事

1965年11月27日生まれ。広島大河FC―東海大一(現・東海大学静岡翔洋)―順天堂大。U-17 日本代表、U-20日本代表。大学4年のとき関東選手権、総理大臣杯、全日本インカレの大学三冠達成。97年広島観音高校サッカー部監督に就任。2003年全国大会初出場。06年にはインターハイ初出場初優勝の“優勝請負人”。現在は安芸南高校サッカー部監督。弱小チームを5年で県大会ベスト8、広島県4部(最下位リーグ)から1部(トップリーグ)まで導いた。著書、メディア出演多数。17年7月には新著「チームスポーツに学ぶボトムアップ理論」刊行。

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