伊藤 雅雪 |Masayuki Ito プロボクシングWBO世界Sフェザー級王者
伊藤雅雪さんが初めてロサンゼルスを訪れたのは4年ほど前。以来、試合前恒例の合宿地となった。今年3度目のキャンプとなる今回は約5週間半滞在し、12月30日の世界タイトル初防衛戦に向けて厳しいトレーニングに励んでいる。
「LAは気候も良くて人が優しい。僕もざっくりとしてるので米国人の気性が合います。LA、好きですねえ」。しかし朝10時からのジムワーク、夕方はロードワークやフィジカルトレーニングと、練習以外のことをする時間はない。「遊びで来てみたい」と笑うが、王座奪取後はテレビ出演など、ボクシング以外の活動が急増。「ほかのことをシャットアウトしてボクシングに向き合える環境がすごく大事。ここに来るとあらためて自分を見つめ直せる感覚がすごくある。だから、こっちのほうがナチュラルでいられますね。みんな人のことは気にしてない。それがすごいいいなあって」。
今年7月、フロリダで世界タイトルに挑戦した。「最初で最後のチャンス」と決死の覚悟で臨んだ一戦で、圧倒的不利の前評判を覆し日本人選手として37年ぶりに米国で世界のベルトを奪取した。快挙を成し遂げたという実感はないという。「自分に実力があるっていう感覚もない。世界チャンピオンの中で僕が一番かって言ったら絶対そんなことない。だから、強い選手を倒して、実力をっていうよりは乗り越えたこと、そのプロセスと結果を認めてもらいたい。そこは僕にとってはすごく大事なこと」と、王者らしからぬことを口にする。
18歳で始めたボクシングは9年目。興味本位で始めたが、「あれよあれよと、なぜか」タイトルを手中に収めていった。東日本新人王に始まり全日本新人王、WBC世界ユース王座、OPBF東洋太平洋王座、WBOアジア太平洋王座、そして今夏獲得したWBO世界Sフェザー級王座。今でもふと「自分の予定と違う人生になっちゃった(笑)」と、不思議に感じる瞬間がある。だが、7月の世界戦では試合中に成長を実感した。練習では結局できるようにならなかったことが、試合ではできた。「まだ伸びしろが自分にはあると思う。だから楽しい」と、想定外の人生をエンジョイしている。
ボクシングは「仕事であって仕事でない」という。いつ終わるのかわからないその競技性はよく理解している。「伊藤雅雪というボクサーのストーリーがどこで終わるのか。負け続けて辞めるのかもしれないし、勝って辞めるのかもしれない。それを見るのを楽しみにしている。人ができなかったことをやりたい」。次戦は日本で行われる平成最後のプロボクシングの試合。勝てば来春、米国での∨2戦が待っている。