【高校野球】「球速より球質」も「春に155キロ」…目指すは前田健太、創志学園・西の現在地

創志学園のエース西純矢【写真:沢井史】

秋は中国大会準決勝で広陵にコールド負け「少し浮足立ってしまっている部分もあった」

 あまりにも鮮烈だった甲子園デビューから約4か月。冬の冷たい空気が包み込むグラウンドで、創志学園のエース西純矢は黙々とグラウンドの外野を走っていた。夏の甲子園以降、今までにない大きな期待を背負ってのマウンドが続き、県大会から厳しいマークに遭った。宝刀のスライダーを封印し、ストレートを打ち込まれて大量失点しながら完投した試合もあった。

 その中でやはりもっとも悔いが残る一戦となったのは、秋の中国大会準決勝の広陵戦だろう。勝てば、センバツ出場の当確ランプが灯る大一番。力が入るのも無理はないが、この試合前から西は普段にはない空気を感じていた。

「広陵は(地元・広島の)知り合いが多くて、少し浮足立ってしまっている部分もありました。いつもにない応援の雰囲気に圧倒されてもいましたし……。(8回のバント処理のミスから)最後は自分が(接戦の張りつめた空気に)我慢できずに終わってしまいました。監督に試合前から『お前が負けるとしたら、バント処理のミスで負けるぞ』と言われていたんです。大会中、自分がそういう(バント処理などの)細かい練習をおろそかにして、バッティング練習ばかりしていたことも影響があったと思います」

 0-1の緊迫した展開のまま、回を重ねていった。広陵の先発・河野佳は最速148キロの速球を持つが、何よりピッチングのうまさが光り創志学園打線にチャンスすら与えない。当然、投げ合う西の腕にも力がこもる。いわば、我慢比べの空気をどう乗り切るかが大きなポイントだったが、“魔の8回”に自ら崩れ、一気に7点を奪われてのコールド敗退。結果的に出たのは自分の甘さだった。

自分が敗れた広陵を抑え込んだ星稜・奥川にライバル心

 その広陵打線を完璧に抑え込んだのが、奥川恭伸(星稜)だった。神宮大会の星稜と広陵の試合を映像で見た西は、「変化球…特にフォークが130キロ後半も出ていて、スライダーは曲がり幅が大きくて。自分のスライダーは曲がり幅よりキレで勝負する方ですが、あそこまで曲がらないので羨ましいです。奥川君はフォームが一定しているからボールにブレがないと思います」と奥川に対して率直な気持ちを述べた。

 自分にはない冷静さ、制球力など力の差を痛感した。メンタル面の強化なども自分に必要だと受け止めているが「奥川君はライバル。自分にとっては越さないといけない相手です」と負けん気ものぞかせた。奥川をはじめ佐々木朗希(大船渡)らと共にスピードボールに注目が集まるが、実は西が目指す投手像は違うところにある。

「自分はスピードよりも前田健太投手(ドジャース)のようなスピードとコントロールも持ち合わせた投手が目標です。ストレートや変化球もキレで勝負したいんです」

 広島出身ということもあり、幼いころから広島市民球場やマツダスタジアムに足を運び、大投手の勇姿を見に行った。実はカープファンで、前田のピッチングは何度も目にしている。

「春に155キロを投げてみたい」と語った西純矢【写真:沢井史】

体幹鍛えゆくゆくは160キロを出す

 この日のブルペンでは力強いストレートをビシビシと投げていた。スピードガンはなかったが、肉眼で140キロ半ばくらいのスピードではないかと感じた。気温は10度前後だったが、気温の低い朝にこれだけのボールが投げられるのはさすがとしか言いようがない。それでも本人いわく、7割から8割の力だったという。

 ただ、来年に向けての目標を尋ねると「春に155キロを投げてみたいです」と話す。“スピードより球質”という思いを掲げた中でのこの目標。実は敢えて高い目標を掲げることで自身を鼓舞させるためなのだ。

 この冬は体幹を鍛えるためのトレーニングを重点的にこなしていくつもりだが、まずはフォームを安定させ、いかに良い球質のストレートを投げられるようになるか。その上で球威もつけたいと考えている。「そしてその先で次は160キロ投げられたら……。これは高すぎる目標ですけれど(笑)。今はまず自分の課題にしっかり向き合っていきたいです」性格は負けず嫌い。「負けない夏」を目指し、自分との戦いとも言える本格的な長い冬がいよいよ始まる。(沢井史 / Fumi Sawai)

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