日米演習「初参加」のカナダ軍艦に“潜入” 2泊3日の艦内ルポ 独占取材(1)

米海軍横須賀基地に停泊中のカナダ海軍のフリゲート艦「カルガリー」=2018年11月21日午後、神奈川県横須賀市

 2018年11月8日まで約2週間実施された自衛隊と米軍による共同統合演習「キーン・ソード」に、カナダ海軍のフリゲート艦「カルガリー」が初めて参加した。米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)に寄港後、佐世保基地(長崎県佐世保市)へ2泊3日で向かった航路に同乗して取材し、艦内の様子や乗組員の生活を探った。

(共同通信=福岡編集部次長 大塚圭一郎)                                    

 

 初参加の理由 

 英語で「鋭い剣」を意味するキーン・ソードは1986年に始まり、艦艇やヘリコプター、戦闘機などを実際に動かす実動演習が近年はおおむね2年に1度実施されている。今年は自衛隊の約4万7千人と米軍の約9500人が参加し、日本が武力攻撃を受けた場合を想定して防衛する訓練などが日本や米領グアム島の周辺などで繰り広げられた。

 神奈川県の米海軍横須賀基地に配備されている原子力空母「ロナルド・レーガン」、海自の護衛艦や潜水艦などに加わり、カナダ海軍から参加したのが「カルガリー」と、補給艦「アストリクス」の2隻だ。

 中国当局の船が沖縄県の尖閣諸島周辺といった日本の領海への侵入が相次いでいるように、日米はキーン・ソードなどの演習を通じて海洋進出を強める中国をけん制する。そんな舞台にカナダ海軍が参加に踏み切ったのは、カナダが2017年に発表した新たな国防方針に盛り込まれた「アジア太平洋地域の安全保障への関与強化」に基づく。

 カルガリーのライアン・サルテル艦長は狙いを「カナダは貿易を含めたアジア太平洋地域を重視しており、日本といった地域のパートナーと連携しながらカナダの存在感を継続的に発揮していきたい」と打ち明ける。

 さらに、カナダや日本など計11カ国が合意した環太平洋連携協定(TPP)は18年12月30日の発効を控えているのも契機となる。カナダにとっても域内での貿易量拡大を見込んでいる中で、サルテル氏は「貿易拡大の期待に応えるのには、アジア太平洋の安全保障という国際的な責務を果たすのが必要となる」と強調する。

 カルガリーとアストリクスは7月下旬にカナダ西部のエスキモルト基地を出航してオーストラリアやベトナム、韓国を経由し、11月6日にアメリカ海軍横須賀基地に寄港した。途中でキーン・ソードに参加し、カルガリーは国連安保理事会の北朝鮮への制裁に反して、東シナ海で中国の船から石油などの積み荷を北朝鮮の船へ移す「瀬取り」の監視にも加わった。カルガリーのナンバー2であるエグゼクティブ・オフィサーのプレストン・マッキントッシュ氏は「私は艦長と交代で船の艦橋から見張り、船同士の不審な交易を目撃して国連に関連情報を提供できたので、監視の意義を示せました」と胸を張った。 

「カルガリー」の甲板で、銃や防弾チョッキで武装した乗組員=2018年11月22日午前、神奈川県横須賀市

 銃を構えた武装乗組員が出迎え 

 カルガリーは全長が134メートル、幅が16メートルあり、1995年に就役した。カナダの艦艇の多くは国内の都市名をつけており、カルガリーの船名は1988年に冬季五輪が開かれた中西部の大都市カルガリーに由来している。乗船した際の乗組員は約240人おり、うち23人は女性だった。

 横須賀基地で乗り込むと、銃を構えて防弾チョッキで身を包んで武装した乗組員が並んでいる姿に一瞬ぎょっとした。戦場に赴く可能性がある艦艇なので不思議はないとはいえ、銃が厳しく規制されている日本で暮らす者としてはなかなか目にしない光景だ。

 前方に航空機やミサイルなどを迎撃する直径57ミリの速射砲を一つ備え、側面には24発のミサイルを設けて防御している。また、後方の甲板にはヘリ1機が発着できるヘリポートがあり、「今回の航海では搭載していないけれども、来年の航海ではヘリコプターと乗組員も参加する予定だ」(乗組員のクリスティーン・ハーブさん)という。

 甲板に舟が積まれており、救出用のボートかと乗組員に尋ねると「いや、これは射撃訓練用で、舟に向けて撃つんだ」と意外な答えが返ってきた。飛ばした小型無人機ドローンを標的にしてミサイルで攻撃するという訓練もあったという。 

米海軍横須賀基地を出港後、乗組員が周囲を見張る「カルガリー」の艦橋=2018年11月21日午前

 船員が行方不明? 

 首都圏にいながらにして“異国情緒”に包まれていると、出港の時を迎えた。艦橋に入れてもらうと針路確認や操舵などに携わる20人を超える乗組員がおり、左側の先頭でサルテル艦長が指揮を執っていた。

 窓外を眺めると、日本政府が最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載して事実上の空母にすることを目指している海上自衛隊の護衛艦「いずも」が停泊している。カルガリーは太平洋の沖合を通って鹿児島県の沖合まで南下後、九州西側の東シナ海を通って佐世保へ向かう。

 横須賀の景色が遠のいてきたと思った次の瞬間、艦内放送で「水兵のウィリアムズがいなくなった」という声が響いた。

 「ドジなウィリアムズが寝坊して乗り遅れたのではないか」といぶかしがったが、緊急事態が起きた場合は寝室に戻るように伝えられていたので艦内のはしごを下りて集合場所の寝室へ向かう。艦内には似た船室が並んだ長い廊下が続いているため、階数を数字で、位置をアルファベットで記した組み合わせた廊下の標識が道しるべとなる。

 制服を着ていない怪しげな私とすれ違う乗組員は、口々に「君はウィリアムズか?」と確認してくる。「違うよ」と否定したが、乗組員の表情がややにやけているのに気付いた。これは異常時に備えた訓練で、寝室で乗組員の点呼が取られて無事終了した。 

5人の乗組員と寝起きを一緒にさせてもらった「カルガリー」の寝室=2018年11月22日午後

 まるで寝台電車 

 私が泊めてもらった寝室は3段ベッドを二つ備えており、20~30歳代の男性船員5人と一緒になった。私は二段目のベッドをあてがわれ、横になると波に揺られての振動に懐かしさを覚えた。

 2013年1月に廃止されたJR西日本、東日本が運行していた寝台電車の急行「きたぐに」(大阪―新潟)の三段になったB寝台で真ん中のベッドに泊まった時を思い出したからだ。その際に担当分野の内容を他紙に報道され、夜中の午前2時すぎに携帯電話が鳴って周囲の乗客に申し訳ないことをした。しかし、艦内は携帯電話の電波が通じず、連絡手段は備え付けの衛星電話かパソコンの電子メールだけなので夜中の安眠妨害が起きる恐れは皆無だ。

 同じ部屋になった乗組員に海軍を志望した動機を聞くと「軍艦の設計に携わりたいと思った」(ジェフ・ビーさん)、「食料品店で働いていたけれども、外国に出て行きたいと思って転職した」(ネイス・ブレースさん)など様々だ。

 すると、同じ部屋の乗組員から「今からまた訓練があるから、見に来なよ」と声を掛けてもらった。その様子は、想像を超える激しさだった…。 

(日米演習初参加のカナダ軍艦に“潜入”(2)に続く)

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