【特集】伊調、さあ東京五輪で5連覇へ!

全日本レスリングで復活V

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レスリング全日本選手権女子57キロ級決勝で川井梨紗子(手前)を破り、ガッツポーズする伊調馨=12月23日、東京・駒沢体育館

 2016年リオデジャネイロ五輪のレスリングで女子個人種目として五輪史上初の4連覇を達成してから2年のブランクがあった伊調馨(ALSOK)が、全日本選手権(20―23日、東京・駒沢体育館)で復活優勝を飾った。今年は、レスリング界を揺らしたパワハラ問題で被害者として渦中の人となり、その後心の葛藤を経てマットに復帰。平たんとは言えない道のりを歩んできた女王が、20年東京五輪での5連覇に向け「大きな一歩」を踏み出した。

 ▽意思

 「最後は気持ちの部分だった」。リオ五輪金メダリスト(63キロ級)で世界選手権2連覇中の「最強のライバル」川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)と争った23日の決勝、ポイント1-2で迎えた残り10秒から放ったタックルについて、伊調は言った。

 そのまま背後に回って2ポイントを獲得し逆転。試合終了のブザーを聞くと、珍しくガッツポーズ。「2年のブランクがあったことと、(体力や技術が)百パーセント戻し切れていない中で戦え、勝てたことが重なって」と感情爆発の理由を話した。

 川井とは前日にトーナメント戦に入る前の1次リーグでも対戦し敗れた。互いに警戒する中で「パッシブ(消極的)」との判定による得点で優劣がついた。ただ、その他の試合では、キレのある動きで一瞬の好機をものにする伊調らしい戦いがみられた。

 「少しずつ自分のレスリングが戻っている感覚があった」と確かな手応えを話すと「全く見えなかった東京五輪が、ぼんやりとだけど、見上げたところにあるのかな、と今日の試合で思えた」。五輪5連覇に挑む意思を口にした。

決勝で、川井梨紗子(左)を攻める伊調馨=12月23日、東京・駒沢体育館

 ▽感謝

 2018年は伊調にとっては波乱の年だった。日本レスリング協会の強化本部長だった栄和人氏からのパラハラ被害が2月に発覚。世間の注目を浴び心労が重なる中、「自分は本当にレスリングをやりたいのか」と悩み抜いた末に復帰を決断。そして、地道に体力、技術を取り戻す日々。

 「たくさんの方の温かい気持ちに触れて過ごした1年」「レスリングをできる幸せを感じられる1年」。今年を振り返る伊調の穏やかな口調に、苦難を乗り越えてたどり着いた現在の心境がのぞいた。

 決勝の土壇場で川井の右足を取ったタックル。伊調は「どうやって入ったか覚えていない」。ただ、マットのそばにいた仲間が「感動した」と涙を流しているのをみて自分もうれしかったという。「会社の関係者、家族、コーチ、練習相手の学生…」。いろんな人を挙げ「(川井の足を)キャッチできたのは、そういう人たちすべてのおかげ」と感謝を込めた。

復活優勝を果たし笑顔の伊調馨=12月23日、東京・駒沢体育館

 ▽進化

 日本レスリング協会は、19年9月の世界選手権でメダルを獲得すれば東京五輪の日本代表にするとしている。世界選手権代表には、今回の全日本選手権と19年6月の全日本選抜選手権の両方に勝つか、優勝者が異なる場合に実施されるプレーオフを制すればなれる。

 長年、伊調を指導する田南部力コーチは、今大会の伊調について「パフォーマンスはリオ五輪の時の7割」と評価し、「あと3センチ、腰が落ちればスピードも(技の)展開もより出てくるのかな」と指摘した。この辺は課題であると同時に、今後の伸びしろとも言える部分だ。

 もともと全日本選抜選手権のある19年6月にピークを持ってくる計画だったという田南部コーチは「年齢(現在34歳)もあるし、一気にやるとけがにつながる。半年くらいかけて全盛期の腰の高さに戻していく」と話す。五輪5連覇を目指す戦いの道を順調に歩み始めた伊調は「19年6月に向け体力、技術とも、まだまだ上げていける。感覚をすべて戻した上で、進化していきたい」と表情を引き締めた。(共同通信=松村圭)