『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』 空気を読まない主人公が魅力的

(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

 山田太一脚本のドラマ『男たちの旅路』の中に「車輪の一歩」という回がある。放送は1979年で、他人に迷惑をかけるな!という当時無条件に信奉されていた価値観に一石を投じ、障害者も生きやすい社会にするためには、もっと外へ出て他人に迷惑をかけ続けるべきだと説く物語だった。本作は、それを地で行く実話の映画化で、しかも笑いを盛り込んでいる。

 札幌在住の鹿野靖明は、11歳の時に進行性筋ジストロフィーと診断され、他人の助けがないと生きていけなかったが、自ら介護のボランティアを集めて風変わりな自立生活を送っていた。そんな身体は不自由なのに心は自由でワガママ放題の主人公が、周囲を振り回しながらも夢や希望を与えていく話だ。とにかく、一切空気を読まない(読めない?)鹿野のキャラクターが魅力的で、しかも、「車輪の一歩」の頃にはまだ斬新だった主題も、誰もが生きやすい社会の多様性が叫ばれる今の時代なら広く受け入れられそう。

 監督は、職人肌の前田哲。これまでにも『ブタがいた教室』『ドルフィンブルー』など命と向き合う実話の映画化を手掛けてきているだけに、手際は確か。特に、一度は手術で声を失った鹿野が再びしゃべれるようになるシーンは、職人技を超えた演出の冴えを見せる。個人的には、もっとコメディーに寄せてほしかったが、ベタな話を笑いが適度に中和して、嫌味なく泣ける感動作だ。★★★★☆(外山真也)

監督:前田哲

原作:渡辺一史

出演:大泉洋、高畑充希、三浦春馬

12月28日(金)から全国公開

© 一般社団法人共同通信社