『それだけが、僕の世界』 サヴァン症候群でピアノの天才、の役作りがすごい

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 “ビョン様”ことイ・ビョンホン主演の韓流映画だ。とはいえ、ここでの彼は、元プロボクサーの冴えない中年。スターオーラを絶妙に抑えた演技もなかなか新鮮である。そんな主人公が、17年前に自分を捨てた母親と偶然再会したことで、サヴァン症候群の弟の存在を知る。弟には天才的なピアノの才能があって…という兄弟の絆を軸にした家族&音楽映画で、中年男の成長(再生)物語としても見応えがある。

 だが、本作の一番の見どころは別にある。弟を演じるパク・ジョンミン。『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』で新人賞を総なめにした韓国映画界期待の新星で、徹底した役作りには定評があるという。サヴァン症候群の成り切りぶりもさることながら、何よりもピアノを猛特訓して挑んだという演奏シーンに驚かされる。指のアップまで吹き替えなしで演じているというのに、ピアノの天才にしか見えない超絶ぶりなのだ。

 加えて、本作は『王の涙 イ・サンの決断』の脚本家チェ・ソンヒョンの初監督作。主人公の家族以外にも“親子の愛”を前面に押し出したベタな展開なのに、鼻につかない語り口の妙など脚本の高い完成度はもちろん、セリフや会話に頼ることなく“画で魅せる”選択や、無駄のない、でも緩急を心得た演出ぶりは、初監督とはとても思えない。韓国映画の力量をまざまざと見せつける総合力の高い秀作だ。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:チェ・ソンヒョン

出演:イ・ビョンホン、パク・ジョンミン、ユン・ヨジョン

12月28日(金)から全国公開

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