(5)諫干開門判決「無効」 「非開門」へ傾く包囲網

 国営諫早湾干拓事業の排水門開門問題を巡っては、国の非開門方針に続き、司法でも「非開門」に傾いた1年だった。福岡高裁は7月30日の請求異議訴訟控訴審判決で国の請求を認め、2010年12月に同高裁が開門を命じた判決=国が上告を断念し確定=を事実上「無効」とする判断を出した。開門確定判決を履行しない国に科された漁業者への1日90万円の間接強制金(約12億3千万円支払い済み)も停止された。
 あれから5カ月-。開門確定判決の原告の一人で、島原市の漁業、中田猶喜さん(68)は漁獲量が減った有明海に漁に出るたび、歯がゆさを感じる。
 排水門閉め切り後、有明海の異変を目の当たりにした。この事実をどんなに国と裁判所に訴えても伝わらない。請求異議訴訟で高裁は終始、国の主張を追認した、との不満はぬぐえない。「開門してほしいという自分たちの意見はことごとく芽がつまれる」。やり場のない感情が大きくなっている。
 中田さんら開門派原告は、高裁判決を不服として最高裁に上告した。中田さんにとって今も確定判決が心の支え。「最終的な答えが出るまで望みを持ってやっていく。開門を求める声を上げ続ける」と話す。
 判決後、開門派原告を取り巻く状況は、思わぬ方向に動いた。原告の一部が所属する有明漁協(島原市)は9月までに全役員が辞任、業務停止状態に陥った。購買事業の売上金の計上漏れなどで現金数百万円が不足し、6月の通常総会が開催できなかったからだ。開門派関係者は「混乱に乗じて、国は原告の闘う気持ちを諦めさせるようとしている」といら立ちを募らせる。
 一方、国は17年4月の「開門せずに漁業振興基金による和解」を目指す方針を堅持。諫干関連訴訟5件のうち3件が最高裁に上告され、漁業者と農業者がそれぞれ起こした長崎地裁の開門請求訴訟2件も実質審理中だ。「具体的に和解の場はないが、機会があれば参加していく」。国の担当者は、そう淡々と語る。終わりなき訴訟の出口は見えない。

開門確定判決を事実上「無効」とした判決の不当性を訴える原告側=7月30日、福岡高裁

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