中国コーヒー市場に波乱 新興企業、スタバに挑戦

北京の瑞幸珈琲店。客(左)がスマホを読み取り機にかざしてコーヒーを受け取る=10月(共同)

 数億人が手にするスマートフォンをコーヒーに変えることができれば、どれほどの利益が出るだろう―。そんな“夢想”の実現に挑む中国の新興コーヒーチェーン、瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)が破竹の勢いで店舗網を拡大している。3千店舗超を展開し圧倒的な存在感を誇る米大手スターバックスを「中国のコーヒー業界の発展を阻んでいる」と独占禁止法違反の疑いで提訴。野心的な事業拡張で伝統企業に迫る経営手法に、付いた異名は「野蛮人」だ。 (北京共同=大熊雄一郎)

 「現金は使えません」。北京市中心部のラッキンの店舗。アメリカンコーヒーを買おうとすると、店員から専用アプリをダウンロードするよう指示された。やや抵抗があったが、アプリでコーヒーチケットを5枚購入すればもう5枚が無料となる。スタバのほぼ半額だ。

 以降、出勤途中に専用アプリでメニューを選び、スマホで決済。青地に鹿のロゴが目印のラッキンの店舗に着くと商品ができあがっており、スマホを専用機材にかざして受け取る。この間、店員とのやりとりは一切ない。

 ラッキンは、配車サービスなどを手掛ける企業の最高執行責任者(COO)だった銭治亜(せん・ちあ)氏が立ち上げた。1月に営業を始め、10月中旬までに全国21都市に進出、店舗数も約1400まで増加した。

 社交の場として一等地に店舗を構えるスタバに対し、ラッキンは立地よりもアプリや出前サービスを重視。会員制交流サイト(SNS)の浸透で人々の生活スタイルが大きく変わったことに着目した。共同創業者の郭謹一(かく・きんいち)氏は「人がコーヒーを求めに行くのではなく、コーヒーが人を探しに行くイメージ」と語る。

 在庫管理や発注を人工知能(AI)が担うことで人件費を抑え、スタバよりも低価格で高品質の商品を提供する戦略だ。さらにアプリを通じて集めた顧客データは「ビッグデータとして分析し、ニーズに合わせた新商品を打ち出す」(郭氏)。

 AIを活用したIT企業のような経営手法が投資家を魅了し、7月には2億ドルの調達に成功。国内外メディアは「1年足らずで推定10億ドルの企業価値を持つユニコーン企業に成長した」と驚きをもって伝えた。

 中国ではコーヒー消費量が急増している。経済誌「財経」によると、2017年の世界の消費量の伸び率が2%だったのに対し、中国は15%。中国の大手証券会社、国信証券によると、1人当たりの消費は年4杯で、同じアジアの日本の約200杯に比べてまだ少なく、「中国のコーヒー業界は爆発的に成長する」(郭氏)とみられる。

 同社は5月、公開書簡でスタバが他のブランドを排除する不動産契約を結び公正な競争を妨げていると非難。スタバ側は意に介さない姿勢を示したが、ラッキンは提訴した。スタバの今年4~6月期の中国での既存店売上高は2%減少した。

 スタバは8月に電子商取引(EC)最大手、アリババグループとの提携を発表。新興勢力の攻勢を念頭に、商品のネット出前サービスを始めることを決めた。

 中国ではベンチャー企業のビジネスモデルが模倣され、短期間で共倒れとなる事例も多い。中国で急成長した自転車シェアサービスの大手「ofo」は倒産の噂が流れ、中国各地で保証金の返還を求める利用者の行列ができている。

 ラッキンへの投資家は「ラッキンのビジネスモデルが模倣されるリスクもある」と指摘。AIを手にした〝野蛮人〟が伝統経営に挑む構図は新旧勢力がしのぎを削る中国経済の縮図とも言え、国内外の企業家がコーヒー戦争の行方に期待と不安の目を注いでいる。

瑞幸珈琲の店内=10月、北京(共同)

【関連記事】コーヒー市場は爆発寸前 AIで経営モデル変える

© 一般社団法人共同通信社