【世界から】NZ、郵便局が消える!

新たに郵便窓口業務代行を始めた個人商店。外壁の赤い箇所には私書箱が並んでいる=クローディアー真理撮影

 先日、自宅近くの郵便局に行った。クリスマス用の郵便物を出すためだ。「日本に送るんだね。もう20グラム少なかったら、料金が安くなるけどな。中身は減らせないの?」。なじみの局員、バーナードさんが細やかな気遣いを見せながら、世話を焼いてくれる。手続きを済ませてカウンターを離れる。すると、しばらく顔を合わせていなかった友人にばったり出会って、おしゃべり―。郵便局を舞台にした、こうした日常的な光景がニュージーランドから消えることになりそうだ。

 11月下旬、ニュージーランドの郵便事業社「ニュージーランド・ポスト」が、同国内の郵便局をすべて閉鎖すると発表した。このニュースに、人々は一様に動揺している。郵便局は、周辺住民が集まる場でもあるからだ。特に田舎町では社会の「要」と言っても過言ではない。

▼激減した郵便物、値上がりする料金

 昨年、「ニュージーランド・ポスト」が取り扱った郵便物数は約500万通だった。10年前には10億通だったので、激減していることになる。2019年度にはさらに15%減ることが見込まれ、年に3000万NZドル(約24億円)もの損失をもたらすことになるという。

 郵便物が減っている理由の一つは、日常生活のデジタル化が進んでいるからだ。一般企業だけではない。ニュージーランド政府はデジタルでの公的サービスの提供と拡充を目指す、世界でも指折りの「デジタル・ガバメント」なのだ。代表的な公的手続きのうち70%をオンラインで行うことができ、21年をめどにさらにその割合を増やそうとしている。

 郵便料金の値上げも人々を郵便から遠ざけている。「ニュージーランド・ポスト」の前身は「ニュージーランド・ポストオフィス(郵便電信省)」という政府機関だった。郵便、銀行、テレコミュニケーションの3部門から成っていたが、80年代の財政難を機に、それぞれ国営企業となった。郵便事業も「ニュージーランド・ポスト」の名で再出発し、一時は利益も出すことにも成功。郵便料金の引き下げも実現した。しかし、業績は簡単には上向かなかった。

 経営の効率化を図るために、1日1回、週に6日の配達頻度を隔日に変更。速達にあたる「ファストポスト」などのサービスを一部廃止したほか、投函(とうかん)用のポスト数も減らした。それでも、料金はジリジリと上がり続けた。

値上がりが繰り返されたため、現在では定型内で最も軽い封書を送るには、国内だと1・20NZドル(約89円)、国際郵便だと2・40~3NZドル(約178~約223円)掛かるようになった=クローディアー真理撮影

 また、2000年代初めには郵便窓口業務を他社に委託することも始めた。それでも、当時から現在に至るまでこのことは郵便局の閉鎖を前提としたものではなかった。一方、今回発表された方針は、79ある郵便局をすべて閉局することを明確にしている。委託先についても今まで中心を占めていた個人商店に加え、大型スーパーマーケットや薬局チェーンの参入を視野に入れている。

▼消えない不安

 郵便局をなくし、委託先に郵便業務の全てを任せることを不満に思う市民は多く、反対の声が上がっている。人々がそう考える背景には、実利面と感情面が複雑に入り交じっている。

 反対者は、委託先のサービスは郵便局ほど行き届いていないと主張する。これに対して、「ニュージーランド・ポスト」側は、委託する店舗にはトレーニングを行うため心配無用と言う。それでも、反対意見は打ち消せない。ある人は「アゼルバイジャンに小包を送る時、委託先はどう対応する? 最も安く、速く送る方法や、相手国の禁制品を即座に顧客に教えられるだろうか?」との懸念を口にする。

 英国やオーストラリアのようにニュージーランドからの送付頻度が高い国ならともかく、ほとんど郵便物が送られることのない国や地域に送る際に混乱が起きるであろうことは容易に想像できる。さらに、「スーパーの店員はシフトでどんどん変わる。全店員が郵便業務をきちんと把握し、処理できるとは到底思えない」とする声もある。筆者も代行店で郵便を出したことがあるが、その時に店員が見せた対応は正直、とても頼りないという印象だった。スタッフが知識不足で、自分の方が郵便事情を把握していると感じたほどだ。

 郵便局とそこで働く局員に愛着を持つ人は多い。代表的なのは、お年寄りや地方に住む人たちだ。お年寄りの中には、郵便局に通うことを日課にしている人も少なくない。遠くに住む友人に手紙を出し、局員とおしゃべりを楽しみ、たまたま会った知り合いと近況報告し合う。いわば「社交の場」なのだ。都会であろうが田舎町であろうが、それは変わらない。そう、郵便局は「手紙や小包を出す場所」以上の意味を持っているのだ。

 「ニュージーランド・ポスト」は、全郵便局の業務委託完了に期限を設けていない。場所によって閉局が地元社会に大きな影響を及ぼすことを理解しているからだろう。それでも、遅かれ早かれ私がバーナードさんとお別れしなくてはならない日はやって来る。(ニュージーランド在住ジャーナリスト、クローディアー真理=共同通信特約)

投函(とうかん)用のポストもずいぶん減って、住宅街では姿を見なくなった。この現状に、お年寄りの多くが不便さを感じている=クローディアー真理撮影

© 一般社団法人共同通信社