韓国の情報力劣化か…金正恩氏の側近「消息不明77日間」は間違い

韓国紙・中央日報は26日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の側近のひとり、朴光浩(パク・クァンホ)党副委員長(宣伝扇動部長兼任)が、「公開の場に姿を見せなくなって25日で77日が過ぎた」と伝えた。

朴光浩氏が兼務する党宣伝扇動部長は、北朝鮮の思想統制やメディア戦略を統括する責任者だ。また同氏は、金正恩氏の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の直属の上官であり、

朴光浩氏の身の上に何かあったとすれば、注目すべき動向と言える。しかし、中央日報が伝えた「姿を見せなくなって77日」というのは間違いである。朴光浩氏は11月2日の公式行事に参加していたことが、北朝鮮の国営メディアの報道から確認できるのだ。ということは、同氏が公開の場に現れなくなったのは、正確には77日ではなく58日だ。

些細な違いかも知れないが、公式報道から要人の動静を割り出すのは、北朝鮮分析の基本中の基本だ。それを見落とすとは、韓国の対北情報能力の劣化を示しているのかもしれない。

ちなみに2016年2月、韓国では北朝鮮の李永吉(リ・ヨンギル)軍総参謀長が処刑されたとの情報が出回ったことがあった。しかし李永吉は同年5月、降格されながらも健在であったことが確認された(現在は総参謀長に再登板)。

北朝鮮の人事情報の確認が、難しいものであるのは確かなのだ。

では、今回の中央日報の報道を、詳しく検証してみよう。同紙は韓国政府当局者の話として、次のように伝えている。

〈「朴光浩副委員長が今月17日、金正日総書記死去7周忌を迎えて党高位幹部が参加した錦繻山(クムスサン)太陽宮殿参拝に出席していなかったことが確認された」とし、「10月10日の党創建72周年記念行事を最後に公開活動がない」と伝えた。朴光浩氏は今年、金正恩国務委員長が出席した行事に6回同行したが、10月以降は一切姿を見せておらず、先月3日に平壌(ピョンヤン)で開かれた中朝芸術家合同公演にも出席しなかった。〉

北朝鮮メディアが錦繻山太陽宮殿参拝について伝えた記事で名前が出ているのは、金正恩氏だけだ。これについては恐らく、韓国の情報機関・国家情報院(国情院)が、北朝鮮の新聞などで紹介された写真や内部情報から朴光浩氏の「不在」を分析したのだろう。

また、11月3日に平壌で開かれた中朝芸術家の合同公演に、朴光浩氏が参加しなかったのも事実のようだ。この公演を金正恩氏が鑑賞したと報じた北朝鮮メディアの記事の中に、同氏の名前はない。党宣伝扇動部長ならば、よほどの事情が無い限り金正恩氏に同行すべき行事であり、同行していたならば、記事から名前が抜け落ちることも考えにくい。

しかし朴光浩氏はこの前日、つまり11月2日に行われた中国芸能人代表団の歓迎行事には参加しているのだ。国営の朝鮮中央通信が、朴光浩氏が同代表団の歓迎宴と歓迎公演に参加したことをハッキリ伝えている。

つまり、朴光浩氏は2日の歓迎行事には参加しながら、翌日のより重要な行事には参加しなかったことになる。70代と高齢でもあり、この1日の間に健康上の問題が生じたのだろうか。その後については中央日報が指摘する通り、動静が途絶えているのが現状だ。

前述したとおり、北朝鮮の人事情報の確認が難しいのは事実だ。ただ、処刑や粛清がらみの突発的な人事ならいざ知らず、公式情報を「韓国政府当局者」――おそらくは国情院か青瓦台の要人――が見逃すということはこれまでなかった。

北朝鮮との直接対話が進む中、韓国の担当部署において、長きにわたり培われた「プロフェッショナリズム」が廃れ始めたのでないのなら良いのだが。

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