IWC脱退表明

 スーパーの鮮魚コーナーで、半額シールが貼られたクジラ肉が並んでいるのを、先日たまたま目にした。貴重な食材なのに売れ残っているのかと残念に思った▲クジラ食は海洋国日本の伝統的な食文化の一つだ。特に好漁場が近い本県では、家庭料理から宴席料理まで使われる身近な食材だった。だが商業捕鯨はクジラ資源保護のため1988年に中止され、クジラ料理が食卓に上る機会は激減した。若い世代にはもうなじみがないだろう▲その資源管理を担う国際捕鯨委員会(IWC)から、日本政府が脱退を表明した。反捕鯨国との対立が激化した末の決断。来年7月、約30年ぶりに商業捕鯨を再開するという▲これまでの調査捕鯨のように地球の裏側まで出かけたりせず、領海と排他的経済水域(EEZ)に限定する。日本近海で捕ったクジラを、日本で食することになる。いわば「地産地消」への回帰だ▲むやみに捕るのではなく、一定の捕獲枠を守る。クジラ資源を適切に保護してこそ、クジラ漁やクジラ食という伝統的な産業や文化も守ることができる▲ただ、反捕鯨国の反発は大きい。再開が実現してもクジラ消費が復活するかどうかも未知数だ。先祖から受け継いだ食文化を次世代へ伝えていくために、脱退は妥当な選択だったのか。今後を見守らねばなるまい。(泉)

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