"ニューヨークにファンをつくる" 満を持して人気店再現 東京レストランツファクトリー 社長 渡邉 仁

ジョギング用の黒いスポーツウエアを身にまとい、今にも駆け出しそうな威勢の良さ。東京レストランツファクトリー社長の渡邉仁さん(47)は日本で人気の焼き鳥店「鳥幸(とりこう)」の米国1号店をマンハッタンに開いた。「日本のファンをつくりたい」と世界展開を加速させ、グループの店舗数を現在の3倍強、200まで増やしていく目標を掲げる。

東京で美術品を扱う商社に10年ほど勤務後、2001年に脱サラした。故郷の福島県の勇士、白虎隊の列伝にも感化され、幼い頃から「いつか独立しよう」と胸に秘めていた。ITで起業した友人らの成功にも刺激を受けた。

それまで培った人脈を生かし、会員制のバーを都内に開くと、2年で1000人が加入する繁盛ぶり。上客の1人に「もっとうまい料理作ってよ」と叱咤(しった)激励されて奮起し、本格的に外食企業を立ち上げた。現在高級店から庶民的なお店まで60店ほど構える。インバウンド(訪日外国人)も追い風に集客し、15年連続の増収増益だ。

鳥幸の米国1号店は、特に外国人客でにぎわう乃木坂店(東京都港区)の内装を再現し、落ち着いた雰囲気の造りにした。「心のこり」という鷄の心臓の軟らかい希少部位など日本で人気のメニューを提供する。

入り口にバーカウンターを設けるなど米国ならではの仕様も施した。渡邉さん自ら州北部の養鶏所に足を運び、目利きをして食材の調達先を決めた。ニューヨーカー好みの味は何か。検討を重ね、各串に合う塩とタレをそれぞれ4種類ずつ用意するこだわりようだ。昨年先行して同区に開いた高価格帯の系列店「ミフネニューヨーク」の教訓も生かし、店員の配置や選曲に余念がない。「店内に漂う空気の微妙な変化で、お客さんの反応はまるで違う。客層も全く変わる」と学んだ。

「失敗しない自信はある」と語る渡邉さん、事業成功の秘けつは止まらずに行動し続けること。トライアスロンなどが趣味で、ニューヨークシティーマラソンも3回出た。「会社も体育会系です」と笑う。

エナジーを得る場所はセントラルパーク。ニューヨーク滞在中は朝7時ごろホテルを出て、パークの周り14キロを走るのが日課だ。特に公園の北側、急勾配の坂がお気に入りで、いい汗をかくと「良いアイデアが浮かぶ」。

20代で上京した際、東京は大都会と感じたが、ニューヨークは都会的な上に「あらゆる人種がいる」。客層が幅広く、カナダと英国、フランス、中国への「世界展開に向け、とても勉強になる」という。

ニューヨークでは他に、割安感のあるお店も準備中だ。海外展開加速の背景には、発酵や酒造の高い食品技術を持つ日本の若者に世界で活躍してもらいたいという熱情がある。「海外は遠いものじゃない。今の若い人達が(働ける)入り口を作りたいんですよ」。理想のビジョンは広がる。

渡邉仁(わたなべ・ひとし)■福島県出身。東京の美術系商社を経て2003年に独立し、東京レストランツファクトリーを創業。9月25日現在、国内57店、ニューヨークと台湾に計5店を展開

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