アウディ R8 V10 plus試乗|フラッグシップスポーツは先端技術の塊

アウディ R8 V10 Plus

アウディ R8の存在はホンダ 新型NSXを連想させる

2018年の最後を飾るアウディのオールラインナップ試乗会。スタッフの方から「お好きなクルマを2台どうぞ」といわれた私は、編集氏があれこれ悩むのを横目に速攻で「R8とRS3を!」と答えた。こういうときは一番ホットなヤツを選ぶに限る。それも、ラインナップのテッペンとボトムをいっぺんに味わうなんて、そうそうできることではない(正確にはS1がアウディRS/S系のボトムレンジだが、日本では既に販売が終了している)。

ご存じR8は、アウディのフラッグシップスポーツカー。初代は今から12年も前の2006年に登場し、4.2リッターV8(420ps)が先行して3年後に5.2リッターV10(525ps)が登場した。

そして二代目R8では、一度はV8ユニット復活の声も聞こえたものの、今のところパワーユニットは5.2リッターV10のみで、548psを発揮するスタンダードなR8と、今回試乗したV10 plus(610ps)という2グレード構成となっている。

アウディ R8 V10 Plus

私はこのR8に乗ると、いつもあるスポーツカーを無意識に思い浮かべる。

それはフェラーリでもマクラーレンでもポルシェでもメルセデスでもなく、ホンダ NSXだ。なぜならこの両者にはそのコンセプトに於いて多くの共通点があり、にも関わらず立ち位置の違いによって、全く異なる表現方法が採られているから。わかりやすく言えば、お互いに優れた部分と足りない部分があって、面白いのである。

たとえばアウディは「アウディ・スペース・フレーム」(ASF)と呼ばれる軽量化技術をシャシーの核としている。簡単に言えばアルミニウムを基軸とした軽量素材でモノコックを造り純粋な性能と環境性能の両方に言及したわけだが、これはまさに初代NSXが世界に先駆けて行った技術だ。ただし後発ながらアウディは1994年に登場したA8からこの技術を自社の高級ラインに転用した。かたや大衆車メーカーである故にホンダは、この高価な技術を応用できなかったという違いがある。

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アウディ R8 V10 Plus

4WD化でミッドシップスポーツカーを民主化

そして現行車に目を移せば、遂にホンダはNSXを4WD化した。「ウチはモーターを使っているからアウディとは違う!」なんて言われそうだが、「誰もが快適に運転できるスポーツカー」というコンセプトにおいて、旋回性能に優れながらもトリッキーなミドシップをいち早く4WD化し、スポーツカーの挙動を民主化したのはアウディだ。

とはいえこのクワトロ4WDをもってしても、初代R8 V10のリア・スタビリティは笑えるほどに低かった。ともかくこうしたトライ&エラー(とアウディは思ってないだろうけど)を続けて歴史を重ねて行くから、欧州勢は世代を追うごとに強くなる。モータースポーツがその典型だ。

アウディ R8 e-Tron

かたや現行NSXが素晴らしかったのは、いち早くスーパースポーツにモーターを搭載し、これを市販したことだ。これこそ未来にスポーツカーを残すための努力として、マッドサイエンティスト集団であるアウディが、R8でまっさきに実現するべきことだったのではないか? と思う。

実はアウディも2009年に「e-tron」コンセプトとしてR8のEVカーを発表しており、2015年には「R8 e-tron quattro」としてひっそりとこれを発売したけれど、セールス的には失敗しているのだ。かたやNSXは、より現実的なハイブリッドという形を取って、2016年の発売から約2年間で累計400台を達成。われらがNSXも、実はすごいのである。

アウディ R8 V10 Plus

最後の美酒”大排気量自然吸気エンジン”の搭載を貫くこと

そんなR8がスポーツカーファンを唸らせているポイントは、面白いことに超高性能な自然吸気のV10エンジンを搭載していることである。ライバルたちが環境性能の理由からこぞってターボ化を推し進めるなかで、大排気量NAエンジン搭載を貫く姿勢には「いつまでやるの?」という興味をそそられるし、実際このV10には「最後の美酒」と言える豊かで鋭い味わいがある。

彼らがこのエンジンを作り続ける影にはきっと電動化があったのだろう。R8をダウンサイジングターボ化する前にEV化を実現して、来るべき未来に向けて緩やかにスイッチして行こうとしていたのではないかと思う。

ともあれこのユニットもダウンサイジングターボに負けない立派な低中速トルク型であり、実用域ではその排気量を活かしてエンジン回転を跳ね上げずとも、常識的な走りを常識的な音量でこなすことができる。

そしてスクランブルボタンをひと押しすれば、その強大なトルク(560Nm!)を使って、610psの最高出力が発揮される8250回転まで一気にエンジンを回しきる。

アウディ R8 V10 Plus

そのフィーリングは超高回転におけるパワーの追求のみを狙った、前時代的な快楽とはほど遠い。しかしバルブやカムといった動弁系が規則正しく回り、シリンダーの爆発が感じ取れるようなアウディらしい精密感がドッと後ろから押し寄せてくる。現代的なレーシングカーのエンジンフィールだ。これだけどう猛で高品質なV10エンジンを、普通に走らせることができることには本当に脱帽する。

アウディ R8 V10 Plus

快適な日常性の裏にいつでも引き出せる非日常性を併せ持つ

こうしたダイナミックさ、肉食獣的な魅力は欧州勢の真骨頂。ホンダ NSXや日産 GT-Rもかなり近いセンまで行ってるが、日本の国民性がそうしたクルマ本来の魅力というものを心から素直に楽しめず、メーカー側もその雰囲気を忖度してしまうところはまだまだある。

アウディR8はその登場時、アウディTTから続くバウハウス的無機質なデザインテイストによって、「インテリジェンスを持つスポーツカー」という雰囲気を強く放っていた。二代目になってこのデザインは大人しすぎると判断されたのか、やや悪役顔(ダースベイダーのようだ)に方向転換されたが、乗り味は逆に洗練を帯びた。

試乗車はより高次元を狙って足回りを引き締めた「V10 plus」なのだが、その乗り心地はすこぶる快適だ。マグネティックライドダンパーは大径20インチタイヤをしっかりと路面に押しつけながら、どこまでもしなやかに伸縮する。そのロールはゆったりと穏やかだが、フロントにエンジンを持たないミドシップの回頭性がここに切れ味を付け加える。

アウディ R8 V10 Plus

日本人の私にはちょっとサイドサポートが大きいけれど、しっかり硬めで質感の高いシート。剛直なステアリングシャフトの支持剛性。シックで媚びのない、威厳ある室内空間。それでいて、いやだからこそ癒やされる感覚。

R8には前述した快適な日常があり、そのカードをひっくり返せばいつでも引き出せる非日常を持っている。

税込み3013万円という鼻血が出そうな車両価格なら当たり前だと思うかもしれないが、NSXがあと643万円を足すだけで、この質感を得られるかは別問題だ。

スポーツカーには純粋なスポーツ性能以外に環境適合性能と技術的な先進性、さらに言えばデザイン性が求められる。その総和としてアウディR8とホンダNSXは、この後の行く末を含めた比較が楽しいライバルなのではないかと思う。

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