ハゲタカから「相棒」へ

買収ファンド20年

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米コールバーグ・クラビス・ロバーツ日本法人の平野博文社長

 企業買収ファンドが日本での活動を開始してから今年で20年。2018年の買収件数は過去最高を更新した。かつては「ハゲタカ」と呼ばれ警戒されたが、経営者の抵抗感も薄れ、日本企業のパートナー(相棒)に変わりつつある。(共同通信=小川悠介)

 「ハゲタカを見るのは初めてだ」。5年前、米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)日本法人の平野博文社長は、買収が決まった企業の労働組合幹部から面と向かってこう言われた。

 欧米に比べて日本におけるファンドの歴史は浅い。M&A助言のレコフによると、日本初のファンドによる企業買収は1998年。2000年に米リップルウッド・ホールディングスが旧日本長期信用銀行(現新生銀行)を買収。経営危機に陥った企業を乗っ取り、すぐに転売して利ざやを稼ぐ姿はハゲタカと呼ばれ、世間の反感を買った。

 その後、小泉政権が登場すると、企業の構造改革に弾みがつくとの期待感から、海外ファンドが相次ぎ進出。だが、「大企業の危機意識は薄く、統合や事業売却の機運は高まらなかった」(電機業界に詳しい産業創成アドバイザリーの佐藤文昭共同創業者)。

 誤算が続いたファンド業界だが、足元では風向きが変わりつつある。背景にあるのは、政府が推進するガバナンス(企業統治)改革だ。株主から利益の改善を求められ、「非中核部門を切り離す動きが活発化している」(米ベインキャピタルの杉本勇次日本代表)。

 事業売却が増えれば、「受け皿」としてファンドの活躍機会も広がる。18年の日本企業に対するファンドの買収件数は前年比13%増の674件と過去最高だった(12日時点)。ファンドが強引な合理化案を迫ることが減り、「経営者の抵抗感が薄れている」(英ペルミラ日本法人の藤井良太郎社長)ことも大きい。

 1997年に日本初の企業買収ファンドを立ち上げたアドバンテッジパートナーズには経営者からの相談が絶えないという。笹沼泰助代表パートナーは「かつては面会の約束すら入らなかった」と時代の変化を感慨深げに語る。

 貿易摩擦問題で米中企業への投資に慎重さが求められるなか、日本市場に対する期待は高まる。業界誕生20年の節目の年を経て、日本企業と企業買収ファンドの距離はますます縮まりそうだ。

【ファンド業界のキーマンに聞く】

▽「積極投資を継続」
 米ベインキャピタルの杉本勇次日本代表

米ベインキャピタルの杉本勇次日本代表

 2018年は東芝メモリの買収完了という大型案件があったが、19年以降も積極的な投資を継続する。今後3年間で5000億円から1兆円の投資を想定している。複数の事業を手掛ける大手企業の間で、非中核部門を切り離す動きが活発化している。

 なかでも、ヘルスケア業界に注目している。医薬品や医療機器だけでなく、介護サービスなど業界全体として今後成長が期待できる。べインキャピタルとして米国や中国の病院チェーンにすでに投資をしており、日本製品の海外展開の支援も可能だ。

▽「ユニコーンに注目」
 米コールバーグ・クラビス・ロバーツ日本法人の平野博文社長

 今年は、事業の「選択と集中」を模索する大企業からの相談が大きく増えた。先日来日した共同創業者、ヘンリー・クラビス氏も経営者の意識の変化を強く感じており、日本市場の重要性は高まっている。日本の経済規模を考慮すれば、ファンド業界の成長余地はまだ十分にある。

 大企業の売却案件はもちろん、「ユニコーン」と称される急成長企業にも注目している。アジアでユニコーンを対象にした新たなファンドを立ち上げる。日本ではまだ数は少ないが、今後投資をする可能性はある。

▽「事業承継に商機」
 アドバンテッジパートナーズの笹沼泰助代表パートナー

 後継者不足が深刻化しており、中堅企業の事業承継の受け皿として、ファンド業界に商機があるとみている。かつてはファンドに会社を売却することに抵抗感を持つ経営者が多かったが、成功事例が増えるにつれて変わり始めている。

 人工知能(AI)やロボットなどの次世代技術の台頭はファンド業界にとって追い風だ。古い体質の企業ほどテクノロジーを活用して経営を大きく改善させることができる。もっとも、複数のファンドによる入札が増え、買収価格が上昇しているのは気がかりだ。

アドバンテッジパートナーズの笹沼泰助代表パートナー