TPP発効 価格下落を懸念 海外販路拡大好機の声も

 日本など11カ国が参加する環太平洋連携協定(TPP)が30日に発効した。長崎県内農家の多くは、農畜産物の関税の撤廃や引き下げで安い輸入品が増加し、国産価格が下落することを懸念している。一方、海外への販路拡大に向けた好機とする声も聞かれた。
 TPPはまず、手続きを終えた日本とオーストラリア、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダの6カ国で発効。輸入牛肉の関税は現在の38・5%から27・5%に引き下げられ、16年目以降は9%まで下がる。農林水産省によると、現在輸入量の約半分をオーストラリア産が占める。
 東彼川棚町の喜々津昭さん(70)は高台の茶畑に面した牛舎で約40年にわたり畜産業を営む。2012年に本県で開かれた全国和牛能力共進会(全共)の肉牛の部で日本一を獲得した生産者の一人。現在は約250頭を肥育している。
 TPP発効に「価格が安い輸入肉に流れる消費者もいるのでは。国産価格の下落も気掛かり」と不安をのぞかせる。「影響は不透明。先が読めないからこそ怖い。国には万全な対策を求めたい」
 一方、「発効すれば後戻りはできない。これまで通り世界に通用する良い肉作りに専念することが大事」と言う。来年2月には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効し、年明け以降には米国との本格的な関税交渉も始まる。競争に打ち勝つために「肉質や肉量を改善し、付加価値を追求することが必要になる」と今後を見据えた。
 JAや県、市町などでつくる県農産物輸出協議会の17年度実績によると、長崎和牛はシンガポールや香港、台湾に輸出。輸出額は輸出県産農産物の約3割に当たる約1億円に上った。喜々津さんは「長崎を挙げて輸出にさらに力を入れるべきだ」と提言する。
 豚肉の関税も高級部位なら現在の4・3%が10年目にゼロになる。豚肉全体の輸入量のうちカナダ産が約2割。JAながさき県央養豚部会長の山本義則さん(59)=諫早市飯盛町=は「コストを下げるにも限界があり、価格面で外国産と競争するのは厳しい。今後の経営が成り立っていくのか不安」とこぼした。
 オレンジなど果物や野菜の関税も即時に撤廃されたり段階的に引き下げられたりする。ビワを主にかんきつ類などを生産する森純幸さん(45)=長崎市千々町=は「ビワなど輸入に関係がない品目にも影響が及び、価格が下がるのでは」と懸念を口にした。
 人口減少に伴う国内需要の縮小や後継者不足などを念頭に、TPP発効を現状打開の好機と見る向きもある。県内の農業法人関係者は「農業に人を呼び込むには世界で売れる農産物にすることが必要。TPPをその契機にしたい」と前向きに捉えた。

牛の世話をする喜々津さん。TPP発効の影響は「不透明」と懸念する=川棚町

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