元オリックス選手が社長に転身 客足の絶えない「バッティングセンター」の秘密

バッティングセンターや野球塾を中心に人気を博しているアーデルバッティングドーム【写真:大森雄貴】

代表取締役社長は高見澤考史氏、アーデルバッティングドームの客足はなぜ絶えないのか

 埼玉県さいたま市岩槻にあるアーデルバッティングドームはバッティングセンターや野球塾を中心に、人気を博している。この店舗は、元オリックス・ブルーウェーブで外野手として活躍した高見澤考史氏が代表取締役社長を務める。

 野球離れが叫ばれる昨今、バッティングセンターについて話を聞いた。

「とにかく楽しいんですよ」と、少年のような高見澤氏の笑顔が印象的だ。高見澤氏は現役引退後、アーデルバッティングドームに就職。2004年に店長になった後、現在も続く、野球塾をスタートする。2008年からアーデルの代表取締役として就任した。

 スタッフも高見澤氏の人脈や人柄につられ、元オリックス福留宏紀や川崎泰央、本柳和也、相川良太、元ベイスターズ河野友軌と元プロ野球選手がずらりと揃う。彼らは、バッティングセンター運営の業務はもちろんのこと、隣接している室内練習場を拠点に活動する「野球塾」でも、小学生や中学生らを中心に指導する。

 高見澤は野球塾の理念について「野球塾だから技術だけを教えがちと思われるが、実際は違う。次のステップで活躍してほしいと願うから、しんどいこともする。無理難題と思えることも、自律的に考えて乗り越えてほしい。とにかく子どもにつまらない人間になってほしくない」と語る。

 通う生徒は普段チームに所属しており、さらなるステップアップを目指している。その中でも、自主性を重んじ、豊かな発想力を否定しない。

 野球塾は、個人レッスンをしたり、バッティングセンターを飛び出して、濃密な練習を提供するウィンターキャンプを開催したりと毎日稼働しているほどの人気ぶりだ。やはりキーワードは「楽しい」だと、高見澤氏は言う。

 近年叫ばれている、野球競技人口減少についても持論を伺うと……。

「公園で野球ができない昨今、預けてくれている面もあると思う。でも、保護者がちょっと介入しすぎているんじゃないかと思う。親が子供の荷物を持って帰ったり、ノックをしてても、子どもがお父さんの顔を窺っていたり、といった状況が目立つ」

 高見澤氏はこれまでの経験からの感想を述べ、さらにこう続ける。

「スマホを使える親御さんがほとんどで、情報が簡単に手に入る。そうすると、楽しいものが見える反面、野球のリスクも余計なくらい見えてくる。そうなると、親が『やらせたくない』って決めつけているパターンもあると思う」

 現場での経験が豊富な高見澤氏だからこそ、時代の変化にも敏感に気づくのだろう。親が決めるのではなく、本来スポーツは遊びとして好き勝手やるもの。公園での野球禁止は増加しているが、プレーすることの楽しさを奪ってほしくないと願っている。

アットホームな場所、バッティングセンター人口に変動なし

 店内には、「野球神社」が存在する。神社とともに一から建て、本格的な祠(ほこら)に野球の神様が祀られているという。他にも、アーデルオリジナルショップや可愛らしい公式HP、定期的に行われる斬新な企画など、印象的なデザインを持つ店について高見澤氏に尋ねると「うちは、スタッフに恵まれているんですよ」と笑いながら答える。絶えず、心から野球を愛す元プロ野球選手の顔を見せながら、社員を信頼する“代表取締役”としての懐の大きさものぞかせた。

「特に、意識をしてはないけど、長いこと野球塾をやっていて、自分の子どもを抱いて帰ってくる元野球塾生徒がいたり、高校や大学での結果を報告に来たりと、なぜか皆、“帰ってくる”んですよ。楽しくやっていることがアットホームさを生んでいるのかもしれません」

 野球の競技人口は減っているかもしれないが、ここアーデルに来るバッティングセンター人口に変動はない。むしろ野球塾は、年々受講者は絶えず、遠方から通う者も少なくない。

 高見澤氏は、今後の目標について「自分も経験したが、プロ野球引退後のセカンドキャリアにおいて、野球に携われることは多くの人間が望んでいる。今いる元プロスタッフが、各々の地元でバッティングセンターや野球塾を開けるようサポートし、新たなキャリアパスを作りたい」と話す。プロ野球選手の引退後も見据えている。

 アーデルでは、常連さんや新規客、帰省してきた過去の塾生などと年の瀬に行う“年越しノック”が毎年恒例になっている。お客さん、スタッフ、そして代表取締役のみんなが「楽しい」と口を揃えるバッティングセンターに、是非一度足を運んでみてほしい。(大森雄貴 / Yuki Omori)

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