共生・長崎 外国人労働者 介護現場の“救世主”か

 「失礼します」
 流ちょうな日本語と人懐っこい笑顔で、施設利用者にお茶を運んでいく。車いすの高齢女性の表情が自然と和らいだ。「いつもありがとう。孫みたいでかわいか、好きよ」
 長崎市古賀町の介護施設「ショートステイ王樹」。昨年10月末から、県内初の介護職種の技能実習生として、スリランカ人の女性2人が働いている。高いコミュニケーション能力が求められる介護現場で、慣れない日本語に苦戦しながら技術の習得に励んでいる。
 同施設は昨年初めごろ、結婚などの理由で複数の職員が退職。すぐに求人を出したが、思うように人が集まらなかった。「この先も人材確保が難しい状況は続く」。施設運営会社の勝矢圭一社長(44)は、有力な解決策が外国人の労働力だと考えている。
 国は入管難民法を改正し新たな在留資格「特定技能」を新設。外国人労働者の受け入れ拡大にかじを切った。介護分野では、4月から5年間で6万人を上限として受け入れる方針。人材不足にあえぐ本県の介護現場で外国人労働者は“救世主”となるだろうか。

◎地方の人材確保 疑問視 介護現場 整わぬ受け入れ環境

 時計の針が午後3時を回った。12月下旬、長崎市古賀町の介護施設「ショートステイ王樹」。
 台の上に並べたお盆に抹茶ババロアの入った器を一つずつ置き、利用者のカップに手際良く緑茶やコーヒーなどを注いでいく。昨年10月から働くスリランカ人の技能実習生、ニマーリ・ワットサラーさん(25)とレーヌカー・ディルルクシさん(29)。優しい笑顔が印象的だ。
 今は食事の準備や部屋の清掃などの生活援助を担当しながら、日本人職員が利用者を介助する姿を見て学ぶ日々。日本人の同僚から日本語を教わっている。さまざまなケアの形を知るため、先日は「みとり」の場面にも立ち会った。
 実習の予定期間は3年。この間に知識と技能を身に付け、ニマーリさんは介護施設を、レーヌカーさんは「親のいない子どものための施設」を、母国に造る夢を描く。2人は「日本語は難しいけど、お年寄りと話すのは楽しい」と充実した表情を浮かべる。
 4月からの新在留資格「特定技能1号」は、対象国から来て3年以上の実習経験があれば無試験で移行できる。運営会社の勝矢圭一社長は「(実習予定の)3年より長くいてくれたら職場としては大歓迎なのだが」と話す。
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 現在、外国人が介護分野で働くには技能実習(2017年11月~)、経済連携協定(EPA)枠(08年度~)、専門学校などに留学し介護福祉士の資格を取得すれば認められる在留資格「介護」(17年9月~)の主に三つのルートがある。
 深刻な人手不足解消に向け、国はこうした複数の「門戸」を構えたが、言語の壁もあって受け入れは停滞気味だ。国は技能実習生の初年度受け入れを5千人と見込んでいたが、結果はわずか247人。同実習生を含め県内の介護分野で働く外国人は、県が18年2~3月に実施した調査によると、留学生など36人にとどまった。
 4月に「特定技能」という新たなルートが導入されるが、勝矢社長は「国の思惑通りに人材は集まるのか」と疑問視。介護分野の人材確保には賃金などの待遇改善、つまり国による介護報酬の引き上げが必要とした上でこう懸念する。「送り出し国が発展すれば、そもそも日本に行く必要がなくなる。そんな時代はそう遠くないのではないか」
 「県ごとう人材確保・育成協同組合」(五島市)は、介護実習生の受け入れ窓口となる監理団体に昨年1月認定された。神之浦文三代表理事(59)も新制度の行方に不安を抱えている。
 同代表理事が運営する福祉施設では、まだ外国人材を確保できていないが、昨年、光熱費負担だけで住める外国人専用の宿舎を建設。今年さらにもう1棟造る計画だ。決して安くない出費だが、「一人でも多くの外国人に来てもらいたい」と同代表理事。
 介護の技能実習生は入国して1年以内に、一段上の日本語能力試験に合格する必要がある。都市部であれば日本語教室に通ったりできるが、五島に語学学校などはない。だから、同代表理事は通信教育で日本語講師の資格を取得して、自ら外国人の指導にあたるつもりだ。
 「地方ほど人材不足が深刻なのに、外国人労働者を受け入れる環境が整っていない。都市部に人材が集中するのではないか」。同代表理事は危機感を募らせている。

施設利用者を笑顔で見送るニマーリさん(中央)とレーヌカーさん(左)=長崎市、ショートステイ王樹

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