中上がMotoGP初年度につかんだ課題とヘレステストで手にした自信。「2019年のポイントはシーズン序盤」

 2018年、MotoGPクラスデビューを果たし、ロードレースの最高峰クラスで唯一の日本人ライダーとして戦った、中上貴晶。MotoGPクラスのルーキーイヤーを振り返る中上は、冷静に自分の課題を見つめていた。

「かなり厳しいコンディションでした」と語るのは、最終戦のバレンシアGPについてだ。

 2018年シーズンの最終戦バレンシアGPは雨のレースになった。その路面状況からレースは一時中断。コンディションの回復を待ってレースは再開されたが、24台中完走15台というサバイバルレースだった。

 中上はそんな厳しいレースを堅実に走り抜き、6位でフィニッシュ。今季自己ベストリザルトでチェッカーを受けたばかりか、インディペンデントチームのトップを獲得した。

強い雨に見舞われた2018年最終戦バレンシアGP。コンディションの悪化によりレースは一時中断となるなど波乱のレースとなった

「(レース1では中断する)3、4周前から赤旗をずっと待っていました。それだけひどいコンディションだったんです。いつ赤旗が出るか、出てほしい、と思っていました」

「6位でゴールしたのは知っていたけれど、インディペンデントチームのトップというのは知らなかったんです。だからパルクフェルメを通過してしまいました。チームに『トップだからパルクフェルメだぞ』って言われて。うれしいサプライズでしたね」

「最後、いい形でシーズンを締めくくれたと思います。一番うれしかったです」と笑顔を見せた中上。ただ、2018年シーズン全体としては、満足のいくものではなかった。全19戦で獲得したポイントは33、ランキングは20位で、目標としていたルーキー・オブ・ザ・イヤーには手が届かずに終わった。

「最終戦はいい形で終えられたけれど、シーズンとしては自分が望んでいたレース結果は残せませんでした。自分が最初に目標にしていたトップ10圏内でのゴールはなかなか達成できなかったし、そこに届きそうで届かない、というレースが続いてつらかったです」

 2018年シーズン開幕前のオフシーズンのテストでは、Moto2マシンからMotoGPマシンへの乗り替えはうまくいった。リザルトも第2戦アルゼンチンGPから第5戦フランスGPまで連続でポイントを獲得。ただ、シーズン中盤にリズムを崩して失速した。

「シーズンに入って周りが仕上がってきたとき、僕が届かない部分がありました。自分のなかでもライディングに対して、迷いが生じたりもしたんです」

「オフシーズンのテストはシンプルで、セッティングもそれほどいじらず、MotoGPマシンに慣れることに集中しました。しかし、シーズンではセッティングが合わなかったり……。電子制御を経験するのが初めてだったこともあります。コンディションに合わせて変更を加えてはいましたが、いじりすぎて戻る場所を失ってしまった時期もありました」

 それがちょうど、低迷したシーズン中盤だった。第6戦イタリアGPから第10戦チェコGPまで、転倒やノーポイントレースが続いたのだ。

「シーズン中盤にノーポイントが続いたのが、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得できなかった理由」だと中上は語る

「今振り返ると、もっとシンプルに考えればよかったと思います。ただ、そのときは状況を改善したいと走っていて、焦りもあり気を遣いすぎたところもあります。2019年ではそれをなくしたいです」

 2018年シーズン、ルーキー・オブ・ザ・イヤーはフランコ・モルビデリに奪われた。スピードではモルビデリに勝っていると中上は言う。しかし一方で、中上はモルビデリの後塵を拝した理由を見出していた。

「課題は明確です。レース中、バトルでの強さが足りない。(オフシーズンは)そこをメインにトレーニングしたいと思っていて、バイクに乗る時間を増やすつもりです。日本ではダートトレーニングなど、バイクに乗る環境が難しいので、スペインで過ごす時間をもっと増やしていきます」

「バトルの部分や相手との距離感など、劣っている部分を改善できれば、必然的にレースでの強さも身につくと思います。だから(2019年シーズンが)すごく楽しみなんです」

## ■Moto2マシンの癖がMotoGPマシンのライディングに影響
 2019年シーズンに向け行われた11月末のヘレステストで、中上は2日間総合トップタイムをマークした。へレステストで中上が乗ったのは、2018年型のホンダRC213V。今季、チームメイトのカル・クラッチローが駆ったマシンだ。

 2019年、中上はこの2018年型RC213Vで戦うことになるという。そのバイクでマークしたトップタイム。中上はマシンに手ごたえを感じていた。

11月下旬に行われたヘレステストで、2日間総合トップタイムをマークした中上

「2018年型マシンのパフォーマンスは、2017年型に比べてよくなっています。力があって乗りやすく、トップスピードも速くなりました」

「2018年型はかなり戦闘力が高いことがわかりました。すごくチャンスがあるんじゃないかと思います。特に、まだ2019年(型の)バイクが仕上がっていないシーズン序盤は、ポイントになると考えています。そこを最大限に活かしたいですね。2018年型は、2019年型とはそんなに差がないと思うんです」

 トップタイムの要因はマシンだけではない。中上自身の進化もあった。

「この1年、僕がMotoGPマシンに慣れたこともあります。その経験をテストから活かすことができました」

「ライディングが変わりましたね。Moto2マシンとMotoGPマシンは走らせ方が違います。シーズン中はMoto2の癖が出てしまったりもしました。それを悩みながらシーズンを過ごしてMotoGPマシンに慣れていき、今はだいぶ自信を持てるようになりました」

 ライディングが変わったと語る中上。シーズン中にはMotoGPマシンの走らせ方に悩むこともあった。

2018年シーズン、1年をとおして試行錯誤しMotoGPマシンに慣れていたという

「MotoGPマシンの性能はすごく高いんです。限界値がすごい。みんな紙一重の操作でタイムを出しています。それに比べると、Moto2マシンは少し限界値が低いんです。自分が思っている限界の操作をしてしまうと転倒につながったり、これ以上いけないという感触があるのですが、MotoGPマシンはそれをはるかに超えたところまでいけます。Moto2クラスに6年間参戦していたので、(2018年は)Moto2マシンの感覚が残っていました」

「それから、MotoGPマシンはパワーがものすごいです。コーナー脱出でのバイクの起こす角度などはとても精密で、繊細な操作が必要です。シーズン中はそこに悩み、今でも課題です。それから自分ではやっているつもりでも、足りていないところもありました。そういうところがシーズン後半につれて、少しずつ壁を壊していけた。MotoGPバイクに特化した走らせ方ができるようになったんです」

 ヘレステストで、中上は初日からいい流れにあった。初日は3番手。2日目もつねに上位につけていた。リズムをキープしたままトップタイムを叩き出し、最高の形で2018年を締めくくった。

## ■クラッチローは“ライディングの先生”
 MotoGPクラス初年度、Moto2マシンからの乗り換えに腐心し、シーズン中にはライディングに悩みもした。そんな中上がつねに参考にしていたのは、2018年チャンピオン、マルケスだった。

「同じホンダ車両で、ホンダのなかでも頭ひとつふたつ抜けた結果を残しています。1日の終わりにはマルクのデータを見て勉強しています」

 ただ、中上にとって“ライディングの先生”は、チームメイトのカル・クラッチローだ。2018年シーズン前のインタビューで、中上はオフシーズンのテストではクラッチローが「ビックリするほど助けてくれた」と語っていた。その関係性は、今も変わっていない。

中上(右)にとってチームメイトであり、頼もしい先輩でもあるクラッチロー(左)

「(クラッチローは)聞けばなんでも答えてくれるんです。だからいろいろ相談しています。ホンダのRC213Vは独特で、オールマイティではないところがあります。カルは違うメーカーを渡り歩いてホンダ機に乗っているので、ホンダ機のよさなども知っています。ホンダのMotoGPマシンの走らせ方は、カルが一番知っているんじゃないでしょうか」

「タイヤに関してもカルの方が早くテストしているので、『これ、よかったから試したらいいよ』って教えてくれるんですよ。ライディングに関しても、『もっとこうした方がいいよ』ってアドバイスをくれます。ほんと、ライディングの先生ですね。すごく助かっています」

 チームメイトのみならず、中上は所属チームであるLCRホンダとも良好な関係を築いている様子。LCRホンダの話題になると、中上は「(チームとの関係性は)ものすごくいいです!」を相好を崩した。

チームメイトともチームとも、いい関係性を築いている。環境は申し分ない

「アットホームなチームです。LCRホンダには今年初めて加入しましたが、このチームのままでワークスバイクに乗れればいいなと思うくらい、居心地がいいんですよ」

「コミュニケーションにもまったく困ってないですし、全員と和気あいあいと話すことができます。シーズン序盤は壁みたいなものがありましたが、話しながら理解し合って関係を築いていき、シーズン後半は本当に仲がよくなりました」

 LCRホンダの代表であり監督を務めるルーチョ・チェッキネロ氏は、元ロードレース世界選手権(WGP)ライダー。中上がチームとチェッキネロ氏に大きな信頼を寄せていることは、その様子からもわかった。

「監督のルーチョさんは本当にいい人で、いつも気にしてもらっています。もともとライダーというのもあって、ライダーの気持ちや悩みをすぐに理解してくれるんですよ。ライディングの先生がカルで、チームについてはルーチョさんに助けてもらっています」

「環境はすごく恵まれています。だから、走りだけに集中して、結果を残せれば(みんなで)ハッピーになれる。2019年は、それを目指します」

 戦闘力の高いマシン、自身を取り巻く環境と条件はそろっている。中上が2019年、見すえている目標はどこなのだろう。

「全19戦あるなかで、どんなときでもシングルフィニッシュが目標です。必然的にプレッシャーを感じるところもあるけれど、まずは安定してレースを終えることですね。そして5位、6位あたりのレースをしたいです。それができるようになれば、次は表彰台を目指します。きっちり自分ができるパフォーマンスを最大限に引き出して、納得のいくレースをしたいと思います」

 2019年は、もうMotoGPクラスの新人ではない。ルーキーたちを迎え撃つ立場にもなる。へレステストでは、進化を遂げた存在感をアピールした。2019年、MotoGPクラスのポディウムに立つ中上の姿を、期待せずにはいられない。

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