eスポーツ:舞台裏支えるキーマンが語る“現状と課題”

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グルーブシンクの松井悠社長

 対戦型のコンピューターゲームを「スポーツ」とみなして腕を競う「eスポーツ」が話題だった2018年のゲーム業界。eスポーツの業界団体「日本eスポーツ連合」が設立、日本テレビや吉本興業などもeスポーツに参入、日本野球機構が主催して「実況パワフルプロ野球」の12球団参加のゲーム大会も開催。流行語大賞のトップテンにも選ばれるなど、盛り上がるeスポーツの現状と課題について、多くのeスポーツのイベント運営を手掛ける“キーマン”のグルーブシンク(東京都新宿区)の松井悠社長に話を聞いた。

 ◇元“プロ級”のゲーマーの社長

 グルーブシンクは、ソニーグループやキッズステーションなどのホームページ制作をする会社だが、一方でゲームイベントを約20年も運営しているなど、eスポーツのイベント運営の実績もある。松井社長は、ゲーム開発者向けの交流会「CEDEC」でもeスポーツの講演をするなど、業界では知られた存在だ。

 松井社長の経歴はユニークだ。東京都内の有名進学校に進んだが、ゲーム禁止の家庭で育ったため、昼食代を切り詰めて外で遊べるアーケードゲームに熱中。エスカレーター式の高校には上がれずに、「手に職をつけないとダメ」と考えて高校生でゲームライターになった。ゲーム大会で日本一にもなったこともある、“プロ級”の腕前を持つ筋金入りのゲーマーで、22歳で起業して、現在に至る。

 手掛けたのは、ゲームショーのステージや、人気ゲーム「コール オブ デューティ」のイベントなど数え切れない。東京・中野にある世界的飲料会社レッドブルのゲームイベントスペースも運営。同社のゲーム事業は、ゲームが好きな松井社長が自ら指揮を執り、イベント全体の設計、映像配信、機器の動作テスト、ゲームのルール、選手のサポート、ノベルティーの制作……と多岐にわたる。「ゲームを作ること以外は何でもやります」と松井社長は笑う。

 イベントのために、ゲーム機を何十台も並べてテストをし、メーカーも知らないトラブルを発見することも。松井社長は「USBを差す順番が違うだけでゲームが強制終了したことがあります。そのときは冷や汗をかきました」と明かす。eスポーツのイベントは、こうした入念な準備があって、初めて無事に開催できるわけだ。

 ◇インフラ強化がeスポーツの拡大に

 eスポーツの原点は、実ははっきりしない。“ゲームの競技化”といえるのは、1997年に米ダラスで開催された「Cyberathlete Professional League」や、90年代の北米で流行した、個人のパソコンを持ち込んで対戦する「LANパーティー」を挙げる人もいる。松井社長は「関係者にあたって調べてみたのですが、eスポーツの語源などは諸説あってはっきりしなんです。北米や韓国で言ったという説もあります。LANパーティーで『これはスポーツでしょう!』と叫んで定着した……というのもありますね」と明かした。

 松井社長が「eスポーツ」の言葉を聞いたのは05年前後で、韓国のイベント「World Cyber Games」の日本予選が始まり、松井社長の元に話が持ち込まれた時だったという。00年代に日本でeスポーツのブームが起きて一時期メディアに取り上げられたものの、お金を出すスポンサーもあまり出ないまま、ブームは沈静化した。

 00年代に不発に終わった日本のeスポーツが、なぜ今になって火がついたのか。松井社長は理由の一つとして「ネットインフラの充実で、ネットでの視聴体験が可能になったことでしょう。ネット配信が増えた瞬間、eスポーツの知名度が格段に上がり、ファンも増えた」と指摘する。さらに「eスポーツの動画配信があるまでは、イベント会場に直接足を運ばないと観戦できなかったのが、地方や海外の大会が見られるのは大きい」と話している。

 ◇ゲーム会社とユーザーの“対立”構造

 eスポーツといえば、海外で総額20億円以上の大会もあるなど、賞金額が話題になるが、それはあくまでも一つの側面に過ぎないという。松井社長は「海外では、賞金の減った、またはなくなった大会に選手が出なくなった……という例もありますが、それを突き詰めると『何のためにゲームをしている?』となるのです。そして「eスポーツはマネタイズよりも、『このゲームの一番うまいやつは誰だ!』という、名誉を求めてやっているわけです。eスポーツは、パブリッシャー(販売会社)、デベロッパー(開発会社)、ユーザーの誰が欠けても大会はできないのです」と説明する。

 eスポーツに不可欠なこの3者だが、立場によって見方が変わる。パブリッシャーはゲームという商品を売るためのプロモーションツール、デベロッパーはゲームの中のコンテンツの一つ、ユーザーには何度でも遊べるネバーエンドのコンテンツ……となる。さらにeスポーツを観戦するオーディエンス(観客)にとっては、エンタメの番組になる。

 そんな中でeスポーツでは、パブリッシャーとユーザーの“対立”構造が指摘されている。パブリッシャーは「著作権者としてゲームを使わせてやっている」、ユーザーは「俺たちがゲームを盛り上げてやっている」という見方だ。松井社長は「対立があるのは確かでしょうが、全員が当事者でもあるのだから、上から目線でなく皆が同じ方向を向いて歩み寄ってほしい」と指摘する。それでも「一番リスクを負っているのは、巨額の開発費を投じたパブリッシャー。ユーザーのリスクはソフトの購入費と課金、時間なので、そこは考慮しないといけないと思うのですが。『ビジネスだから(パブリッシャーが)リスクを負うのは当然』と言ってしまっては、歩み寄りが難しくなってしまう」と説明する。

 ◇実況のノウハウ不足 

 そしてeスポーツの課題はもう一つある。第三者である観客、特に初心者ゲーマーにゲームの面白さを伝えるのが難しい点だ。松井社長は「観戦しても、周囲が盛り上がっているのに、分からない人がいるほど悲しいことはない。実況もさることながら、どうやって画面上で少しでも分かりやすくするかですね」と語る。

 実況のスタンスについても初心者視点が大切だという。松井社長は「『上級者の観戦者は中継画面を見たら理解できる』と割り切り、初心者をいかに引き込むか。もちろん通好みに合わせた実況も否定はしませんが、置いてけぼりの観客を作るぐらいなら、分かりやすさを優先するべきでしょう」と断言する。

 さらに松井社長は、実況の方法も変えるべきだと説明する。「今の日本ではeスポーツを扱う番組はバラエティーのテイストなのです。しかしeスポーツ先進国の北米では、車両中継や、リプレーを出すなど、スポーツ中継のクオリティーにしています。要するにゲーマーをスポーツ選手と捉えて、そのすごさをどう見せるかというのが主眼になっているわけです」と説明する。米国ではスポーツ専門チャンネルの「ESPN」などのノウハウがあるので、ゲーマーのデータの見せ方も巧みだという。松井社長は「今は“eスポーツバブル”と言われていますが、逆にゲームを見てくれるチャンスなのです」と話している。