鉄鋼原料、需給安定で価格動意薄 2019年の市場動向を占う

 高炉メーカーの業績に大きな影響を与える鉄鉱石、原料炭の動向―。昨年(2018年)は年間を通じて安定した需給環境が続き、価格も落ち着いた動きに終始した。2019年はどのような展開になるのか。鉄鉱石、原料炭の需給を中心に、今年の動きを占ってみた。(高田 潤)

 鉄鉱石

 高品位鉱は品薄続く/粉鉱・価格伸び悩み、ペレット・高値寄りの公算/中国の環境規制で、需要環境に違い

 鉄鉱石の国際価格の指標となる中国向けスポット価格(本船渡し価格)は昨年、1トン当たり55~72ドルのボックス圏内で推移した。これを基準に決まる対日四半期価格は56~67ドルとスポット価格よりもさらに小さいレンジにとどまった。この高値、安値の価格差は15年で20ドルあったが、16年は13ドルまで縮小。17年は再び20ドルに広がった。値差が11ドルにとどまった18年は、価格面で見ればここ数年にない穏やかな年だった。

 中国、鉄鉱石の消費伸びず

 中国向けスポット価格の対象は鉄分62%の粉鉱石。つまり18年は、この粉鉱石の需給がさほど引き締まらず、どちらかというと緩和傾向に終始。その結果、価格を押し上げる動きに乏しかったといえる。

 中国の昨年の粗鋼生産量は前の年に比べ約3%増加、過去最高を更新したもよう。これに対し銑鉄生産量は1%台の伸びにとどまったとみられる。これは、同国で17年に本格化した「地条鋼」の操業規制によって地条鋼の原料だった鉄スクラップが既存の高炉、電炉メーカーに流れたためとみられている。つまり、統計に反映される鉄鋼生産に関しては原料構成が変化。鉄スクラップの使用量が増えた分、鉄鉱石、特に粉鉱石の消費量が減ったとみてよいだろう。

 統計によると、中国の昨年の鉄鉱石輸入量は約11億トン。17年に比べ若干増加した。このうち粉鉱石の占める割合は不透明だが、市場関係者の多くが昨年の粉鉱比率は17年比で低下したと指摘する。

 中国は、16年からの第13次5カ年計画で、地条鋼の撤廃とは別に、5年間で1億5千万トンの能力削減方針を打ち出し、昨年までの3年間でこの目標を前倒し達成したもよう。昨年は大都市部を中心に大気汚染防止を目的とした操業規制も断続的に続けられた。この点からも昨年は鉄鉱石の消費が伸びにくい状況だったといえる。

 中国の鉄鉱石輸入が大きく伸びなかったことに加え、昨年は供給側にも目立った動きはなかった。昨年の海上貿易量は17年比で1~2%程度の増加にとどまったもよう。最大の供給国オーストラリアの輸出量も同程度の伸びとみられ、鉄鉱石サプライヤーは引き続き需要見合いの生産・出荷に徹した。供給側にも需給に変化を与える動きはなかったことで、結果として鉄鉱石価格は低位で安定推移したといえる。

 粉鉱、需給緩和の公算

 19年の鉄鉱石需給はどうなるのか。市場では「18年とほぼ同じ動き」といった見方が多い。粉鉱石の需給はバランスするとはいえ、需要に力強さがない分、「若干の供給過多」から当面は脱しないとの見方だ。

 市場を弱気にさせているのは、やはり中国の動きだ。

 中国の鋼材需要は政府の景気対策を追い風に底堅く推移する可能性が高い。ただ、環境規制によって鉄鋼メーカーの生産活動が伸び悩むことが予想されるほか、米中貿易摩擦による景気減速懸念も不安材料として残る。

 環境規制を巡っては、景気対策を優先して操業規制を緩和するのではないかとの観測もあるが、大気汚染防止はまだ途上で、環境規制が簡単に後戻りすることはないだろう。中国の最新鋭の製鉄所は、排ガス処理を徹底しているが、多くの製鉄所はまだ対策が不十分とみられている。特に焼結機の排ガス対策がどの程度進んでいるかは未知数。こうしたことから焼結鉱向けの粉鉱石の需要は大きく伸びないとみるのが妥当だろう。

 供給側は引き続き需要見合いの生産・出荷を継続する。リオ・ティントやBHPといったメジャーサプライヤーは「量より質」の方針を明確にしており、全体の輸出量を伸ばすよりも付加価値が少しでも高い高品位鉱の供給を優先する方針だ。

 対日四半期価格をはじめ国際価格の指標となる中国向けスポット価格は、粉鉱石の需給が引き締まらないなか、18年同様、安定推移する可能性が濃厚だ。

 塊鉱、ペレットは品不足続く

 粉鉱の需給に大きな変化はないが、高炉に直接投入する塊鉱石や鉄鉱石ペレットなどは需給が引き締まる可能性がある。

 塊鉱石とペレットの価格は、粉鉱石価格(基準価格)にプレミアム(上乗せ金)を乗せた価格。このプレミアムが昨年秋以降、供給不足を背景に急激に上昇している。プレミアムは通常、塊鉱石で10ドル、ペレットで20~30ドル程度だったが、いずれも昨年末までに2~3倍に急騰。安定推移した粉鉱石とは対照的な動きで、高炉メーカーの製銑コストを押し上げる要因となっている。

 塊鉱石、ペレットの需要を押し上げているのが中国の環境規制だ。こうした鉱石を使えば焼結鉱の量を減らせるため、中国では大手の高炉メーカーが昨年、積極的な買いに動いた。オーストラリアなどのペレットサプライヤーはこうした動きに対応、増産体制をとっているが、昨年は供給不足が表面化した。今年も同様の傾向が続くとみられ、ペレットなどのプレミアムは高値寄りに推移する公算が大きい。

 原料炭

 需給緩和〝より鮮明に〟、供給増で割高感解消へ

 原料炭は2018年、鉄鉱石と比べると高い水準で推移した。需要面では中国の輸入が減少するなど価格下押し要因があったが、粗鋼生産が拡大するインドが輸入を積極化したこともあり、価格が下がりにくい状態が続いた。

 昨年の対日四半期価格(強粘結炭、本船渡し価格)は、1トン=187~237ドルのレンジで推移。直近の昨年10~12月積みでは3四半期ぶりに200ドルを上回った。こうした価格水準について、国内の市場関係者は「需給がさほど引き締まらない中で、割高観が強かった」と振り返る。四半期価格の指標となる中国向けスポット価格は、対象となる市場が鉄鉱石ほど大きくないため、高値の成約があった場合には上振れしやすい。昨年はインドの高値購入が目立ち、これがスポット価格に反映された可能性が高い。

 需給ファンダメンタルズを冷静に見ると、原料炭マーケットは今年、緩和傾向が昨年よりも鮮明になりそうだ。

 市場関係者が、中国の輸入減と合わせ、マイナス材料として指摘するのが供給増。最大輸出国のオーストラリアでは、ここ数年の価格安定を受けて、炭鉱の新規開発、再開、増産の動きが目立つ。強粘結炭の産地、クイーンズランド州では、グレゴリー炭鉱が再開の見通し。QコールとJFEスチールの合弁事業体が運営するバイヤウェン炭鉱も今年本格操業に入る予定だ。

 オーストラリア以外の供給国では、ロシアやモザンビークで輸出が増えそう。また、価格が高止まりしているため、米国の石炭サプライヤーもアジア向け販売を強化するもようだ。オーストラリアに関しては、積み出し港の供給能力ネックが問題となる可能性もあるが、19年は18年よりも供給が増えるのは確実な情勢だ。

 需要面ではインドの輸入増が予想され、価格の下支え材料とはなるが、中国の輸入が伸びない場合、年間を通じて価格を押し上げるのは難しそうだ。

 原料炭のスポット価格は昨年末、200ドル強の水準で推移したが、その一方で中国産コークスの価格が反落するなど、下押しの兆しが出始めている。高炉吹き込み用のPCI炭についても、需要は増加傾向にあるが、供給が順調に伸びており、需給が極端に引き締まる状況にはない。原料炭は今年、全般に下値を探る可能性が高い。

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