【MLB】クリエイティブな契約と異例起用法―マリナーズが菊池雄星を獲得できた理由

マリナーズに入団が決まった菊池雄星【写真:AP】

勝因はクリエイティブな契約と異例の起用法、ディポトGM「球団と選手双方にメリット」

 西武からポスティングシステムを利用してマリナーズと最低でも4年総額5600万ドル(約61億円)、最大で7年総額1億900万ドル(約116億6000万円)で契約した菊池雄星投手。3日(日本時間4日)に本拠地のT-モバイル・パークで行われた入団会見では米メディアの質問に英語で対応するなど、衝撃の“デビュー”を飾った。

 昨季終了後からジャイアンツ、フィリーズなど複数球団が獲得へ意欲を見せていた菊池争奪戦。最終的にはマリナーズと最長7年1億900万ドル(約116億6000万円)で契約したが、米メディア「ジ・アスレチック」は「どのようにマリナーズはユウセイ・キクチを獲得したか」との見出しで特集記事を掲載。「マリナーズの日本人選手との深いつながりでもなく、2019年に優勝を全力で目指すチームであったからでもない。最終的にキクチを獲得できた理由は代理人スコット・ボラス氏に提案したオファーの2つのユニークな点だった」と指摘している。

 まず同メディアが1つ目に指摘したのはマリナーズが菊池に提示した「双方にとって適したクリエイティブな契約オファー」。昨季終了後からチームは主軸のカノやセグラ、エースのパクストンや守護神のディアスをトレード放出。将来の基盤として左腕・シェフィールドら多くの若手有望株を獲得した。今季の戦績よりも将来を見据えた血の入れ替え。チームを再建する中での争奪戦参戦とあって、「(GMの)ディポトはクリエイティブにならなければならなかった」というのだ。

 記事では、マリナーズはボラス氏が代理人を務めた通算98勝右腕、フィリーズのアリエッタを参考にしたとしている。同投手は15年に22勝を挙げて最多勝、サイ・ヤング賞を受賞したが、球速の低下などで16年18勝、17年14勝。成績が下降する中で17年オフにFAに。FA市場の目玉選手と注目されながらスプリングトレーニングが始まっても所属先が決まらなかったものの、最終的には18年3月中旬にフィリーズと契約した。保証された契約は3年7500万ドル(約81億3000万円)だったが、注目はオプション。アリエッタ側は2年後の2019年オフにFAとなれるオプトアウト(契約破棄)の権利を持つ一方で、フィリーズ側には「アリエッタのオプトアウト権を破棄できる権利」がついた。ただ、アリエッタのオプトアウト権を破棄するために球団は2022年まで契約延長することが条件。つまり基本3年契約だが、両者の意向次第では最長5年契約となる変則の契約内容だ。

リフレッシュデーを設ける起用法も「勝因」に

 このアリエッタの変則契約が「キクチの契約の基盤となった」と記事では指摘。菊池に保証されたのは3年契約だが、マリナーズがオプションを行使すれば4年契約を延長できる。一方で、球団がこのオプションを行使しなければ、菊池は1年の契約延長を選択することが可能。つまり、最長7年契約となる。記事ではディポトGMの「球団と選手双方にメリットのある契約だ。(キクチを)7年間確保することもできる」とのコメントを紹介している。

 同メディアが2つ目に挙げたのはマリナーズが提示した2019年の菊池起用法だ。菊池は1年目から先発ローテとしての活躍が期待されるが、若手有望株のシェフィールドやダン、昨季ブレークしたゴンザレスらで構成されるであろう20年以降はより重要な投手となると位置付けられている。チームは厳格なイニング数の制限などを設けないものの、マイナーからメジャー昇格を目指す投手に使われる起用法を約束。具体的には6試合に先発したのち、1試合では“オープナー”のように先発で1イニングだけを投げるリフレッシュデーのようなものを設ける起用プランだ。

 これまで松坂大輔やダルビッシュ有、大谷翔平ら多くの日本人投手が滑りやすいとされるメジャー球や硬いマウンド、短い登板間隔などで故障や手術に悩まされてきた。同メディアは菊池に提示された異例の起用法が契約を結ぶ勝因になったと分析し、「主力を放出して2019年に全くメジャーでプレーしないかもしれない選手たちを獲得し、昨季89勝した25人枠が解体された激動のオフにおいて、キクチと契約する決断は初見では不思議に見えるかもしれない。しかし、シアトルのクリエイティブな契約について少し深く考えると、(菊池とチームの)成長プランは理にかなっていることがわかる」と締めくくっている。

 記事では、ディポトGMの「我々は多くの若手選手たちがメジャーレベルに成長する2020年に焦点を当てている。(菊池も)その1人だ」というコメントも紹介している。将来も見据えられた中で、菊池がルーキーイヤーにどのような投球を見せるのか。まずはステップアップのシーズンにしたいところだ。(Full-Count編集部)

© 株式会社Creative2