【鉄鋼建材の18年回顧と19年展望】18年は需給が急速にタイト化、需要堅調も供給阻害要因が多発

 鉄鋼建材業界は2018年、堅調な需要が継続し大型案件を中心に繁忙。一方で未曾有の自然災害の影響やメーカーの生産トラブル、工期の遅延により需給が急速にタイト化し稀に見る「混乱の年」となった。18年を振り返りつつ19年の鉄鋼建材業界の展望を探る。(村上 倫)

 「需要が堅調な中で突発的な要素も多く、2018年は〝安定生産の確保〟が最も重要なキーワードになってくるかもしれない」―昨年の本稿の締めくくりにこのように記したのだが、18年はまさにこれが的中する形となり、さまざまな不足が目立つ年となった。

 建設用鋼材関連で最初に鮮明になったのはプレスコラムの不足だ。物件の大型化などを背景に、17年11月ごろから生産量が急増。18年4月の時点で「年内の商談は終了し、新規顧客へ対する納期は1年近い」(大手筋)とほぼ〝お断り〟の納期となった。いわゆるシンパの顧客への供給は意地でも確保する姿勢を鮮明にし、納期を堅持したが、一部メーカーでは想定を超える受注により生産が追いつかない異例の事態が発生。素材の厚板部隊などと協力して、同年11月ごろにようやく収束のめどがついた形となった。

 プレスコラム需要の増加は物件の大型化に加え、人手不足も背景にあるようだ。型枠工の不足によって「鉄筋コンクリート造から鉄骨造へのシフトが進んだ」(メーカー筋)。プレスコラムの需給ひっ迫を受け、ロールコラムについても大型サイズを中心に需要が増加。18年6月ごろからは中小建築案件の増加を背景にフル生産となり、足元では需給のタイト感が非常に強い。東京五輪開催へのカウントダウンが始まりつつある中で「下期からの建設用鋼材需要の山の高さが急拡大した。リミットが近づいていると実感した」(メーカー筋)との声も聞かれた。18年度の鉄骨需要は520万~530万トン程度との見通しが強く、ファブリケーターの生産能力などを考慮すると無理なく生産するには天井に近い数量となっている。鉄骨需要の増加によって目立ったのがハイテンションボルトの不足だ。溶接工の不足により鉄骨の接合が溶接からボルトへと切り替わるなど鉄骨造のボルト接合比率が高まったことなども背景に需給がタイト化。「鉄骨需要量が520万トン程度であるのに対し、ボルトは鉄骨重量で600万トン分が出ている」(メーカー筋)との声も聞かれる。

 この要因として、素材を供給する新日鉄住金室蘭製鉄所の自然災害による不調や建築向けの生産調整などが挙げられたが、同社によると供給を絞った事実はなく「むしろ前年比2割増で供給している」(関係筋)とフル生産で対応し続けているという。いずれにせよボルトは枯渇しており「手当てに苦労している」(重仮設メーカー筋)との声がよく聞かれた。

 こうしたコラムやボルトの不足に加え、18年夏に発生した台風や豪雨、大阪北部地震などの自然災害も「泣きっ面に蜂」となった。海送を中心にデリバリーへや生産に支障が生じた。JFE建材の神戸工場は昨年9月の台風21号による高潮被害でデッキプレートの生産ラインが停止。「JFE建材発足以来最大の危機」(幹部)と認識するほどのダメージとなったが、全社一丸となって復旧や生産の振り替えを実施したほかJFEグループの支援などにより乗り越えつつある。デリバリーについては従来から輸送問題は深刻化しており、ドライバーやトラックの不足や運賃の高騰が川上から川下まで重くのしかかっている。積載効率が悪く現場でのドライバーの待機時間も長時間となる傾向の強いデッキプレートなどは「運べなくなる危機感が切迫している」として、共同配送も含めた対策を真剣に検討しているメーカーもある。

 さらに今年は高炉からの鋼材供給が極めて不安定な年となった。最も目立ったのはJFEスチールで、倉敷を中心としたミルのトラブルで生産量が減少。設備の老朽化に加え、現場の若年化、生産品目のサイズ拡大や外法一定H形鋼や極厚H形鋼、ハット形鋼矢板など製造が難しい製品が増えておりラインへの負担が増加したことなどが影響している。新日鉄住金も建材分野は生産ラインの大きなトラブルはなかったものの、小規模のトラブルが断続的に発生。旺盛な国内需要を背景にフル生産が続く中でトラブルによる生産の遅れを取り戻しきれずに納期調整せざるを得ない状況となった。

 土木用鋼材については東日本大震災の復興需要はピークアウトとなったものの、災害復旧関連を中心に堅調な需要推移となった。鋼矢板需要は上期の荷動きは鈍く今年の需要減も見込まれたが「下期に入り西日本を中心とした豪雨災害の復旧関連の注文が前倒しで入った。月間数千トン規模で、11月~1月ロール分は想定以上の注文となっている」(高炉筋)。旺盛な民間建設投資案件を背景に仮設向けも増加し、前年並みの40万トン規模を維持する見通しが強まっている。鋼管杭に関してもエネルギーや道路、鉄道など民間大型案件が旺盛で、前年並みの40万トン程度の需要規模となる見込みだ。

 販価については17年度のような狂騒曲は鳴りを潜め、18年度は「(市中へ)の浸透を確認する年」(高炉筋)となった。ただゼネコンが過去最高益を更新し続ける中で鉄鋼建材関連企業はそこまでの利益を出しておらず、依然として〝富の偏在〟は続いている。「かかったコスト分をしっかりと川下にバトンタッチしていくことが大切」と高炉メーカー営業幹部は強調する。輸出については中国の鋼材価格市場の軟化が影響し「中国向けの建設用鋼材価格も昨年11月中旬から10~20ドル程度反落した」(高炉筋)という。高炉メーカーは「市況品ではなくハイエンド品をどのように販売していくか、分野や相手、用途を冷静に研究したい」と精査して取り組んでいく姿勢を見せている。

19年は旺盛な需要続く、安定生産で国土強靭化へ貢献

 19年度について、建築分野は「下期は首都圏の再開発案件を中心に高い需要が見込まれる」(高炉筋)。素材やコラム、ボルトの不足、設計図面の遅れなどにより工期のずれが発生。通常1~3月は季節要因によって建築需要の減少が見込まれるものの「18年度は期ずれにより減少幅が緩やかになりそう」(同)だという。ただ19年度上期は大型物件の端境期となり「足元のような混乱は落ち着くのでは」(同)との見方が強い。

 東京五輪関連需要は「建設用鋼材需要という意味では18年度で終了した」(同)が、19年度下期には首都圏の八重洲や虎ノ門、日本橋、品川新駅周辺、渋谷、池袋、新宿などの大型再開発案件が始動するなど高い需要が見込まれるという。また旺盛な物流倉庫案件は「働き方改革で長距離を一気に運ぶことが難しくなり、中継地が必要」(メーカー筋)で、こうした需要に加え高機能化に向けたリプレースなど引き続き堅調な需要が見込まれる。鉄骨需要は上期の落ち込みを下期で取り戻し、前年並みの520万トン程度と引き続き堅調に推移する見通しだ。

 土木分野は不透明な部分も強いが豪雨などの災害復旧需要が引き続き継続するとみられる。昨年12月には「国土強靭化基本計画」の見直しと「防災・減災、国土強靭化のための3カ年の緊急対策」が閣議決定され、堤防など洪水や土砂災害のためのインフラや病院などの災害対応力強化、エネルギーや食料、水道、交通、通信など重要インフラの機能維持を図るべく、総額7兆円規模をめどに3年間で集中投資する計画となっている。こうしたことから、鋼矢板や鋼管杭は前年度並みの需要水準を維持する見通しが強い。

 もっとも、こうした需要に対して「安定生産が何よりの課題」と高炉関係者は口をそろえる。新日鉄住金は「端境期となる上期の間に生産・出荷を建て直すことが最大のテーマ」としてグループ一丸となって取り組む構え。ボルトや形鋼など「材料ネックで物件が回らないということはないようにしたい」とする。JFEスチールは大型投資によって供給量の回復に努めており「20年上期には平常化する計画」とする。19年度は4月、8月に大修理を予定しており、販売調整を実施する方針だという。コストプッシュ要因の増加に加え、安定生産が問われる中で、設備の老朽更新や改善などに巨額の費用もかかる。販価については19年度も丁寧に理解を求めつつコスト応分の価格改善を進めていく姿勢だ。

 18年度は「50年に1度」と言われる自然災害がもはや当然のように発生すると我々に認識させる年となった。防災・減災は人命や財産を救うために最も効果的でかつ発災による経済的損失に比べはるかにコストを抑制できる。国土の保全と強靭化へ工期短縮やメンテナンスコストの低減など高い機能を発揮し貢献できる工法は透過型鋼製堰堤や法面補強など土木用鋼材を中心に鉄鋼建材業界には多く存在する。安定生産を確保しつつこうした工法をPRすることで、土木用鋼材が真の復権を果たす年となってほしい。

© 株式会社鉄鋼新聞社