北陸地区鉄鋼市場の2019年展望

 昨年は景気拡大期間が「いざなぎ景気」を超え、戦後2番目の長さになった。1月まで拡大が続けば戦後最長を更新する。北陸地区でも全業種が好調に推移し鉄鋼需要に波及。2019年も基本的にこの好調さが持続するとみられているが、業種によっては失速を懸念する声も出始めている。地区鉄鋼関係者の話をもとに、平成最後の節目となる今年の展望をまとめた。(藤田 英介)

 【総論】

 北陸の経済指標は1年近く〝拡大〟判断が継続されたように、昨年は好調を維持した。高炉メーカーでは「需要旺盛で全品種で納期調整に追われた。建築分野は3~8月の6カ月で前年同期比3割増加。ホテルはもとより1千~5千平方メートル規模の工場や倉庫が増えてきた。ここ数年低迷していた土木分野では各地で自然災害が多発しているからか特に河川改修向け鋼矢板が好調で、上期出件数は前年比6割も増えた」「製造業分野でもほぼ全業種で好況を維持。一般厚板は建機が東南アジアや北米など海外向けが好調で想定以上の引き合いがあった。薄板はバス生産がピークアウトしたものの、トラックや建機部品のキャビン生産が旺盛だった」と昨年を振り返る。

 今年も「全般に好況感が持続しそう。製造業の設備投資案件のほか、着工は20年度となる見込みだが新幹線関連で駅舎や車両基地が徐々に具体化してくる。土木は国土強靭化に向け予定されていた公共工事が出件され、需要は昨年より増えそうだ」「製造業関連では国内では災害復旧向けで油圧ショベルの在庫が品薄気味。産機は中型プレスや産業用ロボが伸びている」。

 建築建材は「金沢でホテル案件が未だ活発。富山で富山駅南西街区再開発、大型商業施設の増床、医薬品メーカーの設備投資、大型物流倉庫の計画など地元案件が増えてきた」「土木は石川で河川改修や豪雨災害復旧工事がある。新幹線延伸工事は今後、建屋の建設や防音柵、スノーシェルターなど付帯工事が控えている」。

 【特約店】

 新幹線向けは最盛期継続、製造業関連は失速懸念も

 富山県内の特約店トップは昨年を振り返り「国内経済は安定政権のもと堅調だった。富山・石川では金沢開業効果が持続し交流人口の増加が衰えていない。県内では目立った大型物件はないが製薬工場や学校、再開発などそこそこあり、街なかではスクラップアンドビルドの現場が増えてきた。また北陸では新幹線敦賀延伸工事が最盛期に差しかかっており総じて悪くはなかった。売上げ・利益とも前年を上回る見込み」と総括。

 今年も「新幹線工事が継続するが、これを補う大型プロジェクトが見当たらず今後が気がかりだ。東京五輪や大阪万博による地方への波及効果は薄い。民間企業の一部の地方移転や都から地方への税の再分配など検討されてはいるが、東京一極集中を根本的に考え直さなければ人口減少が進む地方は落ち込む一方」と危惧する。

 石川県内の大手特約店では昨年も「引き続き製造業から建築まで全業種にわたり繁忙が継続し、売上げは前年並みに堅調だった。利益面では仕入れ値高転嫁が十分ではなく多少のダウン」。一方「供給面では自然災害やメーカーの操業トラブルによる入庫遅れと人手不足等による現場遅れが重なり、メーカーとユーザーとの調整に普段の倍以上の労力を費やした1年だった」。

 今年も「新幹線延伸工事は最盛期が続く。金沢、小松、能登地区では豪雨災害で被災した河川の復旧工事などが出件。製造業関連では昨年12月時点で機械受注統計が下方修正されるなど減速感が見え始めているものの、昨年の契約残消化があるので少なくとも今上期は繁忙が継続する見通し」。

 別の特約店でも「昨年も需要が旺盛だったのに対し、酸洗やコラム、高力ボルトなど一部品種でメーカーの店売り向け引き受けが厳しく販売量の伸びが抑えられた」「材料入手難は今年も継続し相場も一段高へ向かいそう。金沢市内のホテルや製造業の工場など物件は昨年並みに豊富だが、すでに材料不足や人手不足で現場の工程遅れが出ており、計画通りに着工できるのか」と不安ものぞかせる。

 昨年は「建機の生産台数が増え、大型プレスなどの産機や工作機械を含めた製造業全般が好調を持続したため売上げはプラス。価格面では後半から積み残し分の解消が進んだものの、仕入れ値高転嫁完遂には今一歩だった」と振り返る。

 今年も製造業関連では「為替の急変などない限り大きく落ち込む要素は少ない。自動車関連のほか、世界的な人手不足で省人化投資も継続しそう。ただ長時間労働の規制や人手不足で協力企業の生産余力が限られるため生産調整に入る業種も出てくるのでは。新年度入り後、大型連休明けの様子を見て判断したい」としている。

 福井県内の大手特約店では「昨年は引き続き電子部品、自動車関連、工作機械など製造業分野が活況。また大型フェアを開催したこともあり機工部門が業績をけん引し、総売上高は約15%増を見込む。鉄鋼建材部門では新幹線関連で鉄筋などが動いたが、管材を含めいまひとつだった」。

 今年は「製造業分野では非常に繁忙が続いていただけにやや失速感が出ている。米中貿易問題の影響も懸念され、需要量は前年比2割程落ち込む可能性も」「鉄鋼建材では新幹線工事の最盛期が継続。福井駅前再開発や銀行の建て替え、製造業の大型工場案件など計画はあるが、昨年旺盛だった中小設備投資案件は一服しそう。いずれにせよ急激な落ち込みはないだろうか、流通段階でも運送・燃料・人件費など固定費が上昇しており、今年は利益率を高める工夫が必要」としている。

 別の大手特約店でも昨年は「増収増益の見通しだ。民間物件が増え、大都市圏の鉄骨工事も増加。国体関連の工事に加えて豪雪や台風など自然災害補修の引き合いも多く建築・土木とも旺盛だった」。

 ファブなど鉄骨加工業者ではフル稼働が続き鉄骨製作の受け入れ先が少ないため、無理な受注を控えるゼネコンも散見され始めている。ただ鉄骨需要そのものは「昨年並みではないか。いまだ製造業関連の大型工場が複数計画されている。停止していた原発数基が昨年から再稼動を開始した。定期検査中の数基も本格稼働すれば嶺南地区も元気を取り戻す」と期待を寄せる。

 【ファブリケーター】

 1年先まで受注満杯

 富山県内の鉄骨加工業界は昨年も年間を通して繁忙が継続。大手ファブリケーターでは「関東・関西方面に加えて富山・金沢でも一昨年並みの案件がありフル稼働が続いた。今年も前年並みの繁忙が続く見通し。県外では大型の物流倉庫、商業施設、工場など、北陸でも大型物流倉庫や工場が見えており、今年6月までの受注を確保し来年末までの話が来ている」と見通しは明るい。今年10月には消費増税を控えるが「国内景気が堅調なため足かせにはならないだろう。出るべきものは出てくる。大阪万博が東京五輪後の景気の起爆剤となり、関西の景況感が北陸に波及することも期待できる」

 福井県の大手ファブは「一昨年が過去最高だったのと完工事が次期に持ち越しとなるなどで減収減益の見通しだが悪くはない。なぜなら受注残は1年先まで満杯で、商談は再来年春の案件が中心」と高水準。ただし「プレスコラムが10カ月以上と材料納期が長期化しているため、もし山が空いたとしても受注できない」事情もある。ただ「今年も関東・関西など県外案件が中心だが、福井でも銀行の建て替えや電子デバイス関連の大型工場など地場物件が増えてきている。先行き2~3年は心配していない」と先行き不安感はない。

 【コイルセンター】

 需要堅調続く

 有力コイルセンターでは昨年の状況について「建機は前年を上回り、バスはインバウンド特需の反動があったものの特需前の水準を維持。トラックや機械関連は前年比横ばいながら、総じて前年並みの堅調さを維持した」と総括。価格面では「上期は需給の引き締まりに乏しく停滞局面が続いた。下期は台風21号やメーカーの操業トラブルの影響から仮需的な引き合いもあり、10月後半から11月にかけて潮目が変わってきた」と振り返る。

 今年の見通しについて「国内建材需要は東京五輪まで継続するとみられており、人手不足に対応する民間企業の省人化投資も続きそうだ。自動車など輸送機器関連も落ちる見込みは少ない。ただ、米中貿易摩擦の悪影響や消費増税後の反動減があれば国内経済は縮小に転じる可能性もある」と展望する。

 【リサイクル】

 発生増は期待薄

 富山県内の鉄スクラップヤード業者は、昨年「鉄スクラップ価格が3万円台の高値で推移し、我々も積極的に商売できる環境にあった。ところが11月入り後、12月中旬まで8千円も下がり暴落といえる状況に」。「発生に関しては解体物件が非常に少なく荷動きは低調。扱い量が減少する一方、燃料費や電気代など諸コストは上昇しており、世間で言われる好景気の実感はない」。

 今年も「相場は米中貿易摩擦の影響など海外要因次第。発生量も製造業では合理化が進み鉄屑が増えるとは考えにくい。しかし建造物の耐震化・老朽化更新といった先送りできない案件も多く、スクラップアンドビルドが活発化するかどうか。万博が決定した関西経済の盛り上がりにも期待したい」としている。

 別の業者でも「大型解体物件がなく、昨年の地区発生量は前年比5%減と低調な状況に変わりなかった。価格が高値で推移し増収だったが扱い量の減少で減益」と総括。

 今年も「首都圏では東京五輪や再開発などで活況のようだが地方には波及しておらず、発生の回復は見込みづらい」と厳しい表情。

 雑品問題に関しては中国の雑品輸入禁止に伴い「当地でも処分場や業者がひっ迫しており、業界全体で取り組まなければ不法投棄が増大する」(扱い筋)と危惧する声は多い。処分費用上昇やダスト処分場確保などいよいよ今年は課題への対応が現実味を帯びそうだ。

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