【鉄スクラップ業界、18年回顧と19年展望】〈鈴木徹日本鉄リサイクル工業会会長(鈴徳取締役)に聞く〉雑品への対応や処分場など課題解決へ 〝社会との対話〟に注力

 昨年の鉄スクラップ市況は春にいったん下げ局面があったものの、おおむね3万円台半ばで安定的に推移。輸出が低調な中、堅調な国内需要が支えとなり〝国内高・輸出安〟という異例の環境が続いた。しかし、11月に入ると独歩高にあった日本の鉄スクラップ市況は急落。関東地区のメーカー買値では一部が3万円割れとなり、新年を迎えている。今年は中国の輸入禁止で雑品スクラップの国内処理が喫緊の課題となる中、鉄リサイクル業界にとって鉄スクラップの品質維持やダスト処分場の確保、人手不足への対応などが将来にわたっての大きな課題に浮上している。年頭にあたり、日本鉄リサイクル工業会の鈴木徹会長(鈴徳取締役)に昨年の鉄スクラップ業界の回顧とともに今後の展望や工業会活動について聞いた。(小堀 智矢)

「業界の〝あるべき姿〟見極める」

――2018年を振り返って。

 「まずは災害の多い年だったと感じている。6月18日の大阪府北部地震や7月の西日本豪雨、9月の北海道胆振東部地震など、大きな自然災害が夏以降に相次いで起きた。また、内外の政治情勢も目まぐるしく変化した年だった。特に米中の貿易戦争は鉄鋼とアルミから始まったが、いまや世界を含めた貿易全体に広がる勢いになっている」

 「鉄スクラップ業界に関して言えば、価格、数量ともに良い年だったと言えるのではないか。年末にかけて調整が入ったものの、堅調な国内需要に支えられて鉄スクラップの炉前価格は3万円台半ばという歴史的に高い水準での推移が続いた。数量も統計上は落ち込んでいない。事業環境としては全般的に良い年だったのだろう」

 「業界では様々な事件・事象が起こり、工業会としては個別案件への対応に追われた一年でもあった。中でも最も大きなテーマが〝雑品〟に関連した対応。鉄スクラップ業にとっては雑品の出荷先が順次細っていった。その状況を背景に起きたのが、電炉メーカーに納入される鉄スクラップの品質悪化という問題だ。中国による雑品の輸入規制強化に対応し、鉄スクラップ業の現場では様々に分別の努力によって品質維持に努めている。雑品に関しては今後も継続する課題だ。品質管理は個々の企業で取り組むものだが、全国的に起きている事でもあり、当工業会としては業界全体に関わる課題と考えている」

――2019年の展望は。

 「一年間を見通すのは非常に困難であり、とにかく不透明としか言いようがない。景気はまだら模様ながら、まだ腰折れはしないだろう。そうは思っているが、誰も予測できない。鉄スクラップ業を取り巻く環境に関しても、大きな変化は今年も国内外で起きるだろう。激しい変化が起きた時には、その場その場でしっかり対処していくという考えだ」

――日本鉄リサイクル工業会として力を入れる取り組みは。

 「総合的に言えば、引き続き〝社会との対話〟にしっかり取り組む。雑品への対応やダスト処分場のひっ迫といった課題もそうだが、今後も我々の中だけでは解決しきれない課題や問題は起きるだろう。そうした事態に対応すべく、外部とのコミュニケーションを通じて、世間から見た問題解決の在り方や、当業界のあるべき姿を見極めていくことが大切だと考えている」

 「会長就任時から掲げている〝国際化〟、〝内外に向けた情報発信〟、〝人材育成〟の取り組みもしっかり進めていく。今年は2年ぶりに『国際鉄リサイクルフォーラム』が開催されるほか、鉄スクラップ輸入禁止の検討が報じられたベトナムなど、海外の動きに関する情報も発信していきたい。人材育成に関しては、各支部の若手が自主的に活発な活動を行ってくれている。今年は全国大会前日に『全国青年大会議』も開催予定。若手会については視察や研修といった活動自体も大切だが、今後の鉄リサイクル業界を担う世代同士の仲間づくりのきっかけとなることが最も大切だ。活動が継続するよう見守っていく」

外国人材の受け入れ、対応策を模索

――人手不足が社会的な課題に浮上している。工業会としての対応は。

 「外国人の新在留資格に関しては、当工業会を主管する経済産業省に対応策など様々な相談を行ってきた。その中で分かったことは、鉄リサイクル業がすぐに新在留資格の要件を満たすのは難しいということだ。経産省の話では、まずは既存の技能実習制度を視野に当工業会や個々の企業を合わせ、技能や語学の試験や生活支援などの体制を整備していくべきということだった。会員企業に外国人材の受け入れニーズが強くあることは十分に把握しているが、対応に苦慮しているのが実情だ」

ダスト処理の実態/行政に報告、要望

――ダスト処分場のひっ迫については。

 「シュレッダー設備を有する会員企業にアンケート調査したところ、各社の操業率は前年並みだった。使用済み自動車の破砕処理台数も微減ながら、ほぼ前年並み。定量的な変化は見られなかったが、シュレッダーダストの行き場が狭まるとともに荷制限や遠隔地化、処理コスト上昇など約8割が悩みを抱えていることもアンケートに記されていた。破砕業者は困難がありながらも自らの努力で、何とか操業率を維持しているというのが実情だろう。ダストの最終処分場や焼却設備の新設はすぐに実現できるものではない。ただ、当工業会として要望を聞いてもらうべく、経済産業省や環境省に実態を報告していく。きちんと要望を伝えることも〝社会との対話〟の一つの在り方であり、しっかり続けていく」

――昨年9月、韓国鉄鋼資源協会(KOSIA)と覚書(MOU)を締結した。その他も含め国際化の取り組みは。

 「韓国鉄鋼資源協会は鉄スクラップ業者が加盟する、我々と同じ鉄リサイクルの業界団体だ。MOUは諸問題について意見交換しようという内容で、特別に義務を負う具体的な取り決めはない。国際化に関しては、中国廃鋼鉄応用協会や米国ISRI(スクラップ・リサイクル業協会)、BIR(国際リサイクリング協会)、SEAISI(東南アジア鉄鋼協会)といった従来から交流している団体の会合には国際ネットワーク委員会が継続的に参加している。BIRでは2021年以降に東京で大会を開く構想があるという話も聞いている」

普電工との協議会「顔の見える関係の構築が大切」

――普電工との協議会について今後の予定は。

 「次回の具体的な予定は決まっていないが、半年に一回は開催しようという話になっている。普電工との調整が必要だが、3月ごろに開催できればと考えている。同協議会は情報共有が主な目的だが、お互いに顔の見える関係を築いておくこと自体が非常に大切だと感じている」

 「前回の普電工との協議会は昨年9月19日に行われた。9月8日に千葉市でスクラップを過積載したトレーラーが横転し、3人が死亡する大事故が発生した直後だったため、過積載の件では相談させてほしいという話をした。その結果、普電工と当工業会の連名により、過積載に関する注意喚起を目的としたポスターを作成することとなった。今年初めには会員各社の手元に届くと思う」

――改正廃棄物処理法が昨年4月、改正バーゼル法が昨年10月に施行された。法改正による鉄スクラップ業への影響は。

 「違法性が疑われるような新興ヤード業者に対する規制という面では、中国による雑品の輸入規制強化が先行したため、廃掃法改正による直接的な影響は思いのほか少なかったようだ。むしろ、当工業会の会員では少ないが、雑品の輸出を行っている現場では、検品が従来以上に厳格に行われるなど、改正バーゼル法の影響があったと聞いている」

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