韓国元徴用工 被爆者認定 証人なしで手帳交付命令 長崎地裁判決

 戦時中に三菱重工業長崎造船所(長崎市)に徴用され、原爆に遭ったとして、韓国に住む男性3人が長崎市と国に被爆者健康手帳の交付などを求めた訴訟で、長崎地裁(武田瑞佳裁判長)は8日、3人を被爆者と認め、市に手帳交付を命じる判決を言い渡した。
 原告側弁護士によると、被爆を裏付ける証人や資料がなく、本人証言を基に手帳交付を命じる判決は珍しく、朝鮮半島出身の元徴用工に対しては初めてとみられる。今後の手帳交付の在り方に影響を与えそうだ。
 原告側によると3人は、イグァンモさん(96)、キムソンスさん(93)、ペハンソプさん(92)。長崎造船所や市内の寮で被爆したとして2014~16年、市に被爆者健康手帳を申請したが、原爆投下時に市内にいた裏付けがないなどとして却下され、却下処分の取り消しを求め提訴していた。
 武田裁判長は判決理由で3人の来日時や被爆時に関する証言は「不合理・不自然な点がなく、内容も具体的」などとして「市内にいたと認めるのが相当」と指摘。市側が、証言の一部に整合性がなく裏付け資料がないと反論した点についても、当時から70年以上経過しているため「不自然ではない」とし、証言の信用性が否定されるわけではないと判断した。
 訴訟を巡っては、戦時中に長崎造船所へ徴用された朝鮮半島出身者のものとみられる名簿を、長崎地方法務局が約50年前に廃棄していたことも判明し問題となった。名簿は被爆事実の有力な証拠となった可能性もあるが、武田裁判長は「原告らの氏名が記載されているかどうか不明」などと指摘。名簿の廃棄は原告側が主張した「証明妨害」に当たるとはいえないとした。
 判決を受け、田上富久長崎市長は「判決の詳細を確認し、今後の対応を検討したい」とコメントした。

「勝訴」を知らせる原告の弁護士=8日午後1時20分、長崎市万才町の長崎地裁前

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