身近な総合的医療「プライマリ・ケア」 専門医育成大きな課題 高栁・熊本大病院地域医療支援センター特任助教

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 外来や在宅、病棟での診療で幅広い健康問題に対応するプライマリ・ケアは、地域の医療を支える重要な役割を担います。2018年度から新たな専門医の育成が始まりました。熊本大病院地域医療支援センターの高栁宏史特任助教(日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医、指導医)に聞きました。(高本文明)

-プライマリ・ケアの専門医に関する経過を教えてください。

 「2010年に旧日本プライマリ・ケア学会、旧日本家庭医療学会、旧日本総合診療医学会の3団体が合併し、プライマリ・ケア領域で国内最大の学術団体である日本プライマリ・ケア連合学会が誕生しました。そして、プライマリ・ケアの専門医として家庭医療専門医の養成に尽力しています」

 -専門医は何人いますか。

 「連合学会が認定する家庭医療専門医は全国に796人で、熊本では私と、熊本赤十字病院に2人、くわみず病院に1人の計4人です。全国の医師数が約31万9千人、熊本県で約4500人ですので、まだわずかです」

 -家庭医療専門医は、どのような活動をしていますか。

 「14年の調査では、90%以上が高齢者ケアや個人の健康増進・疾病予防に携わり、創[きず]の縫合を実施していました。50%以上が乳幼児の予防接種を実施し、40%以上が地域全体の健康度を向上するための活動に携わっていました。また69%は在宅医療を行い、そのうち89%は在宅での看取[みと]りや終末期ケアを行っていました。このような結果から、今後の地域社会のさまざまなニーズの変化にも家庭医療専門医は応え得ることがうかがえます」

 -新しい専門医制度も始まっていますね。

 「これまでの専門医制度は臓器別、疾病別に高度に専門化・細分化しています。大学病院や総合病院などで診療するような、非常にまれな疾患にも対応できるスペシャリストを養成するものです」

 「2018年度から始まった新しい専門医制度は、内科、小児科、外科など基本領域の専門医を取得した上で、消化器病、循環器、呼吸器といったサブスペシャルティ領域の専門医を取得する2段階制を基本としています。日本専門医機構が認定します。19番目の新しい基本領域として今回『総合診療』が加わりました。熊本県内では8人が総合診療専門医の研修を始め、熊本大病院には6人が学んでいます」

 -総合診療専門医の役割は。

 「プライマリ・ケアの現場でさまざまな健康課題を抱える患者さんに対応するため、幅広い診療能力が必要です。患者さんを総合的に診療し、臓器別専門医に診てもらうべきか、自身の力量で診療できるかを見極める医療の案内人や代理人の役割を持ちます。そのため患者さんとの対話を重視しつつ、患者さんのニーズや経験、生活実態などに沿って全人的に、そして継続的に対応していくことが求められます」

 -海外では、プライマリ・ケアが進んでいます。

 「プライマリ・ケアが定着している英国では、医師全体の3割弱を占めるGP(総合診療医)が患者の9割を支えており、医学部卒業生の約5割はGPを選択しています。しかし、日本では毎年医師国家試験に合格する約9千人のうち、プライマリ・ケアを自らの専門領域として選択するのは200人に満たないです。まだ養成のペースとしては少なく、人材の育成が大きな課題となっています」

 「県内には長年プライマリ・ケアの領域に従事してこられた先生方が多くいらっしゃいます。そうした方々と今後のプライマリ・ケアの充実を進めていきたいと思います」

◇たかやなぎ・ひろし 熊本市出身、北里大医学部卒、福島県立医科大大学院医学研究科修了。2016年4月から熊本大病院勤務、18年8月から現職。日本プライマリ・ケア連合学会専門医部会学術部門幹事。38歳。