鋼材加工流通業の「自動化による省力化」、人手不足解決の糸口に

 現場の労働力(人手)不足に頭を悩ます鋼材加工流通業が少なくない。それでも、この現象を一過性とせず、構造問題と捉えて対策を講じ、成果を挙げる事例もある。ここでは「従来の人海作業を機械設備やシステムに置き換え、自動化による省力・省人化、時短、作業効率化・労務負担軽減」につなげ、将来へのBCP(事業継続計画)を描こうとする企業の取り組みの一端を紹介する。

 「目下の人手不足や新規採用難は、いずれ緩和されるといった一過性ではなく構造的な問題。その対策は『いつかそのうちに』ではなく、喫緊の経営課題として一刻も早く手を打たなければ事業継続そのものが危ぶまれると懸念している」―首都圏で長く鋼板加工の最前線に立つベテラン経営管理者は、こう危機感を募らせている。

 こうした声は、少数派ではない。採用実績が豊富な経験者の多くからも「今ほど人材確保に困窮したことはない」とされ、この状態が長引けば「将来に向けた自社のBCPが描けない事態を招きかねない」と頭を抱える。

 少子高齢化社会が到来する一方で、五輪景気や災害復旧・復興、国土強靭化対策、大都市圏における大型再開発…等々が重なり、労働需要が一気に急増。種々の産業間で「人材の取り合い現象」が生じ、建設業や運送業を含めた広い意味での製造関連分野でも限られたリソースが都市部や大手に偏って集中する傾向が見受けられる。

 ここに政府が推進する「働き方改革」も加わり、一般論として給与や福利厚生でどうしても劣勢の否めない中小モノづくり現場、いわゆる「町工場」がその矢面に立たされている。

 人手不足実感、65%

 実際、日本商工会議所による最新の「人手不足等への対応に関する調査」結果では、人員の過不足状況について全体の65%の企業で「不足している」と回答。しかも「不足の割合が4年連続で悪化している」という。

 商工中金の「中小企業の人手不足に対する意識調査」でも65・1%が「不足」と回答。昨年調査と比べて「人手不足感が拡大」し、深刻な状況にあることがこれら公的機関の調査結果からもうかがえる。

 コイルセンター(CC)や厚板シャー・溶断業、ビルトH形鋼(BH)メーカーに代表される鋼材加工流通業の多くは、モノづくり現場を持つ中小企業。需要環境が総じて堅調である今、構造問題である「人手不足・新規採用難」に直面する町工場が受注増に対してどのような対策を講じているかの具体事例は、同じ業種・業態にとって何かのヒントや参考になるかもしれない。

 和信産業子会社の「新和」/複合機で生産性30%超向上

 薄板CCの和信産業(千葉市花見川区、社長・遠藤重康氏)は、板金プレス加工子会社の新和(しんわ、千葉県印西市)に生産性向上・作業効率化につながるIT技術と自動化設備を積極的に導入し、人手による人海作業を削減している。

 新和では、昨年秋からファイバーレーザとパンチプレスが一体となった複合加工マシンを本格稼働させた。

 材料搬入棚と製品搬出棚(別々の多段ストッカー)と連動し、材料棚に加工素材をセットしておけば昼夜を問わずプログラムに従って無人・無監視状態で長時間連続スケジュール操業する。加工を終えた製品は、本体に内蔵された「テイクアウト機能」によって1枚ずつ搬出され、スケルトン状態になったスクラップ枠材と分離して製品棚に収納される。

 設備導入前は、製品とスクラップ枠材とをミクロジョイントし、全工程終了後に人の手で「バラシ」作業していたが、この手間が不要になった。

 また、以前はシャーリングで外周を切断してからタレットパンチプレスに移し載せて打ち抜きしていた工程を、複合機1台に工程集約できたことで構内での横もちを省略した。

 レーザによってバリ無し加工も可能になったので従前の人手によるバリ取り作業負担も大幅に減らしている。

 これによって導入前に比べて「打ち抜きで30~40%の生産性向上」を見込み、従来の人海作業を自動化・省力化することで現場作業者の労務負担も軽減。品質精度の安定にも寄与し、リードタイム短縮と夜間の有効活用によって納期対応力強化にも威力を発揮する。

 新和の社長を兼務する和信産業常務の遠藤重裕氏は、複合機の設置に先駆け生産管理システムやベンドCAMなども導入。IT活用による最新鋭化を今後も推し進めていく。

 古賀オール東京工場/小物切板を全自動収納

 古賀オール(東京都中央区、社長・古畑勝茂氏)はCC事業の中核拠点である東京工場(江東区新砂)にシャーリングマシンで小切りした小サイズ切板を自動集積するロボットシステムを導入し、昨年暮れから本格稼働させた。これまで人手で行っている切板製品の集積作業を自動化し、省力・省人化と作業効率を両立している。

 小切り専用シャーと製品搬送ロボットを連動させた「小物切板の自動集積システム」は、剪断後にベルトコンベアで搬送された3キログラム以下で300ミリ角までの小サイズ切板製品を1秒に1枚の速さでピックアップし、専用の収納ケースに自動集積する仕組みで、業界でも類を見ない。

 導入前は、作業オペレータがシャーの後方(集積装置側)に付きっきりで1枚1枚を集積箱に収納していたが、これを完全自動化したことで省人化を実現。この取り組みは、革新的な生産プロセス改善につながるとして「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業補助金」の採択対象ともなった。

 ワコースチール/溶断二次加工で自動化促進

 新日鉄住金系厚板加工・製罐大手のワコースチール(千葉県成田市、社長・清水健五氏)では、最新鋭ファイバーレーザや先穴あけドリル装置付きNCガス溶断機といった厚板一次加工設備はもちろん、昨年秋には溶断二次工程のガス開先ロボットや穴あけドリルといった自動化設備も導入。生産性向上とともに、人手に頼っていた人海作業を機械化にシフトし、省力・省人化にもつなげている。

 ソフト面では、昨年春に刷新した基幹システム「WaFuLeS(ワッフルズ=ワコー・フューチャーリーディングシステム)」が生産性向上に成果を挙げている。

 「WaFuLeS」は、もともとの基幹システムに置場管理機能やトレーサビリティ機能、実績のリアルタイム入力機能、CAD/CAMとの連動機能を付加した。

 以前は職場ごとに現場オペレータが手作業で打ち込み入力していたので時間と労力を要し、ヒューマンエラーが生じるリスクもあったが、新基幹システムでは「入り」から「出」までを全てバーコードで管理するので作業者負担がなく、人的ミスもない。大幅な時短にもなる。

 これら省力・省人化、作業負荷軽減、時短、生産性向上につながるソフト&ハード両面での積極投資は、一つは政府が進める「働き方改革」に基づき、現場作業者が有給休暇を取得しやすい労務環境の整備に向けた取り組みであり、それによって「有休欠補要員の捻出」につなげる。

 もう一つは、足元の受注増に対応した生産効率化と設備能力増強による上方弾力性確保とともに将来の需要ピークアウトを念頭に置いた対策だ。いずれ受注量が低下した際、すぐにキャッチアップできるよう、今から損益分岐点の引き下げに着手したわけだ。

 ショット業のニホンケミカル/印字、切断をロボットに

 鋼材ショット専業大手のニホンケミカル(広島県三原市、社長・石田雅裕氏)では、造船用や橋梁向け各種鋼材の部材マーキング(印字・罫書き)と切断・切り欠き、穴あけ、開先をすべて自動で一貫加工する「自動マーキング装置付き形鋼切断一貫システム」の設置を推し進めている。

 一昨年春に尾道第1工場に設置して以降、昨年の夏に尾道第2工場、秋から冬にかけて浦安第2工場とグループの函館スチールセンターに導入した。

 同システムは鋼材のマーキングから切断までを同一定盤上で一貫する全自動ラインで、マーキングロボットと6軸プラズマ切断ロボットで構成する。

 上位コンピュータでプログラミングされた指示データに基づき2台のロボットが稼働し、人手を一切介さない。マーキング時間を比較すると、手書きだと内容によって1本当たり1人で20分から1時間近くかかるが、ロボットだとおよそ2分で完了。全自動システム導入で処理能力は人海作業の2倍となる。

 導入拠点では省人化を図り、浮いたマンパワーは難度が高く簡単には機械化しづらい加工部門にシフトするなど役割によって適材適所を棲み分けている。

 課題解決に向け「実践」

 現場の労働力(人手)不足に対し、機械設備に置き換えられる部分については積極的にヘッジし、それによって従前の人海作業よりも作業効率を高め、生産性を向上し、正確性と品質精度も安定させながら加工能力や納期対応力を強化しつつ、省力・省人化にもつなげて上方弾力性とコスト競争力も確保した具体策の一端であるが、何も特殊な事例や特例ではない。「課題を抽出し、解決に向け実践」した一例である。

 現場の人手不足・新規採用難そして離職率低減への対応策は、ここで挙げた「自動化による省力・省人化促進」や「業務・生産プロセス効率化」のほかにも給与引き上げなど雇用条件(処遇)の見直しや福利厚生など職場環境の改善、定年延長、外国人採用、非正規スタッフの正社員化…といった手段が挙がる。

 その根っこにあるのは、そこで働く現場スタッフへの働きがいの動機づけであり、意義ある労働観を根づかせた上で顧客満足度向上、競合先との競争力強化、地域社会との共生を満たす「合わせ技」での舵取りが、企業経営者に求められる。

 その実現プロセスを、ステークホルダーと共有し、企業の価値向上(競争優位性の確保)とスタッフ一人ひとりの自己成長の認識と実践を両立する企業風土と仕組みの形成が、将来を想定したBCPを描く「要」となる。(太田 一郎)

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