僧侶は運転できないの? 「#僧衣でできるもん」実演で反論

三原貴嗣住職がツイッターに投稿した動画。赤色の小さいボールをリフティングしながら縄跳びをしている

 昨年末から「#僧衣でできるもん」と題された動画がツイッターに続々と投稿され、話題となっている。この現象、僧衣を着て車を運転していた僧侶が交通違反切符を切られていたことが判明したのをきっかけに始まった。僧侶たちが様々な特技を披露する動画は一見すると愉快で楽しそうではあるけれど、その胸の内には今回の〝青切符〟がもたらした驚きや不安が入り交じっているようだ。(共同通信=松森好巨)

 青切符を切られたのは浄土真宗本願寺派の男性僧侶(福井県内在住)。同派によると、男性は昨年9月16日午前10時10分ごろ、福井市内を車で走行中に交通取り締まり中の警官に止められ脇道に誘導された後、青切符を交付された。その理由として「運転操作に支障のある和服を着ていた」ことを挙げられたという。男性は、同派の僧侶が外出時などで日常的に着る布袍(ふほう)と呼ばれる僧衣を身に着けていた。

 福井県の道路交通法施行細則には「下駄、スリッパその他運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服を着用して車両(足踏自転車を除く。)を運転しないこと」とあり、この事項が適用された。同派は「僧侶が服装を理由に反則処理を受けたことは受け入れがたい」という見解を示しており、男性も反則金(6千円)を納めていない。

 一方、10日付の福井新聞によると、県警は「僧衣や和服が一律に違反になるわけではない。衣服の種類や形ではなく、着方を見て違反だと判断した」と説明している。

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 この件が明るみになった昨年末以降、ツイッターに僧侶が縄跳びしたりジャグリングしたりする動画が「#僧衣でできるもん」のハッシュタグとともに次々と投稿されていく。

 その多くは「僧衣を着ていてもこれぐらい動ける」などのコメントが添えられていて、僧衣に「運転操作に支障を及ぼすおそれ」がないことを、身をもって主張したものとなっている。そうした極端なものだけでなく、エンジンを切った車内でハンドルを切る操作を〝実演〟している動画もある。

 縄跳びをしながら小さなボールをリフティングする動画を投稿したのは、香川県丸亀市の善照寺の三原貴嗣住職。

 三原住職は福井県の事例について「考えたことがない」と、驚きをもって受け止めた。実際、僧衣での運転は日常的に行っているが「袖が引っかかることもないし、運転に関して大きなトラブルになったことはありません」。とはいえ「一般の人が僧衣を着た感じが分からないことは当然」と考え、「『動けるよ』ということを楽しく知ってもらえれば」と投稿に至ったという。

 ただ、本心はもっと深いところにあるようだ。三原住職は「(違反が指摘された)詳しい状況が分からないところもありますが」と前置きした上で次のように続けた。

 「運転に支障があるかどうかを、明確な基準もなしに現場の警察官の判断に委ねていいのでしょうか。僧衣を着たことのない人に『動きづらそう』というイメージだけで取り締まられたら、福井県のように衣服に関する細則がある自治体で僧侶は運転できなくなってしまうかもしれない。それに、僧衣ではない一般的な服装であっても取り締まられる可能性が出てきてしまう。動画はそういった問題提起でもあります」(※三原住職は自身のブログでも一連の問題を取り上げている)

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 取材をしていく中で、問題になった僧衣が、日常的に着る「布袍」(他の宗派では「改良服」などとも呼ぶ)であったことに衝撃を感じた僧侶が多くいた。記者の知人の僧侶も「改良服で毎日のように運転しているので、非常に困る」と話す。では、そもそもどのようなものなのか。

 僧衣の製造・販売をしている井筒法衣店(京都市)に電話で聞いてみた。

 担当者によると、布袍は、法要の際に着る「黒衣」「色衣」に比べて袂(たもと)や裾が短く、動きやすい形になっているという。これまで、布袍を着用する僧侶から車の運転が難しいといった指摘があったか聞いてみると「まったくありません」とのことだった。

 また、今回の事例を受けて車の運転を考慮した形状に変更することはありえるか尋ねたところ、布袍を含む僧衣の形は浄土真宗本願寺派の決まりで定められているため、「私どもで勝手に変更することはできません」

 別の僧衣店に聞いても同様の答えで、伝統ある僧衣の形状を独自に変更することはできないという。担当者は「仮に僧衣を改良することになれば、下に着る白衣も併せて変更する必要があります」などと話している。

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