健さん映画、寅さん映画を鉄道ファン目線で鑑賞する

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弘南鉄道(青森県)の田んぼアート駅近くにあった、小石を敷き詰めて健さんの顔を描いた作品(2016年9月撮影、現在はない)

 鉄道が登場する日本映画はいったいどのくらいあるのだろうか。昨年秋に出版された「あの映画に、この鉄道」(川本三郎著)は、戦前の名画から最近の作品まで実に200本以上を取り上げ、ストーリーを織り交ぜながら駅や列車が描かれるシーンを丹念に紹介している。北から南へ舞台をたどっていく構成になっており、映画を見ながら全国を旅した気分が味わえるお薦めの一冊だ。

 昨年12月、同書の刊行を記念して「映画の旅・鉄道への想い」と題する上映会が東京・池袋の新文芸坐で開催された。その時に上映されたうちの1本が「大いなる旅路」(1960年公開)。主人公の蒸気機関車(SL)機関士を三国連太郎が演じ、岩手県の雪の中を驀進するSL、廃車になるSLを使った転覆事故の再現など、鉄道ファンには見応えのあるシーンが随所に出てくる。

 その三国の次男役が高倉健。父と同じく国鉄に勤務し、自らが運転する特急「こだま」に三国が乗車するシーンもある。後年の不器用で寡黙なイメージではない、いまひとつ垢抜けない感じの20代の健さんがほほえましい。

 健さんの“鉄道映画”は「新幹線大爆破」(75年)「駅 STATION」(81年)「海峡」(82年)「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)と続く。

 リアルタイムで見た「駅 STATION」の冒頭、雪の降りしきる銭函駅のホームで、いしだあゆみ(刑事役の健さんの離婚する妻)が泣き顔と笑い顔が入り交じった表情を浮かべ、がたんと揺れてゆっくりと動き始めた客車のデッキから健さんに別れの敬礼をするシーンは極めて印象深い。

 ただ、このコラムを書くにあたり、「鉄道ファン目線」で“鑑賞”すると少し引っ掛かるところがあった。紹介した名シーンには、電気機関車のED76と旧型客車が登場する。この場面の設定は68年1月と明示される。しかし銭函駅がある函館本線の電化開業は同年8月のことだった…。

 実はこれはまだ許せる。「大いなる旅路」では明らかにSLのC57なのにナンバープレートが「C51」となっている場面があった。健さんが定年間際の駅長を演じた「ぽっぽや」では、気動車のキハ40を改装して「キハ12」としていたが、これが実際のキハ12とはかなり異なった風貌になっていた。

 その点、寅さん(渥美清)が葛飾柴又から各地を旅して失恋する「男はつらいよ」シリーズは、鉄道ファン目線でも十分に堪能できる。山田洋次監督は鉄道好きとしても知られており、全48作に撮影当時の素晴らしい鉄道風景がちりばめられている。

(上)寅さん記念館の最寄り駅、京成電鉄金町線の柴又駅前。銅像の寅さんの視線の先には、見送る妹さくらの銅像もある、(下)寅さん記念館で再現された旧型客車「オハ35」。網棚の上の荷物もリアルだ

 第5作「男はつらいよ 望郷編」(70年)では、北海道の小樽築港機関区のターンテーブルに乗るC622(急行「ニセコ」の牽引機として有名)や、函館本線を力走するD51が登場。第9作「柴又慕情」(72年)のオープニングでは、77年に廃止になる尾小屋鉄道(石川県)で荷物台が前後に張り出した気動車「キハ2」の発車シーンがとらえられている。

 寅さん映画のことがもっと知りたくなり、1月初旬に寅さんの故郷、東京都葛飾区柴又の「寅さん記念館」を訪れた。実際の撮影に使われたセットなど寅さんワールド全開の中、「寅さんが愛した鈍行列車の旅」のコーナーでは旧型客車を模したボックス席を再現。“車窓”には鉄道が登場するさまざまな場面が映し出されており、思わず見入ってしまった。

 2019年は映画「男はつらいよ」誕生から50年。年末には新作「おかえり、寅さん」が公開されるという。山田監督が鉄道の今をどんな形で切り取ってくれるか、楽しみだ。 

 ☆藤戸浩一 共同通信社勤務 鉄道が舞台の定番シーンはホームでの別れ。動き出した列車のすぐ脇を、泣きながら走って見送る。しかし安全最優先の今は「黄色い点字ブロックまでお下がりください!」と注意されてしまうだろう。