「ヘタフェの戦いぶりから探る“柴崎の居場所”。今のチームで、どう活きるか」

ロシアでの輝きから7ヵ月。柴崎岳がスペインで苦しんでいる。

リーグ戦18試合を終え、出場はわずかに3試合。4節以来の出場となった16節のレアル・ソシエダ戦では、左サイドハーフとしてスタメンに名を連ね、攻守に精力的なプレーで存在感を発揮。その後アジアカップ参加のため離脱となったが、定位置確保に向けアピールに成功している。

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とはいえ、背番号10を与えられ、チーム1の技巧を誇る司令塔は構想外に近い扱いを受けている。

今回の当コラムでは、ヘタフェの基本システムおよびチーム戦術を掘り下げ、“柴崎の居場所”について論じていきたい。

オーソドックスな4-4-2がベース

3年目を迎えたホセ・ボルダラス監督は中盤フラットのオーソドックスな4-4-2をメインシステムに据えている。

守護神はビッグセーバーのダビド・ソリアで、4バックは右からダミアン・スアレス、ジェネ・ダコナム、レアンドロ・カブレラ、ヴィトリーノ・アントゥネスの4人。

中盤センターはマウロ・アランバーリとネマニャ・マクシモヴィッチのコンビ。サイドハーフは右がディミトリ・フルキエで、アマト・ヌディアイが負傷離脱中の左はハイメ・マタ、フランシスコ・ポルティージョが代役を務める。

最前線はアンヘル・ロドリゲスとホルヘ・モリーナのベテラン2トップだ。

基本コンセプトは「堅守速攻」

現在のヘタフェが志向するのは、「堅守速攻」である。MF4人とDF4人によるコンパクトな守備ブロックを自陣に形成し、奪ったボールは2トップに預け、手数を掛けずにゴールへ迫っていく。

ボールを前線に素早く送り込むには、優れた配球役の存在が必要不可欠となる。しかし、中盤センターのアランバーリとマクシモヴィッチはともにバランサー型のボランチで、展開力に特段秀でている訳ではない。ここでカギを握っているのが、両サイドバックのふたりだ。

右SBのスアレス、左SBのアントゥネスはともにキック精度が高く、プレースキックを任せられてもいる。ウルグアイ人の前者は、ロングボールを最前線に送って局面を前に進め、正確なクロスでチャンスメイクをこなす。

そして、同じくクロス精度に定評があるポルトガル人の後者は、巧みなスルーパスをスペースに送り込み、前線を後方から操る(日本人で言えば、北海道コンサドーレ札幌の福森晃斗的なプレースタイルである)。

左サイドハーフには、アマトやマタなど基本的にドリブラーまたはアタッカー色が強い選手が起用されており、積極的に仕掛ける役割が求められている。アントゥネスのような“パサー型のサイドバック”は、彼らの特長を引き出すにはうってつけの存在なのである。

苦境の中で柴崎が活きるには…

前段で触れたアントゥネスの役割は、本来なら柴崎がまっとうすべきだ。柴崎をダブルボランチの一角に据えれば、これまで以上に良質なボールが送り込まれ、チャンスの数も増えるはずだ。だが、中盤センターにボール奪取とフィジカルと求める指揮官の下では、ボランチとして出場機会を得るのは難しい。

そうなると、昨季も起用された2トップの一角(セカンドトップ)もしくはサイドハーフが“柴崎の居場所”となる。基本的に最前線はゴールゲッターを配置するのが指揮官の好みで、アンヘルにしても、モリーナにしてもエリア内で輝く“9番タイプ”のストライカー。ボランチ同様、指揮官の理想とは異なっているのが現状だ。

では、鹿島アントラーズ時代も起用されたサイドハーフはどうか。現スカッドを見ると、右サイドはフルキエ、左サイドはアマト、マタ、サムエル・サイス、柴崎、ウーゴ・ドゥーロ、両サイドでポルティージョ、ロベルト・イバニェス、イバン・アレホが主に起用されている。指揮官の好みはドリブラーまたは縦の推進力があるタイプで、柴崎とポルティージョ以外のメンバーがこれに該当する。

しかし、柴崎と同じくパスセンスに優れ、トップ下や中盤センターでも機能するポルティージョが準レギュラー的に使われていることを考えると、背番号10にもチャンスがあると言える。さらに左サイドは1番手のアマトが15節のレガネス戦で全治半年の大怪我を負っている。翌節のソシエダ戦では柴崎に出番が回ってきており、アジアカップから復帰後は左サイドで出番を得てもおかしくはない。

柴崎の持ち味が一番発揮できるのは中盤センターであるのは間違いないが、サイドハーフでも優れた戦術眼を活かし、機能するのは鹿島時代に証明済みだ。巧みなキープで時間を作り、一列下のアントゥネスが攻め上がる形を確立できれば、左サイドからの崩しも多彩となるだろう。

指揮官の好みとは異なり、苦境に立たされている柴崎だが、どのような戦術、ポジションにも適応できる器用な選手である。現行の4-4-2は鹿島と同じフォーメーションであり、鹿島もカウンターを武器としているチームだったことを踏まえれば、ヘタフェはプレーしやすい環境のはず。

1月にはイングランド2部のリーズからアタッカーのサイスが加わり、ライバルが増えた格好となっているが、この逆境を乗り越え、“ヘタフェで輝く柴崎”を是非とも見たいものである。

2019/01/07 written by ロッシ

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