根っからのクルマ好き「モリゾウ」氏が率いる世界のトヨタ
「GR」とは、言うまでもなくトヨタのモータースポーツ活動の総称である「TOYOTA GAZOO Racing」の頭文字だ。同活動は今やル・マン24時間レースを制し、またWRCでもマニュファクチャラーズ・チャンピオンを獲得するなど、世界を相手に目覚ましい戦績を挙げているのはご存知の通り。
しかし、このGAZOO Racingにはもうひとつの顔がある。むしろGAZOO Racingの本流とも言うべき活動がこっちだと言ってもいい。それが、同社社長である豊田章男氏がドライバーネーム「モリゾウ」を名乗り、自らステアリングを握ってニュルをはじめ国内外のサーキットを走り込んで、国産自動車会社社長としては異例とも言える、驚異のドラテクを磨いてこられたグラスルーツ・レース参戦の歴史だ。
そこに挑戦し続ける理由は、「もっといいクルマを作る」ため。
超絶シンプルな理由ではあるが、トヨタほどの世界的な大会社において、社長自ら鍛錬し追求するということがどれほど大変なことなのか、ちょっと考えてみてほしい。世界中を見渡して、モリゾウ氏ほど声高に「I LOVE CARS!」を世界の中心どころか世界各国で叫び、そして実際にステアリングを握ってクルマ好きを増やす活動を直接行ってこられた自動車会社社長がいるだろうか。
経営論だけでなくクルマの楽しさを体現し、ドライブの喜び、クルマの楽しさ、当時はマイノリティーであったサーキットの興奮を伝えてこられたことに対して、我々が想像する以上に内外の風当たりは強かったであろうことは想像に易い。
しかし、その情熱は組織をも動かし、ほぼ同好会レベルの活動であった「GAZOO Racing」は今、「GAZOO Racing Company」として独立した系譜を持つまでになった。
GRMNはニュル直系スポーツモデルの証
実は、現在この「GAZOO Racing Company」のプレジデントを務められている友山茂樹氏もまた、A80型スープラをゴリッゴリにイジり倒して、今も出勤に使われている(!!)根っからのクルマ好き、スポーツカー好きである。そしてステアリングを握れば華麗にドリフトを決められるなど、実はドラテクも超一流だ。
そんな友山プレジデント率いる「GAZOO Racing Company」が、モリゾウ氏、そして志を共にしてきた仲間とともに作り上げ、磨いてきた技術がダイレクトに注ぎ込まれたモデルが「GRMN」である。
「GR」はGAZOO Racing、そしてMNは「Meister of Nurbrugring」。
つまり、GRMNはニュル直系のスポーツモデル、ということになる。
過去、GRMNシリーズはヴィッツ、86、iQ、そしてマークXの4車種のみ、わずか100台ずつの限定販売(もちろん現在はどれも完売)として展開してきた。その販売抽選には実に35倍もの競争率を誇る応募があったというモデルも存在する。まさにレア中のレア車、レース好きなら見逃すことの出来ないコンバージョンモデルと言えるだろう。
で、ここから本題なのだけど(前置き長くてすみません、ついアツくなっちゃって)、このGRMNに近く、新型がもたらされることが明かされた。
GRMN初の2代目モデル、「マークX GRMN」だ。
今回、プレス陣向けに開催されたクローズド・コースでの試乗会では、なんとこの初代と新型が用意され、なんとも贅沢なことに新旧比較をすることができた。
誰でも質感アップを実感できる4つの進化ポイント
基本性格から見てみよう。
国内のみならず、インポートを見渡しても、【大排気量FRセダン、トランスミッションはMT】な~んていうのは、もはや絶滅危惧種だ。
希少なため、2015年に発売された現行のマークX GRMNですら、当時の販売価格を上回るプライスタグが、中古市場でつけられているという。
新型はその現行型の基本的なコンポーネント(V6 3.5Lのエンジンブロック他)を現行型と共用しつつも、
1.252点ものスポット溶接追加
2.ディファレンシャルギアの最適化
3.レクサス 新型ESにも採用されたKYB製スイングバルブショックアブソーバーの採用
4.ECUとEFIの最適化
など、「ユーザーがすぐに実感することが出来る走りの質感のアップ」が盛り込まれている。
スポーツ性能だけでなく高級セダンとしても素晴らしい
※左:旧型マークX GRMN 右:新型マークX GRMN
インプレッションを述べれば、新旧比の進化は歴然だ。
試乗の順番を現行→新型としたのだが、正直、現行型(初代)の仕上がりの素晴らしさには舌を巻く。3年の月日を経てなお、正確なシフトストローク、ミートの位置、剛性の高さ、トルクバンドの厚さ、どれをとっても称賛に値する。「ああ、ええクルマやなぁ」と、やっぱり呟いてしまう。
しかし、新型はそのさらに上を行くのだ。
300ps越えのGRMNとしてのスポーツ走行にフォーカスした性格以上に、「高級セダン」としての進化がすばらしい。まず、ピットレーンから飛び出し、1つ目のコーナーのターンアウトですでに感嘆のため息が出てしまうくらいなのだから。揺り返しのなさ、ロール値のバランスのよさ、静粛性。この完成度のなんという進化幅!!
もうね、クラス一個上がりましたよ。これ、クラウンも真っ青ですよ。
打点増しの剛性アップはお見事!
その「上質感」に最も貢献しているのは、やはり「252点ものスポット溶接追加」がもたらす怒涛の剛性アップの貢献が大きい。
先代ではアンダーボディーへのスポット溶接追加がメインだったのだが(そしてそれでも十二分に効果を発揮していたのだが)、今回はその打点増しがドアなどの開口部にまで及び、エンジニアいわく「打てるだけ打ってやりました」。はい、お見事です!
調整は微細だが進化幅は大きいサスペンション
さらにKYB製の新アブソーバーもすんごいのだ。
レクサスとはもちろんチューニングを変えていて、独自の微細領域の合わせ込みがされているのだが、インタビューによればその微細領域レベルがマジで微細すぎてビビる。もう数字で言われても私わかんない、というしかないのだが、運転すればイッパツで納得させられる高品質がそこに用意されているから大丈夫!
この進化、わからない人なんてどんなクルマ音痴でもいないって断言しちゃいます。
もしかしたら最後のマークX GRMN!? 発注は急げ!
初代はトヨペット店にて、100台限定で販売された。
新型は、昨年発足したGRモデル販売拠点「GR Garage」専売モデルとなり、大幅に増産されることが発表されている。
とはいえ、これは予想に過ぎないけれど、同社においての同セグメントセダン勢が統合される流れがある中、もしそれが実現してしまったならば、これもまた最後のマークX GRMNになる可能性も極めて高い。
今後買おうと思っても買えなくなるのであれば、発注は急いだほうが吉。そして、絶対に後悔しない仕上がりであることは、私が保証するから!
[著者:今井 優杏/撮影:和田 清志,トヨタ自動車]