国定価格表が呼ぶ憶測…金正恩氏は計画経済への回帰を目指している?

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北朝鮮にはかつて、国がすべての商品とサービスの価格を決めていた時代があった。経済計画を策定する内閣国家経済委員会傘下の中央価格財政委員会がその担当部署だった。

北朝鮮国民は、その部署が決めた極めて安い価格で、食糧や日用品を買うことができた。無料で配給されることもあり、現金がほとんどなくても生きていける社会システムが構築されていた。

しかし、共産圏が没落し、旧ソ連などの友好国から援助が得られなくなったことで、そのような配給システムは崩壊してしまった。1990年代初頭の話だ。

それから20数年。もはや完全に意味を失った「国定価格表」が両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市内の各精米所に貼り出され、その意図をめぐり様々な憶測が飛び交っている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、2002年7月に決められた国定価格表が貼り出されたのは、昨年末のことだった。

1キロの価格は、コメ44北朝鮮ウォン、トウモロコシ24北朝鮮ウォン、小麦26北朝鮮ウォン、豆44北朝鮮ウォン、栄養粉70北朝鮮ウォン、パン粉95北朝鮮ウォン、稲33北朝鮮ウォン、トウモロコシ粉109北朝鮮ウォン、ジャガイモ9北朝鮮ウォンだ。

現在、市場での価格はコメ5200北朝鮮ウォン、トウモロコシ2100北朝鮮ウォン、小麦2000北朝鮮ウォン、豆4000北朝鮮ウォン、栄養粉5400北朝鮮ウォン、パン粉3500北朝鮮ウォン、稲3800北朝鮮ウォン、トウモロコシ粉5200北朝鮮ウォン、ジャガイモ900北朝鮮ウォンだ。市場価格とは、物によっては100倍以上の開きがある。(1000北朝鮮ウォン=約13円)

価格表を見て「あんな値段で物が買えた時代がよかった」という人もいるが、30年前の思い出に過ぎないと情報筋は吐き捨てた。

「国定価格表を貼り出しても、誰もその価格で取引しないので何ら意味がない。市民も気にすらしない」(情報筋)

配給システムの崩壊後、人々は生きていくために市場で物を売り買いするようになり、物の値段は国定価格とどんどんかけ離れていった。なし崩し的に進む市場経済化を食い止めて経済の主導権を国の手に取り戻すために、当局は2002年7月、7・1経済管理改善措置を発表した。そのときに発表されたのが、今回貼り出された国定価格の書かれた表だ。

コメ1キロの国定価格を7チョン(0.07北朝鮮ウォン)から44北朝鮮ウォンに引き上げるなど、価格を「現実化」しようとしたが、この価格こそが現実とかけ離れていたこともあり、目論見は失敗に終わった。

それにもめげず政府は2009年11月、貨幣単位を100分の1に切り下げるデノミネーション(貨幣改革)を断行した。新券交換にあたって、地下経済に蓄積した富を収奪するために新券交換の額に制限を設けた。

その結果、全財産を失った人たちが暴動を起こし、市場からは売り惜しみで物資が消え、餓死者が続出するなど、国は大混乱に陥った。この事件は、北朝鮮の人々にとってはトラウマとなっていて、当局が市場を統制しようとするたびに当時の恐怖が脳裏をよぎるようだ。

金正恩党委員長は今年の新年の辞で次のように語っている。

「内閣と国家経済指導機関は、社会主義経済法則に沿って計画化と価格事業、財政および金融管理を改善し、経済的テコが企業体の生産の活性化と拡大再生産に積極的に作用するようにすべきです」

国定価格表を貼り出したことは、この「社会主義経済法則に沿って計画化と価格事業」に関連することではないかとの見方がある。やはり先述のトラウマがあるため、心配になるのだろう。

しかし金正恩氏は、父親の金正日総書記と異なり、北朝鮮経済を動かす市場への介入、制限、価格統制などをあまり行っていない。それが未曾有の経済危機と社会の混乱をもたらし、体制が危機に瀕することを、知っているからだろう。そう考えると、国定価格の再導入は考えにくい。

「お上(政府)が国定価格の公示を行うことは、市場で決まる『ヤメ価格』(市場価格、日本語のヤミが訛ったもの)で動いている今、話にもならない。中国から輸入される賞品の価格を差し置いて、損をして国定価格で売る人なんているわけない。今は市場が機能して賞品が流通しているから、皆がご飯にありつけている。価格を上げすぎれば売れなくなるから自然に下る。逆に国が価格を下げても商人は聞かない」(情報筋)

国が国定価格表を貼り出した意図は、今のところわからない。