フィリピン潜伏の地面師・カミンスカス操が帰国後逮捕 犯罪者はなぜマニラを目指すのか

地面師だって受け入れてくれる国

昨年世間を騒然とさせた『積水ハウス55億円詐欺事件』、その主犯格とみなされた地面師グループの一人がカミンスカスという聞き慣れない名前の日本人だった。

地面師という字面からして怪しそうな犯罪グループとカミンスカスという得体の知れない人物に当然世間の目は興味を抱いたが、俺はそこをスルーし、主犯格のカミンスカスが浅草のフィリピンパブで夜な夜な豪遊していたという報道にのみ、異常に反応した。

カミンスカス、お前もそうだったのか......

とむしろ、どこか親近感を覚えてしまった。これがピンボケ、あるいはピン中という"ピンパブ狂いという病"に侵された人間の持つ共通のダメさなのだ。そして指名手配されたカミンスカスはマニラに逃避行してしまう。

そうだろうな、仮に俺が同じ立場ならそうするよな。浅草のフィリピパブのねぇチャンが手引きしてマニラに渡ったのかなとか、背後関係を想像して思わずニヤけてしまった。

それにしてもまた、事件にフィリピン(フィリピン女性のことだが)がリンクしてくる。マブチモータ放火殺人事件の犯人小田嶋鐵男(昨年獄中死)しかり、フラワー事件で指名手配されている見立しかり、ここ数年の凶悪事件にまたかよ、と思われる程フィリピンが絡む。

なんで、フィリピン? タイや韓国、中国、ロシア、インドネシアでなく、なんで犯罪者はフィリピンと関わり、かの国を目指すのか?

俺なりの分析だが、3つの要因があると思う。

1 フィリピンパブとの相性の良さ
2 入国がゆるく、コネ次第になんとでもなる
3 不良、犯罪者も白い目でみないお国柄

1はいきなりマニラでフィリピンの魔力を知る日本人、とりわけ不良は少ない。やはりとっかかりはピンパブだ。ピンパブ(ピンスナックも含む)は日本全国に分布し、どんな辺境にも実はある。

沖縄の離島から、北海道の最果てまで、キャバクラはなくてもピンパブは存在する。タイパブや韓国クラブ、中国クラブは東京でさえもう数軒しか見当たらない。だがピンパブは身近に門を開いてくれている。

ピンパブは客層が他の外国クラブよりはるかに敷居が低い。肉体労働系から職業不明、年金暮らしの老人、ジャージの不良。どんな客も受け入れられる。つまり不良にとっては居心地がいいのだ。

おまけに、キャバよりフィリピーナはイチャツキの密着感も高く、女好きな不良にはたまらない空間なのだ。ここで、フィリピンの魔力にまずはまる。おそらくカミンスカスもこうして取り返しのつかないピン中に落ちてしまったのだろう。

また、昵懇になったフィリピーナのマニラでのネットワークも掴むことになる。ここに逃亡の手配師が確保される

2は最近はだいぶ経済発展も目覚ましく、国自体まともになってきたという話だが、かつては入国審査も袖の下でなんとでもなった。15年程前に取材でマニラに行ったが、入国審査からして堂々と職員が金を要求して来た。入国どころか、あらゆる場面で銭がものをいう。

これは不良には一番楽。しかも警察、軍、政治家にコネでも築いてるものなら、背中にモンモンが入ろうが、小指がなかろうがコネの力でなんとでもなる。これはおそらくこの国がどう発展しようが、根本的には大きく変わってないはずだ。

タイや韓国、インドネシアに比べて入国がゆるい。これも犯罪者がマニラを目指す要因だろう

3は、日本のピンパブもそうだが、実にフィリピーナは不良のあしらいが上手い。というよりアウトロー系とか日本では煙たがられる訳ありの人間がむしろ好きなのかもしれない。これはマニラに行くとさらによく理解できる。

大家族で暮らすフィリピン人は未だに圧倒的に多く、兄弟が7-8人はざらだ。そしてその中に、薬中、麻薬の売人、バクラ(ゲイ)、トンボイ(レズ)、身障者。ハンディキャップを背負った身内が必ずいる。

「お兄さん、麻薬の売人、でも優しいよ、お母さん大事にしてるし、今は刑務所ね。でも、早く会いたいね」

自分及び家族に優しければ、そのハンディはまったくマイナスではない。ここに犯罪者は惹かれていき、気がつけばマニラで女の庇護のもと逃亡も可能になる。

マニラの取材中、どうみてもヤバそうな日本のオヤジとアイドル並みに可愛い現地のフィリピーナが仲睦まじくランチをしている光景を何度見た事か。

カミンスカスは2ヶ月の逃亡生活にピリオドが打たれたが、おそらく最後は心を許したフィリピーナと束の間の享楽を堪能したことだろう。

ただし、金の切れ目はとたんに寝返りされることも心して......。(文◎比嘉健二 元「GON!」「ティーンズロード」等編集長 現・V1パブリッシング社長)

© TABLO