ホンダ陣営2019国内ラインアップ変更の狙いとF1への抱負「まずはレッドブル・ルノーの成績を上回ること」【山本MS部長インタビュー】

 東京オートサロン2019で発表されたホンダのスーパーGT、スーパーフォーミュラなどの参戦体制。スーパーフォーミュラではホンダ陣営の全チームでドライバー変更が行われる大シャッフルを敢行し、その反面、スーパーGTでは3チームが継続と小変更にとどまった。ホンダのモータースポーツ部、山本雅史部長はどのような狙いで2019年の体制を築いたのか。そして気になるレッドブルとのF1の進捗について聞いた。

──国内の3メーカーの中で先駆けてラインアップを発表しましたが、スーパーGT、そしてスーパーフォーミュラとどのような狙いがあったのでしょうか。2019年のホンダの体制のコンセプトを教えてください。

「スーパーGTもスーパーフォーミュラも、今はレースもチャンピオン争いも激戦で紙一重の展開ですよね。どちらも一戦つまづいてしまうとシリーズタイトルが遠のいてしまう。去年はスーパーフォーミュラもスーパーGTもホンダはみんながいいレースをしてくれて、最後は僅差で勝ってタイトルも獲れた。そのようなレースなので、ホンダとしては『1台でも多くのクルマ、ひとりでも多くのドライバーがチャンピオンシップを争える体制』として(モータースポーツ部部長に就任してから)この2年間、ずっと考えてきました」

「もちろん、スーパーフォーミュラは今年、クルマがSF19に替わりますし、スーパーGTはエアロが少しアップデートされて2019年を迎えます。そういう意味では本当にストレートに、『1台でも多くのクルマ、ひとりでも多くのドライバーがチャンピオンシップを争える体制』に向けて、少しでもパーセンテージを上げていきたいというのがベースにあります。発表会のあとにメディアの方から『小暮卓史選手はどうしてラインアップから外れたんですか?』と質問がありましたが、もちろん、小暮選手は13年以上ホンダに貢献してくれて、本当に僕にとってもありがたい存在でした。今年に入って先日も彼とは話をしました。今回のホンダとしての意図、方針としては限りなく可能性を広げたいということですね」

──その中で、スーパーフォーミュラはホンダ陣営として全チームで変更が行われることになりました。

「結果として、そうなってしまったということですね。僕と担当で相談をして話をしてきて、最終的に『山本さん、これだと誰も前のチームに残っていませんよ?』と言われて『えっ? 本当?』と僕が驚いたように、結果論としてこのような体制になりました。先ほど申しましたように、ひとりでも多くチャンピオンシップを争える体制を作ろうとした結果、今回のラインアップになったわけです」

──それでも、山本尚貴選手はチャンピオンを獲得した翌年にチームを移籍することにりまして、なかなか前例のない形だと思います。野尻智紀選手とのスワップには驚きました。

「実は、今だから話せることですけど去年の8月の時点で尚貴とは話をしていました。当然、チーム側とも話はしていました。その時にはチャンピオンを獲っても獲らなくても、SF14のマシンは2018年限りで替わり今年からSF19で新たな出発となるわけなので、移籍をすることを前提として尚貴とは話をしていたんです。それでもチャンピオンを獲ったあとには周りからいろいろ意見もありましたが、ホンダにとっても、そしてドライバーたちにとっても、チームを代わることによってクルマ作りの面でチーム力も上がると思っています。そこが僕の一番の狙いでもあります」

「今のスーパーフォーミュラはワンメイクといえども各チーム、各ドライバーによってクルマ作りの面がかなり方向付けられています。それをドライバーを入れ替えることによって掛け算で違う方向の可能性が出てくると思っています。ですので今年は全員が楽しみですし、DOCOMO TEAM DANDELION RACINGの尚貴とTEAM MUGENの野尻智紀、そこに福住仁嶺がどう絡んでいくか、本当に楽しみにしています」

──たしかに、どのような展開になるのか予想できないワクワク感はありますね。

「僕自身、そして担当とも話を進めてきていて、どのドライバーにも勝てるチャンスがありそうな魅力的なラインアップにすることができたと思っています。今年のスーパーフォーミュラのホンダ陣営は面白くなるんじゃないかなと思っています」

■スーパーGTのラインアップの意図と、レッドブル・ホンダとしての2019年の山本部長の抱負

2019年のスーパーGT、そして国内2輪などの参戦体制を東京オートサロン2019の会場で発表したホンダ

──そのスーパーフォーミュラの大きな変更に比べると、スーパーGTの500クラスは5チーム中2チームの小変更に収まり、3チームが継続となりました。

「そうですね。やはりスーパーGTは発表後にJB(ジェンソン・バトン)が話していましたが、GTはタイヤにエンジニア、そしてチームメイトとの相性とセットアップの方向性などいろいろな要素が絡んでくるので、それらを考慮してのラインアップになりました。GTは相性が合わなかったりチームメイトの経験の差によっては、ドライバーが1年を棒に振ってしまう可能性もある。いろいろ新しいドライバーからの売り込みや推薦も受けましたが、GTに関しては実際にそのドライバーの走りを見て特徴がわからないと僕も判断ができないですね」

──海外カテゴリーについては、松下信治選手(FIA F2参戦)、角田裕毅選手(FIA F3参戦)については予想していましたが、名取鉄平選手の抜擢(FIA F3参戦)には驚きました。

「角田については昨年夏のハンガリーでのF3テストに参加して、(レッドブル・モータースポーツアドバイザーのヘルムート)マルコさんが角田をべた褒めしてくれて、『山本、角田にどれくらいF3の練習をさせたんだ?』と聞かれたので、『まだ2回しか乗っていない』と答えたら『嘘だろ!?』というくらい驚いていました。マルコさんは角田の走りを初めて見たときから可能性を感じていた。名取に関しては今年、FIA F4に参戦してタイトルを狙う可能性ももちろんありました(昨年ランキング2位)。僕もずっと迷っていたんですけど、チーム側からの誘いもありましたし、名取にはもっと新しい経験をしてもらいたいと思って海外に挑戦してもらうことになりました。松下はもう、すべてを理解した上で戦いに行くので、あとは頑張ってもらうだけですね」

──海外への参戦が充実してきたなかで、国内の全日本F3はホンダからの参戦が1台のみ(大湯都史樹)になります。

「今年の全日本F3は過渡期になりますよね。2020年から世界的にF3カテゴリーが変化するので将来的にどうなるか。社内でもいろいろ議論しましたが、1台の参戦となりました。これは全日本F3に力を入れる/入れないの問題ではなくて、ドライバーが成長できる場としてもっとも適しているのはどこかを判断の基準としています。FIA F4に関しても今回、HFDPとして1台(三宅淳詞)発表しましたけれども、コチラレーシングとしては3台の参戦を予定しています」

──国内、若手の参戦が発表されましたが、やはり気になるのはF1。レッドブル・ホンダとしてまずは現在の状況が気になるのですが、新車の開発は順調ですか?

「順調ですかと聞かれても(苦笑)、僕も技術的な細かい部分まで熟知してるわけでもないですし、そんなに頻繁に連絡しているわけではないので(笑)。それでも基本的にレッドブルとはいいコミュニケーションが取れていますし、ほぼほぼ、開発は予定どおり進んでいると聞いています」

──昨年12月のスーパーフォーミュラの鈴鹿テストで来日したエイドリアン・ニューウェイはその後、栃木のHRD Sakura研究所を訪れたと聞きました。

「Sakuraにも行きましたし、その後、急きょ青山にも来てくれました。『車体はこのような形で開発しているよ』とか、コミュケーションもよく取ってくれます。やはりニューウェイさんが面白いのは『山本、あのSF14のマシン、もっといいマシンになるぞ』と話してきて、いろいろ話を聞きましたが、最後は僕が『その開発は全部レギュレーション違反だから!』と(笑)。(※スーパーフォーミュラの使用マシンはワンメイクで開発できる部分はほとんど認められていない)。さすがニューウェイさん、SF14のクルマについて興味が尽きないというか、気になるところが多いらしくて、たくさん質問されましたね(苦笑)」

──今年はそのレッドブル、そしてトロロッソと4台でのF1参戦になるわけですが、2019年のF1に関して、山本部長としてはどのような目標、抱負を持っていますか。

「僕はできないことを言ってもしょうがないし、できないことをやろうとするとホンダのスタッフもレッドブルもトロロッソもお互い、いい結果にはならないと思っています。ですので、目標はできることの最大限、できないこととの境の紙一重の部分をやりきれればと思っています」

「その中でもカッコイイと思えることは、まずは去年のレッドブルとルノーが組んだときの成績を上回ることですよね(昨年4勝、419ポイント/チームランキング3位)。そうすると、ホンダが着実に伸びているというホンダ単体での評価につながる。もちろん、レッドブルも今年、空力レギュレーションが変わって車体も新しくなるわけですが、それは置いておいて、純粋にホンダとして成長していかないといけない。それが一番のキーだと思っているので、ファンが見てわかりやすい明快な指標として『レッドブル・ルノーのときよりもレッドブル・ホンダの方がいい結果を残したね』と言ってもらえるような1年にしたいと思っています」

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