2020年東京五輪は「スタートです」DeNA岡村球団社長が語る新たな球団の在り方

新たな球団の在り方について語るDeNA岡村信悟球団社長【写真:荒川祐史】

横浜市と連携して目指す「横浜スポーツタウン構想」

 2018年に横浜スタジアムは満40年を迎え、2019年は球団創設70周年目を迎える横浜DeNAベイスターズ。節目の年が続くDeNAは今、新たな球団・球場の在り方を目指し、横浜にさらなる賑わいをもたらす「横浜スポーツタウン構想」や、「Sports×Creative」をテーマとした複合施設「THE BAYS」を始動させるなど、さまざまな取り組みを行っている。既成概念にとらわれず、次々と新たな仕掛けに取り組む根底には、どんな理念があるのか。その陣頭指揮を執る岡村信悟球団社長に話を聞いた。

 DeNAは2012年末より「コミュニティボールパーク」化構想を掲げ、横浜スタジアムと協力しながら、幅広い層の観客動員に乗り出した。座席の色をチームカラーの「横浜ブルー」に統一したり、「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」「YOKOHAMA GIRLS☆FESTIVAL」など各種イベントを開催したり、さまざまな取り組みを行った結果、子供や女性ファンなどの獲得に成功。横浜スタジアムの経営権を取得した2016年に経営が黒字に転じると、2018年シーズンは観客動員が球団史上初の200万人を突破し、球場の稼働率は97.4%を記録するまでになった。

 横浜スタジアムで生まれた盛り上がりを、野球界という枠から飛び出して、地域の発展につなげたい。そんな思いから生まれたのが「横浜スポーツタウン構想」だ。開港の街・横浜は、近代日本の発展を牽引してきた街。そのアイデンティティーを引き継ぎながら、スポーツを通じて新たなライフスタイルを創造することを目指す。

「横浜は開港以来、海外の文化と日本が触れ合う場所だったんです。港の周りには外国の方もたくさんお住まいになった。その外国人(彼)と我々日本人が共存する公園『彼我公園』が、実は横浜スタジアムがある横浜公園の前身なんです。そこに外国人がクリケット場を建て、それが野球場になって、ベーブ・ルースやルー・ゲーリックら名だたる外国人選手がプレーした。近代日本の歩みとともに日本がスポーツという概念を取り入れて、消化し、日本の文化になって根付いたものが野球。そして、同じ坂の上の雲を目指して高度経済成長期を進んだ時、国民に親しまれたプロスポーツがプロ野球だったんですね。

 さまざまな形で近代日本を牽引してきた横浜という場所から、今までの歴史と伝統を踏まえながら新しい文化を作っていく。街の中にある横浜スタジアムからコンテンツとしての野球やスポーツを配信するだけではなく、人間が人間らしく生きていける都市空間を創造したり、生活の有り様をもっと豊かにするようなところで貢献できるんじゃないかと思うんです。そして、作り上げた文化を次世代にバトンタッチしていく。それが『横浜スポーツタウン構想』につながっていくわけです」

ベイスターズやハマスタを出発点とした街づくり

 グローバル化やIT化の中で社会が成長した20世紀。これを土台とした21世紀は「地域アイデンティティやローカル化」や「人間らしさ」をキーワードとした成熟社会となりつつある。その中でベイスターズ、そして横浜スタジアムが野球という枠を超えて、横浜や神奈川に住む人々にとって日常の風景として刻み込まれることを目指すという。

「横浜に支えられ、横浜とともにあり、横浜の誇りとなるベイスターズやハマスタ(横浜スタジアム)でありたいですね。例えば、レアルマドリードやヤンキースは世界的に有名ですが、それぞれマドリードやニューヨークという街を象徴する存在。地域のアイデンティティーやローカルと分かちがたく結びついている。東京にカープ女子がいても、カープはやっぱり広島を象徴する存在であり、独特の雰囲気を持っていると思うんです。

 横浜にも当然それがあって、近代日本を牽引してきた土地柄が色濃く反映されたベイスターズというものができてくる。チームを応援したり、ハマスタでのイベントに参加したり。ベイスターズやハマスタを出発点として、生活や記憶を含めた個人史、家族史を豊かにできるんじゃないかと思うんです」

 日本での野球は約150年の長きにわたり、人々に親しまれてきた。すでに文化として根付いており、新たな市場開拓は困難にも思えるが、岡村氏は「文化としての価値を高めればいいんです」と言い切る。

「これからスポーツは個性や多様性の時代。サッカーもある、バスケットもあるという中で、文化として野球を伝承する場作りを、私たちはしているんです。バスケしかしない、サッカーしか見ない、という人でも、心のどこかにベイスターズがある。学校給食として選手寮である青星寮の人気メニュー、青星寮カレーを提供したり、ベースボールキャップを無料配布したりすることで、ベイスターズを感じてもらえれば。コアなファンで何十試合と見に来られる方もいる一方で、3年に1回くらいの試合観戦の方でも『あの時、筒香選手が最盛期で目の覚めるようなホームランを打ったよね』というのが、心に刻み込まれればいいと思うんです。

 市場が成熟していたとしても、野球が伝統的な文化としてより風格を増していけばいい。私たちは球団と横浜スタジアムを先人から引き継ぎ、お預かりして、次世代に引き継いでいくことを役目としています。2000年代初頭に野球人気が低迷したと言われた時は、チームとファンの間をつなぐパイプが根詰まりを起こしていて、それぞれが持つエネルギーが上手く交流しなかったんだと思います。ですが、互いのエネルギーが相互交流すれば、もっと大きく熱を高めていける。そこで我々ができることは、子供たちへ給食やベースボールキャップを象徴する提供すること、ドキュメンタリー作品『FOR REAL』を公開してチームの真実の姿を見ていただくこと、オリジナルビールを開発したり、野球ファン以外でも楽しめるグッズを販売するなど、両者間のパイプをメンテナンスし、より太くする作業なんですね」

2020年東京五輪は「まったくゴールのイメージはない。スタートです」

 球団や球場に新たな価値を生み出すため、2011年に球団を引き継いで以来、さまざまな取り組みを続けてきたDeNA。2020年の東京五輪では、横浜スタジアムで野球の決勝戦などが行われる。栄えある大会に向けて、球場は改修工事の真っ只中だが、2020年はゴールではなく「出発点でしかないですね」と話す。

「政府の計画では、2015年から25年まで10年掛けてスポーツ産業を5.5兆円から15兆円に、約3倍にしようと言っています。そのちょうど真ん中が2020年。そこにオリンピックという国民的行事があるわけですが、これをきっかけに街を変えていこう、ライフスタイルを変えていこう、スポーツ観戦のあり方を変えていこう、といろいろ出てくると思うんです。

 だからこそ、まったくゴールのイメージはないですね。スタートです。横浜で言えば、ハマスタ周辺では2020年に横浜文化体育館のサブアリーナ、武道館が完成し、2024年にはメインアリーナができる。2025年には関内駅前にある現横浜市役所の跡地開発が動き出しますし、街がこれから作られていくところ。その中にハマスタがあって、我々のベイスターズがあるとなれば、むしろ2025年や2030年が楽しみで仕方ないです」

 伝統や慣例が重要視される野球界の中で、一歩先の未来を見据え、新しいことにチャレンジし続けるには勇気がいるようにも思える。だが、そうすること自体が企業の宿命であり、不可避なものだという。

「球団と球場が核になって、アンモナイトのような巻き貝みたいに大きくなりながら、未来へとつながっていく。そんなイメージなんです。毎年同じことの繰り返しでつなぐこともできるけど、企業というのは新しい価値を創造するための装置であり、新しいことを生み出すのが企業の宿命。DeNAという企業自体が成長期から成熟期に入るところでまだまだ成長すると考えると、新しいことにチャレンジすることは不可避なんですね。球団と球場、街、その他のスポーツ、ライフスタイルと、さまざまなつながりが持てると考えると、可能性は広がります」

 何よりも、そう考える根底には自分たち=球団に対する期待感があるからだ。

「2018年は球場の稼働率が97パーセント以上で100パーセント近かったわけですが、これを毎年やるのかって考えると、すごい閉塞感に囚われると思います。でも、リーグ4位だったチームはもっと強くなるでしょうし、毎年のイベントを見直せばもっとお客様にも楽しんでいただけるはずです。オフィシャルホテル提携だったり、追浜のファーム施設の建設だったり、新しい事業を手掛けてきましたが、本質的には我々が満足できているのかということだと思います。昨季、お客様は203万人お越しいただきましたけれど、チームが4位だったことを考えると、私たちがお客様に借りを作った状態だと思うんです。もっと喜んでもらえるでしょ、もっといいものを作れるでしょ、もっと斬新にやっていけるでしょ。そういう自分たちに対する期待感でもありますね」

 少し先の未来を見据え、つなぐ球団経営は、チーム編成の面でも存分に発揮されている。(次回に続く)(佐藤直子 / Naoko Sato)

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